139話 アルブラ動乱3
ガキン!
工作用PAPが振り回していた配管を右手の十手で受けると、弾き返す一連の動作から左手に装備いている十手で鋭く突きを入れる!
ズゴッ
中枢部分を貫かれた工作用PAPは配管を手にしたまま動かなくなり、そのまま崩れ落ちるように倒れていく。だが、
ブォン
倒れた工作用PAPの背後に隠れ、もう一機のPAPがこちらに向かって突撃をしてくる!
「それは……」
その姿を視界に捉えた瞬間、倒れていたPAPの残骸をおもいっきり蹴り飛ばす!
「お見通し!」
ガコン!
向かって来ていたPAPに残骸が命中すると、残骸もろとも廃墟に吹っ飛び、一緒に沈黙する。
「ハァ、ハァ……」
既にハマルの周りには数え切れないPAPの残骸が。
『ほんと、どんだけ湧いてくるのよ……』
十機までは数えていたけど、少なくとも二十機どころか三十機以上は倒しているはずよね。
……はぁ、こんなにも集まってくるなんて、間違いなく愚者人形のスキルをにあった【共有】が、自動化されたPAPにも反映されているってことだと思って間違いないと思う。
『トム店長に言われて愚者人形の事を調べておいたから、【共有】を事前の知識として入手しておいたのは良かったかも』
じゃなければ、何機も出てくるこの状態に気が枯れていたかもしれない。
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『折角だからオメー、愚者人形の事を調べとけ』
『えぇぇ、トム店長の話だと気味が悪い魔物なんですよねぇ……あんまり見たく無いかな~なんて』
だって見なくて良いものなら見たくないし……
『うるせぇ! つべこべ言わずに調べとけ!』
『は、はい! でも、どうしてまた愚者人形のことを?』
『はっ! どういう経緯があったとしても、知らないモノに触れたら調べるのは鉄則だろうが!』
くっ、言っていることに間違いは無いから言い返せないし……
『オメーに貸してる部屋の隣に資料室がある。そこで愚者人形の事をキッチリと調べておきな!
あー、あとついでに部屋も整理しといてくれ』
『あ、まさかそれが目的じゃ』
『うるせぇぇ! とっとと行ってこい!』
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「あっれ、なんか楽しくない思い出が浮かんできたかも……」
ま、でも調べておいて良かったのは確かだからなぁ。
■愚者人形
大きさが人と同じことから、遠くから見ると人と間違えるがその顔には目や鼻などが一切なく、窪んだ穴が数個あるだけの魔物。個体での能力にはほぼ違いが無く、その能力自体もそれほど恐ろしくはない。
ただし、愚者人形は【共有】というスキルを持っており、これを使うことで相手の虚をつくことや集団への戦闘に持ち込み、戦闘を優位に進めることを得意とする。
【共有】
愚者人形特有のスキル。一体の愚者人形が敵と出会うことで周囲に特殊な電波を出し、それに反応した仲間が集まってくる。
この際に最初に電波を出した愚者人形が得た情報が周りの愚者人形へ伝わることで、不意打ちや相手が苦手な戦法を取ることができるようになる。一体見たら要注意!
『この【共有】スキルのせいで後から後からPAPがやって来るし、背後からいきなり突撃したりしてくるから気が抜けないし……
結局、この状況から解放されるにはここへやって来るPAPを全部倒さないといけないってことだとしたら、正直なところ時間がかなりヤバイ』
ログインしてから既に一時間が経過。現実時間では二十分ぐらいだとはいえ、早く寝ないと寝坊するかもしれないし、最悪このまま朝までログインしているなんてことになったら、睡眠時間が足りてない状況で学校に行くことに……考えただけで冷や汗しか出ない!
「ん? っていうか、気がついたらPAPがいなくなってる?」
現状、視界に動いているPAPはいない。
『もしかして、全部倒しちゃったのかな?』
戦闘とログイン時間にばかり頭がいってたから、PAPがいなくなったのとか感じていなかったし、ぶっちゃけ気にもしていなかった。
『うーん、マチュアさんにこんな戦い方しているのを知られたら、きっと怒られるだろうなぁ……あはは』
ただ、これで一息つけるかな……と、握りしめていたレバーから手を離した瞬間、
ピーッ、ピーッ、ピーッ
「えっ、何っ!? ロックオンされた? どこから!?」
不意にコックピット内にロックオンされた警告音が鳴り響く!
『さっきまでいたPAPはロックオンなんてしてこなかったのに! それとも新手のPAPが現れてロックオンをしているの……って』
ピーッ、ピーーーッ!
「上から!?」
警告音と共に知らせるロックオン表示は上! 慌てて上を見た瞬間、陽の光に紛れ急降下で落ちてくる黒い影が。
ドガッ!
「キャッ!」
咄嗟に両手に持っていた十手をクロスしてガード!
だけど、ガードの上から浴びた攻撃があまりに重く、ガード態勢のままで廃墟と化していた建物へと吹っ飛ばされる!
ガシャン!
「痛っ、たい!」
建物にぶつかった瞬間、座席から投げ出されそうになったものの、装着していたベルトのおかげで辛うじて座席に固定された状態は維持。
ただし、頭というか脳が揺さぶられるほどの衝撃は全身にしっかりと受けており、それだけでもかなりのダメージを与えられたのがわかる。
『なに、いま上から来たのは。PAP? それとも』
乱れていた画面が直り、正面が写されるとそこには大きな羽を広げた一体の黒いPAが。
「黒いPA……って、まさか帝国の!?」
ハルが乗るシリウスと似たような感じのPAだけど、その機体カラーは漆黒。
そして以前に戦った帝国とは異なり、胸の部分に金色の獅子が描かれていることから間違いなく帝国正規のPAであることは明らか。
『帝国のPAがどうして王国内にいるの!?』
戦時は別としても、本来帝国のPAが王国領に入れるはずがない。よしんば入れたとしてもアルブラには同盟国以外のPAが侵入すればわかるようになっていると聞いた記憶がある。
「なのに……なのに、どうして!」
わたしの声が聞こえたのかと思うように黒いPAがゆっくりと動き出す。
「戦時じゃなくても入れるさ。それそうなりの手法を用いればね」
姿が見えないからわからないけど、その声からは相手が自分の年齢と変わらないぐらい若いパイロットだという推測は立つ。
『なに……この感じ』
相手から感じる、肌が粟立つような嫌な感覚。それがわたしと彼とが初めて戦場で出会った時の感想だった。




