138話 アルブラ動乱2
ガツン!
『がふっ……』
つい先日タウラスさんから似たような突撃を受けたけど、こっちの方が断然重たくて激しい!
でも……
「負・げ・な・い!」
おもいっきり歯を食いしばり、お腹の中から力を絞り出すと両手・両脚に力を込める!
メシッ……メシメシッ……
掴んだPAPの外装フレームが軋み、少しずつ曲がっていく。
『フレーム曲げるのが目的じゃない、とにかくコイツを動けないようにするのが先決!』
「こん……畜生っ!」
ガッタン!
勢いよく突き出した両手は、外装フレームを折り曲げながら車体を斜めに傾け、そのままPAPを横転させる!
「ふーっ、ふーっ……」
横転したPAPは起き上がる事ができず、そのまま脚をバタバタさせたまま。
『なんとかコイツは無力化出来たけど』
そう呟くわたしの視界には、まるで騒ぎを聞きつけたように複数のPAPが迫ってくる。
「……まったく、とんだタイミングでログインしちゃったわね。でも、そのおかげであの母娘は助けられたから良しとしないと」
そう言いながら、わたしは胸元から宝珠を取り出す。
「かなり大変な状態だけど……ハマル、力を貸して! 召喚」
ピシッ
何も無かった私の背後、その空間に亀裂が走り白銀のPAが現れる!
『あとは……どうやって目の前のPAPを倒していくか』
乗り込んだコクピットに映し出されたのは、ついさっきまで二、三機しかいなかったはずのPAPが、倍どころか十機を軽く超えたショッキングな映像。
「……さっき倒したPAPの援軍?」
ま、何にせよ倒せるだけ倒しまくるだけ!
「左手ライフルを格納」
こんな街中なんかじゃ撃てないし……まぁ、射撃に自信がないというのもあるけどね。あと、
「右手大型ランスも格納」
動きの速いPAPに対して刺すタイプやの武器は当てにくいし、建物が邪魔して長い武器を振り回すのにはちょっとキツい。だから、
「腰部格納庫から両手に伸縮型ロッドを装備」
長さは約二m。ただの棒形ではなく、持ち手の部分に鉤が付いた、所謂時代劇でお馴染みの十手型。それを左右それぞれに装備して……
「行くよ!」
―――◇―――◇―――
「シリュウさん、どんな状況ですか?」
「大体の進捗は予定通りだよ」
手元に映し出されたアルブラの地図を見ながら問いかけにそう答える。
東西南北、さらにそれを四つに区切り十六分割された地図には青色に染まった地区と、黄色に点滅した地区、そして灰色に塗られた地区に別れている。
『青色は領主の支配が続く地区、黄色はPAPが大暴れ中。
そして灰色になったのは領主の支配が弱まり中立となった……実質的にはコチラが支配下においた地区』
西は半ば最初から押さえてあったようなもの。南は住民の居住区が中心であり、大した守備部隊も無かったことからPAPが暴れた隙に要所を抑え、領主の配下から【形式的】には離れた状態。
その分、北は領主・役所を中心とした公共施設がある関係で専用の警備隊が高い守備力を有しているし、東は貴族達が独自の部隊を置いている事もあってPAPが手間取る事は想定内。
『もっとも、本格的に布告した戦争でもないから、あくまで管理下に置かれた地区と離れた地区というあいまいなものでしかないが……』
こういう所は正直言って温いものだ。
「作戦Aは予定通り、作戦Bもこのまま順調に進めば出てくる事は予想される。作戦Cはあくまで実行出来れば御の字だから現状で変更はないかな。作戦Dもこの調子なら我々の予想した結果に収まるよ。
もっとも、作戦Dはここからじゃわからないけどね」
「そうですか、それは良かったです。作戦Dも上手く進んでいるようで。
さすがウチの軍師、全部バッチリですね!」
「いや、そうでも無いよ」
黄色に点滅状態している地点、その中で一箇所想定外な事が起きている。
「どうしました?」
「今現地から情報を集めているけど、どうやらリストに無いPAが暴れているようだ。住民か異邦人かどちらかは不明だが、かなり派手にやっているようで近くのPAP共が【共有】のせいもあって、そこに向かって集まってしまっている。
作戦進行への影響が僅かだけど出始めていることも問題だけど、こちらの予想よりもPAPが早くスクラップになっていっているのが正直良ろしくないね」
事前に用意したPAPは全部で千五百機。うち千機は当初から向こうでの戦力として送っており、残った五百機をこちらで使用している。
侵攻を開始してからスクラップになったのは百機。そしてその半分近くが一箇所でやられている事に。
『予想では全作戦終了時の残PAPが二百から三百機あまり。だが、このまま想定外が暴れ続けることで、最悪全部使い潰すことにもなりかねないか……』
「だったら私達が行きましょうか?」
「そうだねぇ……」
姉妹が行けば色々と改善できるのは間違いないだろう。だが出来れば念の為、東の抑えに残しておきたい。
ピーッ
「ん、情報が来たようだ」
偵察を依頼していた冒険者が伝達用に放った灰色鷹をこちらに送らせたようで、我々の上空でクルリと一回転すると、その拍子に手紙の入った筒が落下してくる。
「ふむ……どうやら暴れているのは両手に十手を持った白銀の型ハマルらしい」
「白銀のハマル……あっ!?」
何かを思い出したのか、一緒に手紙を覗いていた隣人の顔色が変わる。オイオイ……
「心当たりがあるようだね」
「あ、はい。以前に練習場で型ハマルがいるって聞いたから見に行ってたから……でも大したことなくて。
書いてあるのと以前見た時とは装備が違うみたいですけど、白銀の型ハマルなんて他に聞いたことが無いから……ごめんなさい」
そう言って震えながら頭を下げられたら、言いたいことも言えなくなるだろうに。
「君達二人ともがスルーしたという事は、たぶんその時点では大したことが無かったのかもしれないが、今の結果がこうなった……わかるね?」
「はい……あの、私が今から出てそいつを」
「ちょっと待って」
起こしたミスを取り返そうとする彼女を制して少しだけ考えをまとめる。
『さて、どうすべきか……』
徐々にだが大きくなっていく被害と、ここで作戦に変な手を加えた際のデメリットとを天秤にかけ、求むべき答えに近づける最良手を計算する。
「今、我々が何を一番優先しなければならないか、わかるかい?」
「それは……殿下の目的を達成すること」
「そう、だから今一番重要なのは、ほぼ順調に進んできたそれぞれの作戦をそのままフィニッシュさせ、最上の結果を殿下に御報告する事だ。
それを踏まえて、如何にして事態の悪化を修正するかが鍵になる。それは逆の意味で、今のままでも最低限の結果は出せるという事になるわけだ。
色々と思うところもあるだろうが、今は我慢してもらう。良いね?」
「はい……」
しょんぼりとしたのは時間があれば元に戻るけど、とりあえずはその時間を短縮しておこうか。
「モモ、君はまだそのPAやパイロットのことを覚えているかい?」
「はい」
「よし、じゃあ今から覚えている限りの事をレポートにまとめておいてくれるかな? それが今後の重要なキーになる可能性が高い。
とても大事な、そして君にしか出来ない内容だ」
「はいっ!」
『よし、これでこの子は大丈夫。あとは……』
手にしていた地図をそのままにしたまま席を立つ。
「あの、どちらへ……」
「このままだと無駄にPAPを消費しかねないから、近くに行って【共有】の能力を切ってくるよ」
【共有】の能力はPAPの能力ではなく、その中枢部に埋め込んだ魔物の固有能力。一応、遠隔からその効果をオンオフ操作が出来るものの、さすがにここからでは遠すぎて操作が出来ない。
「ここのは任せるよ。できれば僕が戻ってまでにレポートをまとめておいて欲しいかな」
「はい、気をつけて下さいね」
「なに、大丈夫だよ。召喚」
ガガガガ……
地面に黒い円が描かれると、そこから真っ黒なPAが姿を現す。そして円から全身全てが出きると、折りたたまれていた羽が雄々しく広がる。
「僕にはコレがいるからね。行こうか、型ベガ……空を翔けよう」
【了解】




