144話 アルブラ動乱8
※18/08/20 一部修正いたしました。
「ああ、こんな事はあり得ないはずだ……普通であればな。だが、私はリアの言うことを信じる。
しかし、私以外の者がこの写真を見ても信じることは限りなく少ない」
「えっ、そんな」
そうファナさんに返答したところで廊下は行き止まりとなり、そこには過去に入った部屋とは異なる重厚な扉が。
「リアの主張はわかっている。しかし、この中にいる皆にはわかってくれるかどうか……」
「皆に?」
「とりあえず、続きはこの中でお願いするよ」
コンコン
「失礼します。昨日の件について報告したいと冒険者が来ました」
ガチャ
「し、失礼します」
扉が開く前から感じた威圧に少しだけビクつきながら中へと進む。
バタン
「うわっ……」
扉が閉まり、会議室にいる全員の目がこちらを向くと扉が開く前で感じた威圧とは比較にならない圧がわたしを襲う。
『えーっと、これは一体……』
通された部屋は会議室のような場所であり、中央に置かれた大きなテーブルの両端には見ただけでも貫禄を持った人達がそれぞれ十人ほど座っていた。
そして別のテーブルには
「あら〜リアさんでしたか〜」
中央には疲れたつ顔のティグさんが。そして、
「あっ」
「……何のようだ異邦人が」
大きなテーブルの片方に陣取っていた偉そうな人達の中にグーデル神官長の姿があった。それとは別に、
「ファナ嬢、そのお嬢さんが何かあるのかね?」
こちらを見てそう問いかけた恰幅の良い男性はグーデル神官長とは真逆の位置に座り、興味無さそうにこちらをジロリと見てから再びティグさんの方へ向きを変え話しかける。
「ティグ様、繰り返し言わせてもらうが我々としては真実をハッキリさせる為……そこの神官長の御託に付き合わず、神殿を始めとした貴族側の潔白を証明さえしてくれればそれで構わない」
この人を見たことは無いものの、先程聞いたファナさんの話からおおよその検討はつく。
『今この場は【革新派】【拒絶派】【融和派】それぞれの重鎮が揃っている。議論は所属不明の集団による進攻、そしてPAP暴走の件とダラス代表襲撃についてだ』
『えっ?』
いやいやいや、ちょっと待って!?
ファナさんはさも当然といった感じで説明してくれたけど、わたしとしては昨日の事を説明に来ただけのつもりが、なんだかとんでもない場に連れて来られてしまったわけで。
『ファ、ファナさん! な、なんでわたしをこんな場違いな場所へ!?』
『いまアルブラにいる異邦人の冒険者の中で起こっている様々な件に接触があって、尚且つ私や母上の知り合いということになるとリアしかいなくてな。
それにさっきの写真についても話すべきだと思うから、私としてはちょうどいいかと思ったのだが?』
『か、勘弁して下さいよぉ……』
いきなりテンパりそうな舞台に立たされ、わたしの頭はパニック一直線です。
ファナさんが言うのももっともな気がしないでもないけど、さすがに昨日のことをファナさんに報告するレベルでしか考えてなかったことから、急にこんな場所へ出されると心の準備というか何と言うか、正直なところイキナリすぎて頭が上手く回らない。
『と、とりあえず深呼吸してから』
すぅー……はぁー……ん?
「あれっ」
今の話だとこの場にはアルブラにおける重鎮達が揃っているはず。なのに、
『トム店長が……いない』
「あら、やっぱりトムさんがいないのが気になります~?」
「え、ええ……」
わたしが誰かを探すほんの少しの素振りを見ただけで察したのか、ティグさんがニコニコとした表情のまま聞いてきた。
でもニコニコという言葉でティグさんを表したものの、その下の感情が違うものだというのは薄っすらとだけど見え隠れしている。
『アルブラにおける重鎮と呼ばれるような人達がいるような大事な席で、文字通りアルブラでのバランサーとも思われるトム店長がこの場にいないなんて……やっぱり何かあったんじゃ』
結局、先日ログインした時から今日まで、わたしも自動生活のわたしもトム店長には会っていない。それが意味することって、つまり……
「トムさんならお店にいると思いますよ~今回の件についてはとりあえず静観されるとのことで話を聞いていますので~本当はこの場には来て欲しかったんですけど~」
「えっ、そうなんですね! はぁ、良かった〜」
会えていなくても無事と聞いて少しだけホッとする。
「でも、来て欲しかったのも本当ですよ~」
「そ、そうですよね」
『そういえばダラスさんと話していたけど、それがあって来れないのかな……』
ダラスさんがトム店長に話していた事を思い出す。
でも、とりあえず無事だったようで一安心。
「で、貴様は何の用でここに来た? 今ここでは街で起こっている騒ぎについて話し合っているところだ。貴様のような部外者が口出す場面なぞないぞ。
そもそも、今回の混乱も貴様らが何か裏で動かしているのではないかと私は見ているぐらいだ」
「えーっと、貴様らがって……異邦人がアルブラで何か事を起こしている、と?」
わたしとティグさんとの会話に、横からグーデル神官長が口を挟んでくる。
というか、いきなりこんな感じで言われると正直ムッとするんですが。
「そこまでは言ってないがな。そう思われても仕方なかろうよ」
「どういう意味か聞いてもよろしいですか?」
あまりにも唐突な意見に思わず聞き返す。
「元々PAPは手動だったことは知っているかね?」
「はい」
「なら、PAPが自動で動かすことが出来るようになった経緯に異邦人が深く絡んでいる事。
もっと言えばダラスへPAP自動化へのコンセプトを説き、その開発に進んで協力したのが貴様ら異邦人なのは?」
「詳しくは聞いていませんが、トム店長から経緯については軽く伺っています」
もっとも、トム店長から聞いた話はあくまでPAPの自動化に愚者人形の脳を使っているという話と、何らか協力関係にあった異邦人の冒険者が関わっていたということまで。
「そんな曰く付きのPAPが暴走する……
愚者人形から抜き出したモノを使ったPAPなど外道の法であり、故にいつ何時異常行動を起こしても不思議では無い代物だったということだ。
今回のも、PAPが暴走した責をありもしない犯人を仕立て上げることで我々に押し付け、自らが起こした問題をこちらに擦り付けようとしているのではないかね?
だから冒険者……異邦人がこの世界に来ることに対して私は賛同しかねるのだ。異邦人など世界に混乱を引き起こす、火種を持ち込む厄介者でしかない」
強い拒絶感を含んだ言葉に対して頷く人も数名。
『うーん、最初から犯人を決めつけているというか、最初から異邦人を問題視しているから結論もそこに結びついちゃってるから話にならないし』
色々と多難な状況が待ち受けているようで。はぁ……
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回も週一、来週の月曜 8/27 予定です。
よろしくお願い致します。




