147話 アルブラ動乱11
『そうだな……私がいうのもアレだが、リアの言う通りアルブラの兵は帝国とも十分に渡り合えるだけの力は持っている。そんなアルブラの兵を凌駕する屈強の者達となれば、ある程度は限られる。
だが、さっきの防衛システムの話ほどではないにしろ、その可能性も極めて少ないというのが私の感想だ』
あ、やっぱりそんな人達はいるんだ……でも、可能性が極めて少ないって?
『一つは帝国の西に位置するダズル首長国の民。あの国は獣人もしくは獣人とのハーフが多く、一人一人が一般的な人とは異なるレベルで力を持つ場合が多い。
リアの周りであれば、ハルがあの国の民だから想像しやすいと思う』
なるほど、ハルを思い浮かべれば良いのですね……ハルと同じような強い・ゴツイ人達が多いなんて、なんだかすっごい国のような気がしてきた。
『異邦人であるハルですらあれだけ強いのに、この世界における生粋の住人ともなればハル以よりも強い人達がいてもおかしくないような気がしますね』
『ああ、実際にあの国の住人には強い奴らが多い。過去、私が手合わせした中にはハル以上に感じた者もいたぞ?
……あのハルよりも強いとかって、ちょっと想像したくいないかも。
『ただし、ダズル首長国は王国と同盟を結び、他の同盟国と共に帝国と共闘している仲だ。そういった同盟に影響が出るようなリスクを取ってまで、アルブラに侵略する必要性は限りなく少ないと思う』
『なるほど……』
うーん、確かにこの可能性は無いかなぁ。
『あと考えられるとすれば、独立国家ロイゼンの住民ぐらいだろうか』
『独立国家ロイゼン?』
ちょっと聞いたことが無かった国だけど……どこだっけ?
『独立国家ロイゼン、通称【独国】と呼ばれる国だ。
地理的にはアルブラの西隣に位置するエルングラ公国、その南にある荒涼な地に建国している小さな国だ。閉鎖的な国民性もあってか王国を含め、どの国とも同盟などを結んでいない事からも、文字通り【独立王国】と呼ばれている。
まぁ荒涼な土地とはいえ、その下には豊かな資源が眠っていると昔から言われており、昨今では君たち異邦人の増加によってもたらされた知識や技術が活用され始めたと聞く。
今後あの国の国力は飛躍的に向上していくだろう』
『そんな国があったんですね……』
最初から王国に入ることにしか考えていなかったから、他国の事って思ったよりも見てしなかったかも。
『ただ、独国の住民達は我々普通の人とは異なっているところがある。それがプラスでもありマイナスでもあるのだがな……』
『普通の人とは異なるって……なんだか、かなり特殊な言い回しですね』
わたしの返答に対し、ファナさんはやや困ったというか不思議な表情を浮かべる。
『彼らは独国の住民達は【亜人】と呼ばれる特殊な人種だ』
『亜人ですか……』
なんだろう、ここに来て新しいワードだけど……このゲームをやっている以上、本当は知っていないといけないような気もするけど、正直言ってこれも良くわからない。
『人に獣の因子を持つ人種が【獣人】であるのに対し【亜人】は人に魔物の因子を持つ人種だと言われている』
『人と魔物!?』
今まで会ったことが無いからわからないけど、【人と魔物の因子を持つ人種】という言葉だけで物凄く強そうというか、凄いような雰囲気を受ける。
『人としての器用さよりも、魔物の因子から受け継がれた筋力や魔力といった【個の力】に秀でた者が多いのが特徴的だ。その強さは我々通常の人間とは一線を画すレベルと言っても過言ではない。
もっとも、その強すぎる力の影響からかPAとの同期性に障害が出やすいこともあり、PAを操作することを不得手にする者が多く、PAの使い手としての高い技術力を持つ者が少ない。
それもあってか独国ではPAでの戦闘レベルが低く、敢えて個々における戦闘……まぁ所謂肉弾戦というか、そちらにばかり傾倒する者も少なくない』
『なるほど、そういった特別な力を持った人達なんですか』
それだけ特徴がある人達ということであれば、多分わたしはこの世界に来てからはまだ会った事が無いと思う。でも、これだけ聞いてプラスの面ばかりが目立つけど、マイナスってPAの操作ぐらいじゃ?
『いや、PAの操作性に対する同期性についてはマイナスとは数えていない。それよりも難し面があってな……そちらの方が世の中一般ではマイナスとされている』
『難しい面?』
『彼ら独国の住民達と我々王国の民も含め、今まで他のどの国の民達も彼らと手を携えようとして来なかった』
『どうしてですか?』
『差別では無いのだが、その圧倒的な強さを身に着けた対価とも言うべき影響もあってか、彼らは魔物に近しい【気】や風貌を持っているものが殆どだ。故にその容姿に苦手意識を持つ者や圧倒的すぎる力に対し恐怖を覚える者が少なくなくてな……
私は個人的な友人もいることから何とも思わないが、どうしてもそういう目で見てしまう者が多いのが実情だ』
強すぎる者へ対しての畏怖や恐怖、そして自分たちとは異なる風貌。そういったものが壁を作る……どこにでもある事だとはいえ、どうしても悲しい気持ちになる。
『ま、そんな国でもある独国がアルブラを侵略するのは難しいだろう。いや、難しいというよりも物理的に無理と考えた方が無難だな』
『物理的に……あ、独国からアルブラへ侵略しようとしても間に公国があるから?』
『そうだ。独国はどことも同盟を結んでいないことから、侵略を目的とした進行をすれば王国以前に公国がそれを認めないはずだ。
そしてそんなことがあれば、同盟の条約により公国から王国へ連絡が入る仕組みにもなっているだろう。だが、現状ではそんな知らせは受けていない』
となると、他にどんな事が考えられるのか……
『というか、捕虜とかいないんですか?』
獣人にしても亜人にしても、捕まえることさえ出来れば素性がわかるような。
『ああ、我々もそれは考えていたのだが……彼らもそれなりの覚悟を決めているのか、捕虜となりそうな状態に陥ると迷うことなく自爆する』
『自爆!?』
『それこそ何一つ証拠を残さないどころか、周りにまで損害を与えるほどにな』
自爆までしてアルブラで戦う理由がある……その人たちはどんなレベルの覚悟を持っているというのよ。それこそ狂信者とか新出の軍団とか??
『まさか第三の勢力とか、新手の宗教団体とかってことは無いですよね?』
『無いとは思いたいが……』
不安な考えを一掃できない表情のファナさんなんて見た記憶がない。
これからもまだ何が起きるかわからない先が見えない状態に対し、ファナさんだけではなく、わたし自身もどこからか感じる寒気にも似た何かに不安を覚えるのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ちょっと月末に向けて仕事が立て込むとういうか、やらなければならないことが立て続けにあるので、次回の更新が予定通りできない可能性があります。
なるべく頑張ってみますが、遅れた際には生暖かい目で見守っていただけると幸いです。
ちょっとがんばれ自分!




