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135話 意外な来訪者


※後書き追加しました。


「……まぁええ。ついでだ、そいつ等に茶の一つも出してやれ。激熱でも出がらしの苦いヤツでもかまわんぞ、適当に出せばええ」

 あたふたとしているわたしを見て、トム店長は軽くため息をつくと来客へのお茶出しを依頼する。


「相変わらず酷え言いようだな爺さんよ」

「俺がテメーにまともなモンを出すと思うか?」

「ま、否定はしないがな。だが、せっかくキレイなお嬢さんが入れてくれるものなら美味しい方がうれしいと思うのだが?」


『すごっ、トム店長と普通にやりあってる人なんて初めて見た』

 店内の中央にある商談用にも使うソファーに腰かけた中年の男性。

 ハルまではとは言わないもののわりと大柄で、その肌は日に焼けて浅黒くなっており、くすんだ灰色の髪と髭が絶妙に似合ってる。

 声も大きく、やや赤みを帯びた瞳と合わせ猛禽類を思わせる感じ。


『って、見てないで準備しなきゃ!』

 ついこの前、同じような事でグーデル神官長に怒られているのに……反省。



『えーっと、飲み物はお茶とオレンジジュースぐらいかな。あとお茶請けで……』

 とりあえずカウンターの横に設置してある冷蔵箱と雑貨が置いてある棚を開けて確認すると、すぐに出せそうな飲み物はそれぐらいだったことから、いったん両方をトレーに乗せてソファーへと戻る。


「お飲み物は熱いのと冷たいの、どちらがよろしいでしょうか?」

「俺には熱いものを。あと、冷たいものを一つ用意してくれないか。すぐに戻って……ああ、来たようだ」

「え?」



 スタッ



「!」

 いきなり気配がしたので二階を見た瞬間、フード付きの黒いローブを纏った人が飛び降りてきた!

『転落防止で設置してある高めの手すり、あれごと飛び越えて来るなんて……』


「待たせたか」

「い、いえ」


『あ、そういえばトム店長が”そいつ等”って言ってたっけ』

 修練の一環で、普段から気の察知をしていたのにも関わらず全く気が付かなかった……わりとショックかも。

 あと、


『わたしでもあそこから飛び降りることは可能だと思うけど、躊躇なく飛び越えて来たことも驚きだし、二階から降りてきたとは思えない静かな着地だったことにも驚いたかも。

 それに……今の動きってどこかで見たような? 気のせいだったかな』



 そんなことを思っている間に黒ローブの人はソファーへと移動すると、わたしが用意したオレンジジュースを一気に飲み干す。


「おかわりはいかがですか? あと、よろしければこちらにお菓子もありますので」

「ほぅ、頂こう」


 フードが顔を隠していることもあり、声から判断出来るのは若そうな男性だということだけ。背もわたしより少し高いぐらいだから、意外に年下だったりして。


「ふむ、悪くないな」

「お口にあったようで何よりです」

「これは?」

「あ、はい。わたしが趣味で作ったものでマドレーヌといいます」

「なるほど」


 そう言いながら用意したマドレーヌを速攻で平らげると、おかわりで注いだオレンジジュースも一気に飲み干す。



『ふふ、なんだかクラスの男子みたい』

 まぁ黒いローブを被った男子高校生なんていないけどね。それにしても、


『なんだか不思議な人』

 用意したお菓子はこちらの素材で作成したマドレーヌ。甘みを抑え気味にしたのでオレンジジュースでも、それ程酸味を感じないようになっているはず。

 そんなマドレーヌをつまみ、上下左右色々な方向から物珍しそうに観察する仕草は、フードを被った状態であっても可愛く見えてしまう。



「おい、オメーはもう下がってろ。まだ今日の課題があっただろ」

「え、はい」


『あれっ、確か今日の分は終わった報告したはずだけど……まだ残っていたかな』

 課題は終わっている事を再度報告してみようかと思っていたけど、なんだか今のトム店長はピリピリとしていて、そう言った反論をさせない雰囲気を出している。


「爺さん、何を慌ててるんだ?」

「カッ! 別に慌てちゃいねーだろうが」

「そうかい? 俺にはまるでその嬢ちゃんをこの場から逃したいように感じたが」

「チッ、勝手にしな!」


『ん?』

 わたしをこの場から逃したい? トム店長がそんな事を思ったりするとは思えないけど……

 


「ま、爺さんのお許しも出たようだから嬢ちゃんもここにいれば良いよ。

 ああ、そうだ。せっかくこうやって出会った縁だ、改めてこちらも名乗らせてもらおう。


 俺の名はダラス・レジリア。レイジー商会の代表をしている者だ」


「!」


『この人がレイジー商会の代表! ということはトム店長が最も嫌っているPAP自動化の元締めであり、商人たちをまとめている西部地区の責任者……』


 レイジー商会の代表と名乗られた瞬間、足が竦むほどの強いプレッシャー浴びせかけられる。正直プレッシャーの強さにその場から下がりたく思ったけど、それはそれで悔しいし負けた気になりそうだったので気合いで踏ん張る!



「良いねぇ、今のを浴びても顔色変えずコチラを睨むだなんて、骨のある異邦人じゃないか」

「に、睨むだなんて気のせいですよ……」

 うは、心の中が顔に出ちゃってた!?


「くっ……あははっ! ダラス貴様の負けだ」

「そう言われると悔しいですな」

「そ、そんなに大声で笑わなくても……」


『しょ、正直そこまで笑うのもどうなのかなっ!?』

 そんなことを思いながら黒ローブを見ていると、大きく笑った瞬間にフードに隠れていた顔が一瞬だけ見える。



『あっ、キレイな瞳……』

 ダラスさんとは異なった褐色の肌。整ったパーツはテレビで見るタレントなんかと比べ物にならない程の美男子。だけど一番目を引いたのは宝石のように輝いたその瞳。

 それは澄んだロイヤルブルーで、褐色の肌とのコントラストが鮮やかで思わず見惚れてしまう。


「ん?」

 その瞳がわたしを見た瞬間、まるで何かに囚われたような……瞳の中に吸い込まれそうな錯覚に陥る。そしてその瞳に見られているだけのはずなのに、なんだか体まで熱くなってきたような……



 ドクン



「おいっ! ウチのに変な事しやがったら叩き出すぞ!」

「ああ、すまない。別段何かしている訳ではないのだが……どうやらそちらのお嬢さんには刺激がありすぎたようだ」


「刺激……?」

 うーん、よくわからないというか頭が回らないというか……ヘンなの。



「さて、大体の話は終わったし帰ることにしようか。これ以上ここにいても爺さんの機嫌を損ねるだけですからな」

「そうか、それは少し名残り惜しいが仕方ないか」

 黒ローブはそう言ってから再びわたしを見るけど、さっきとは異なりトム店長がわたしの前に立ちはだかる。



「爺さん、そろそろ時流から判断すると良いと思うがな。PAPの事についてもそうだが、この先誰がアルブラの未来を担うべきかを……

 勿論、力だけが正義とは言うつもりは無いが、力を持たない者や新しい流れに乗り遅れた者、そして新しい文化を認めない者達は、手にできるはずの力を自ら放棄していると思うべきだ」

「はっ、それだけが正義なら、既に帝国が大陸に覇を唱えているだろうよ」


 二人の会話には正直な所ついていけないけど、互いが互いを認めないというか認めようとしない、平行線なままで終わらないというイメージを受ける。



『わたし達異邦人がこの世界に来ることで起こっている文化や知識の流入。それを上手く利用することで新たな力としていく人達と、その流れに反発する人達か……

 それって良くも悪くも異邦人(わたし達)がこの世界の住人に影響を与えているってことなんだよね……かなり複雑な気分かも』


 この世界の住人達が新しい何かを【得ること・得ないこと】で色々と変わっていくなんて、まるでこの世界(PAWの中)が本当に生きている世界であり、生きている人達にしか思えなくなってくる。




『わたし達は……本当にここに居て良いのかな』

 そういう意味もあってかこの世界に色々な影響を与えていてる状態を、ちょっとだけとはいえ申し訳ないような気持ちになってくる。


『自分が何かした訳でもないのにね……』

 うーん、もう一人のわたしが心の中で寂しそうに呟いた言葉に対し、ただ苦笑するしかなかった。




いつも読んでいただきありがとうございます!


雨にもマケズ、腰が痛いのにもマケズ、なんとか今週二回目のアップができました。

やっとここにきてメインに絡むキャラが書けまして……まぁ、話自体が遅いので、なかなか登場人物を出したり動かしたりさせることを自分で難しくさせてたりしますが(´・ω・`)



さて、次でここの辺りの話の区切りになります。

ついでにキャラ設定とかに似た何か(?)も書いてみます。


世界観とかはあくまで自分の中にしか無いものなので、少しでもわかるような内容になればと思って書いていますが、全然伝わらなかったらどうしようとも悩んでいます。


では、次回は7月9日(月)の午前10時に本編、11時に設定などをアップしてみますので、よろしければお願いいたします。


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