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149話 アルブラ動乱 幕間2


■エルングラ公国  公都リ・ゼルロア



「何が起きた」

 約十日前から始まった南部からの侵攻により、国境から公都へ通じる街道にあった街々は既に敵の手に落ちた。そして進攻してきた軍勢は公都近くの丘に陣取っている。

 国境から普通に移動しても一週間はかかるであろう行程を、侵攻しながら十日で公都に到着するというのは常識外と言っても過言ではない。


「何故こうなった」

 北から帝国が攻めて来るのであればまだわかる。だが、南部に位置する辺境国の蛮族共が公都(ここ)まで攻めて来るというのはあり得ない話だった……今までであれば。



『確かに個々での戦闘力では蛮族(奴ら)に勝てない。だからこそ、蛮族(奴ら)が侵攻しようなどという気を起こさせないよう、堅固な防壁を国境沿いに設けてあった。

 それに南部からここまでに至る街々にもそれぞれ高い城壁と深い堀を設けてあり、防御に優れた要塞と化すことで籠城戦が出来るようにしてあったはずだ。


 もちろんこれらは白兵戦における攻城戦に対する防御策であり、PAで攻められた場合には無意味に近い。だが、奴らのPA戦力など白兵戦でのソレと比べ大したものでは無いのが周知の事実であり、防御に優れた我々のPAを街々に用意して置くことで、万が一奴らがPAで攻め込んできたとしても、そう簡単には突破出来ないはずだった』


 ……だが、



「現状はどうなっている」

「はい。南部から進攻した軍勢は公都の南に位置する【ファルカン丘陵】に陣を敷き、食事を摂りながらこちらの様子を伺っている模様です。

 軍勢の内容はPAを主軸としているであろう兵が約二千と戦闘用に改修したと思われる自律稼働型のPAPが約千、そして白兵戦の武装をした兵が約三千あまりかと」


「僅か一万にも満たない軍勢が南部から侵攻し、数日で途中の街々を陥落させながらここまで攻めてくるとはな……そうそう考えたくないものよの」


『もっとも、戦闘に改修した自律稼働型のPAPなぞ聞いたことが無いから、戦力としては普通に数えるだけ無駄なものであろうて。

 そもそも自律稼働型のPAPなどという高い技術をあの国が開発したとはとても考えられない。裏にどこかの国がいるのは間違いないだろうて。帝国か、もしくは……』



「陛下! 今ならまだ間に合います! 早くここから退避を」

「どこへ逃げろと? どこに逃げる場所があると? 公都も含め公国に住まう民達を捨てて落ち延びろというのか?」

「で、ですが……」


 今、城にいる公国兵と所有するPAであれば、暫くは持ちこたえることも出来る。もっとも、それだけ持ちこたえたとしてもその先に備えた手など何も無い。



「公都にある戦力は五万! 一万にも満たない独国の蛮族なと我が精鋭で全て叩き斬ってやりますぞ!」

「一万に満たないとはいえ、ただの蛮族の軍と侮っておると足元を掬われるぞ?」


 単純な兵の数で勝てるのであれば、誰もここまで慌ただしくしておらんだろうて。



「他都市へ上げた狼煙の方はどうだ」

「はい、コチラからは上げておりますが、未だ中継地から返信の狼煙は……

 ですので、我が国でも有数の戦力を多く持つダ・リガドや対帝国の前線にあるビ・ディンなどの都市へは伝わっていないかと……」

「既に中継地は押さえられている、か」


「決死隊を中継地に送ってみますか?」 

「そうだな……例え一番近い中継地を奪還し狼煙を上げることが出来たとしても、更にその先にある中継地を押さえられてしまっていれば無駄になるかもしれないがな……

 だが、やるだけの価値はあるかもしれぬな。有志を募っておいてもらえるか」

「はっ!」


 相手の手の内かもしれないが、やれることはしておくに越したことはないか。



「ええい! 要請を出した王国や首長国の援軍はまだか!」

 軍を管轄する将軍が苛立ちながら吐き捨てた言葉が広間に響く。


『ここまで用意周到に攻め込んできた奴らだぞ? 近接する隣国の都市に対し、簡単に援軍を出させないよう何かしらの手を打ってあるのは確実だろうて』

 皆、口にしなくてもそんなことぐらいはわかりきっている。故に、ここから退避しろと進言する臣下の言うことも当然のこととは思うが、そういった逃げ道すら容易に存在しないのもまた道理だろうと結論に至る。



「放った斥候から詳しい情報は入ったか」

「はい、敵陣にいたPAについてで。

 あくまで視認できるレベルではありますが、あの場にいたPAの多くは独国の紋章が付いたものですが、その他に紋章無し(はぐれ)のPAや他国の紋章が付いたPAもいたとのことです」

「他国の紋章が付いた状態……普通に考えれば傭兵や傭兵崩れだけではなく、近隣諸国も協力して攻めてきたということになりますが……」

 宰相が青ざめた顔でこちらを見る。


「ははは、本当に近隣国が攻めて来ていたならば、こんな数で済まんだろう?」

「た、確かにそうですが……」



「独国以外、どこの国のPAが多いと聞いたか?」

「はい、ヤ・ガンダの街から撤退してきた兵の話では、街に攻めてきたPAには帝国の紋章付きが多かったようです。ですが、その他にも首長国や連邦、皇国や王国の紋章もあったと」


「ふむ……普通に考えれば条約違反の内容となるが、それらのPAが各々の国から離れたばかりであったり、もしくは独国の支配下として加わったばかりで紋章の修正まで間に合っていないということなのだろう」


『本来ならば許されざる行為となるが、種々雑多の条約・盟約の間隙を縫った策か』


 そんなものを容易に打てる慧眼。そしてこれだけのことを隠密裏に完遂してしまえるだけの技量。

 用意周到に行われたであろうこれらのことを確実に実行し、辺境の地からここまで一気に侵攻するだけの手筈を整えられる者となれば……


『どう考えても並大抵の者では出来ないであろうことをやり遂げている。

 だが、これだけ細やかで繊細な物事を独国の奴らが考えられるとは思えんし、奴らのみでこなしきれるとも到底思えん』


 【見えぬ力】というよりは【我々を取り巻く意図した流れ】が見えなかったか。やはり歳はとりたくないものだな……



『打って出るか……籠城し、来るかわからぬ援軍を待ちながら奴らの兵糧が尽きるのを待つか……』


「陛下、どう致しますか」

「何にせよやるしか無かろうて、奴らもまたそのつもりでいるのだろうからな」




幕間二つ目……

本当は一つにまとめたかったのに書いているうちにドンドン長く長く……


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