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134話 重くなる思考


「じゃあ、もう少し身近というか冒険者に関連したことで話してみようか。

 リアは今、街の中で起きている冒険者を対象とした殺人事件の話を聞いたことは?」

「はい、その話でしたら酒場で聞いたことがあります。といっても、どこかの冒険者が噂にしているのを聞いたレベルですけど……それとトム店長に関係が?」


「リアがトム爺さんのお店にいること。それによりリアは被害者(その対象)になりにくくなっていると私は見ている。あくまで結果論かもしれないがな」

「理由を聞いてもよろしいですか?」

 繋がるようで繋がらない話に少しだけ頭が混乱する。



「実際、被害を受けた者を調べてみると圧倒的に異邦人の冒険者が事件に遭遇している。では、なぜ異邦人の冒険者が狙われやすくなっているのか……

 例えばそれが【革新派】【拒絶派】から見てどちらにも与しない邪魔な者を除外する行為だとしたら?」

「えっ、まさかそんな理由で?」


 そんな理由で異邦人の冒険者を殺していたら際限が無いというか、逆に強制戻り(デッドマーク)から戻ってきた異邦人が完全に敵対する側についちゃうような?


「君たち異邦人であれば加護により、再度この世界に戻ってこれるのは皆が知っている。だが、もしその行為が一回だけではなく、この街にいる限り繰り返されたとしたらどうする?」

「それは……確かに嫌だと思うので、最悪この街から去ることも考えられます」


 わたしの場合、この世界で死ぬことがあればこの世界の住人と同じ条件に則って完全に消えてしまうはず。でも普通の異邦人ならば、お金や経験値などある程度ロストするとはいえ、強制戻り(デッドマーク)によって戻って来れることから、一回ぐらいなら時間をかけてロストしたものを取り戻すとは思う。

 だけど、


『それが二回も三回も、場合によっては十回とかされたらさすがに……』

 自分がその立場になったと考えたら、正直ぞっとする。



「【革新派】としては手に入らない冒険者(カード)が存在してしまった場合、相手に得られて(配られて)しまうことがあると考えられるのであれば、この街(テーブル)から排除したいという考えが浮かぶ可能性があるかもしれない。

 【拒絶派】としては元々異邦人がこの街に存在しない方が良いと考えているから、そうなる手があるのであれば悟られないように使う事も考えられる。


 結局、どちらにしてもそんな事を目的として異邦人の排除を目論んでしまうということ自体、私から見れば恥ずべき事なんだがな……情けない話だ」

 そう言うファナさんの顔は再び暗くなる。



「ま、さっきも言った通りこれらは証拠もない事から私の推測でしかない。だが、そうだった場合にはリアにとってトム爺さんの元で働いている事がお守り代わりになるはずだ」

「お守りですか?」


「ああ。トム爺さんの一族は長くこの地にいることから誰に対しても顔が利く。工房群にも商人達にも、そして貴族にも通じるレベルでだ。そんなトム爺さんの元にいるリアに何かあったとしたら……

 もし【革新派】【拒絶派】どちらかが事に及んだという証拠でも出てきた場合には『トム爺さんの顔に泥を塗った』という事になるだろう。そうなった場合、アルブラでの影響力が大幅に低下することは間違いないだろう」


「なるほど、そういった意味からトム店長のところにいる事でそれらの標的にはなりにくくなる……【トム店長の存在がお守りになる】ということなんですね」

 うん、それは完全に想定外だったかも。ただ、


『商人達にとって欲しいけど手に入らない冒険者(カード)があれば、テーブルから除外する手として考えるのかもしれない。でも、貴族も同じように冒険者を消すというのはピンと来ない気がする』


 ……なんだろう、どうも考えがしっくり来ない。



「どうかしましたか〜?」

「あ、はい。話を聞いて少しだけ違和感というか、腑に落ちないと言うか……

 確かに冒険者にしてみれば厄介な事件だと思うのですが、商人や貴族がそんな事をするのはプラスよりマイナスの方が多いかな、と」

「と言いますと〜?」


「商人であれば、犯行の依頼や処理ににかかる費用で冒険者を囲んだほうが早くて安くて計算しやすいかなと思いまして。消えるかどうかわからない冒険者(カード)、そんな不確かなものに商人がお金をかけるかが疑問です」

「なるほど〜」


「それに犯人にかかった懸賞金が被害者の数だけ膨れ上がっていくことで街に滞在する冒険者が増えるだけでなく、懸賞金狙いの冒険者が新たにやって来る事は簡単に予想できます。

 異邦人の冒険者を呼び寄せたくない貴族としては、逆に呼び寄せてしまうような悪手をワザワザ選ぶとも思えなくて……」

「なるほどなるほど〜」

 ティグさんはこちらの話を聞きながら『ふんふん』と頷く。


「そういう意味では、貴族達は更に物事を考えて動いているという事になるかもしれませんね〜」

「お母様それはっ!?」

「だってこの娘に関係ある話かもしれないでしょ〜?」

「ですが……」


 うーん、気になるけどファナさんが話したがらない感じだなぁ……しょうがない、


「ファナ様、教えて頂けませんか?」

「だからその言い方は……って、言わなければそのままって事か!? はぁ……」

 何だろ、話を聞く前からイヤな雰囲気がファナさんから漂ってくる。



「これは今のリアがそうだという訳じゃないのを前提に聞いてほしい」

「はい」


「もし、本人に手出しせずに冒険者をこの街から去らせる事が出来るとしたら。もしくはどちらにもつかない無効化できる手があるとしたら……どうだ?」

「えっ」

 そんな手が?


「冒険者や異邦人に対して、手が出せない、もしくは動きを封じ込めるような重要なキーを貴族達が手元に持つことが出来れば可能だとは思わないか?

 街から去らせるにしても、何かあった際に中立にさせるにしても、それこそ服従させることも……」

「それは……そうですが」



「リアの言うとおり、貴族達は(彼らは)非常に狡猾であり計算高い。故に異邦人(カード)を手にせずとも場から退場、もしくは無効化させるような【重要なキー】を計画的に手中に収め、万事にあたっているのではないかと噂されている。

 それがリアの場合(重要なキー)ならどうなる?」


「わたしにとっての重要なキー……って、まさか!」

 この街の問題に参加したいなんて考えていないけど、わたしの動きを気にしている相手がいたならば……わたしにとっての重要なキーとなりうる人を彼らは押さえるかもしれない。


『マチュアさんの強さは知っているからそう簡単に何かされるだなんて思わないけど、それでも万一何かあったら……』

 わたしの心の奥底に嫌な思いが吹き溜まる。



 ズキン……



『そんなことは……絶対にさせない……から』



―――◇―――◇―――



 パァン、パァン……



 役所を出ると、暗くなってきた夕空を一瞬だけ照らす閃光と体に奥に届くほどの炸裂音が辺りに響き渡る。


「花火……ですか」

「ああ、あの方向だと住民街だから祝い事かな」

 ファナさんの話によると大きな契約を結んだ商人が上げる事もあれば、工房で実験が成功した際に上げたりもするらしい。

 普段はあまり上がっていなかったが、ここ最近の不安定な情勢に比例するかのように市場は活発化しているらしい。


『といっても、あんな話をしたあとじゃ花火を見ても気が乗らないと言うかなんというか』

 なかなかスッキリとしないのは考え過ぎか、それとも……


 ・

 ・

 ・


「ただいま戻りました」

 頭の中で嫌な考えがグルグルと回っていたこともあり、なんの躊躇もなく店の扉を開ける。すると、



「ほぅ、このお嬢さん爺さんに気に入られた子か……なるほどなるほど」

 入った瞬間に自分へと向けられた奇異な視線と、店内では聞いたことの無い声にに思わずたじろぐ。


「はっ! まだハナタレだよ。ったく、ワザワザ店の入り口に【クローズ】の掛け札がしてあったのに入るような大馬鹿者じゃて」


 そう言われて扉を見ると、そこには『クローズ、関係者も立入禁止』と書かれた札が。


「あっ、スミマセン!」



 うぅ、考えすぎて何も見ずに入っちゃった。


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