130話 名門商家でいること
※18/6/20 後書き追加しました。
「うわっ、何この店の品揃え!」
夕食後、フィーネさんからトム店長のお店の中を見たいとの申し出が。トム店長に伝えたところ
「オメーの客だ、オメーが案内しろ」
との指示があり、わたしが店内を案内することに。
「まぁトム店長の好きで並べている商品ですから、ラスエリ工房とは比べ物にならないかと……」
「リアさん、あなたここに並んでいる商品がどういったものか解ってないの?」
……どういったもの?
「確かに古い商品もあるけど、中には通常流れて来ないような超レア物も沢山あるのよ……例えばコレ!」
そう言ってフィーネさんは棚に無造作に置かれた銀色に輝く装甲パーツを指差す。
「コレは?」
「このパーツに描かれている紋章は共和国の【旗と剣】であり、この紋章の色は貴族しか使用してはならないと言われたものよ」
ほう……
「ということは?」
「自分の顔・名前を戦場で無くしたとして、それを探さない者なんていないわ。これを持って帰るだけで元の所有者一族からどれだけ感謝されるか。
それこそコレを失った事で課せられているであろうペナルティから回復できるかもしれないし、場合によっては不遇に過ごさざろう得なかった家の復興に役立つかもしれないの」
なるほど、そんなに大事なものだったんですね……すみません、トム店長がかなり雑な使い方をしていたかもしれません。
「そういった物ではないがコレだってかなりのものだ」
一緒にやって来たハルが円筒形の武器を指さす。
「現状普及しているPAの武器の大半が銃型なのに対し、これは砲弾を撃ち出すバズーカ型だ。
使い方に難があったり、これ自体の重さによって装備できるPAが限られるといった難点があるものの、その威力から考えれば俺が使いたいぐらいだ」
「ほほー、ハルがそこまで言うなんて珍しいね」
「そうだな……これ、リアが使ったらどうだ?」
「わたしが?」
「リアのPAならコイツの重量なんて大したことないし、コイツは弾に操縦者の魔力を込めることで誘導するタイプのようだから、今メイン装備として使っている銃型に比べて命中は段違いに高くなるはずだ。
構えて撃つ。あとはコイツの能力で追尾するから、ある程度ファジーな狙いで撃てる事で操縦への負担もかからないと思う」
へぇ、確かにそれは嬉しいかも。ただ、
「こんな高級武器を買えるお金を持っていないのですが?」
確か値札にはニ百Gとか書いてあった気がするし。手持ちは二十Gですよ?
「あら、ニ百Gなら私が買おうかしら?」
「いや、出来ればコイツはリアに買わせてあげて欲しい。PAの操縦についてはなんとか及第レベルまでにはなったが、射撃の方はなかなか上達しなくてな」
「なるほどね、じゃあ止めておくけど……何なら私が買って先払いであなたに渡しても良いのよ?」
「い、いえ……さすがにそれは遠慮しておきますので」
うーん、この人なら本当にやりかねないところが怖い。
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結局、時間自体が遅かったこともあってフィーネさんは商品を見て回るだけになったけど、いくつかメモをとっており、後日買いに来るということでトム店長への託を預かった。
「ふぅ、思いもよらない掘り出し物と隠れたショップ、それに」
フィーネさんはわたしを向いて
「容姿と戦闘だけでなく料理の腕まで高いなんていう超目玉な異邦人と出会えるなんてね」
「あははは……」
うん、フィーネさんの目がマジです。
「まだ暫くはアルブラにいるから、その気になったらいつでも私達が宿泊している宿へ来ると良いわ。国替えの件は別として、お試し感覚でも構わないから。
でも、あなたをウチに連れて帰りたいのは本気よ」
そう言いながらフィーネさんはわたしにメモを手渡す。
「あの、理由は聞いていますがそこまで熱心に誘われると、何か裏があるのではと思うレベルなんですけど……」
誘われる事は素直に嬉しいけど、悲しいかな自分が自分をそこまで買っていないということがありまして。
「そうね、あなたの腕を買っているのも事実だし、腕の立つ同性の護衛が欲しいといのも事実。でも確かにそれだけじゃないわ」
そう言うとフィーネさんは懐から一本の短剣を取り出し、わたしに見せる。
「それは……」
「ウチに代々伝わる家宝であり、家督を継承する者のみが所持することを許された短剣よ」
フィーネさんがわたしに見せた短剣。それは酷く傷つき、宝飾も全て取れてしまっており、それこそ骨董的なな一品という感が強く見える。
変な言い方をすれば、名門商家の家宝というにはちょっと似合わない物だった。
「家宝と言うには古ぼけた短剣でしょ」
「あ、はい……すみません」
「良いのよ、実際に十人が十人ともそう思うと私だって感じるもの」
そう言いつつも、短剣を見るフィーネさんの眼は鋭いまま?
「確かにクロイチェル商会は共和国でも指折りの名門商家と呼ばれ、その力も一二を争うと言われているわ。でもそれに胡座をかいていたら、すぐにその座を突き落とされるの。
……こう見えても他の商家とは影で様々な争いを繰り広げているのよ?」
「そうなんですね……」
さすがにそんな裏側なんて思いもよらないし、どちらかと言えばイージーとまではいかないものの、築いた財力で自由な生活をしていると思っていた自分が恥ずかしい。
「この短剣はね、数代前に家督を継いだ者が地位と名誉に胡座をかいた結果、断絶寸前まで追い込まれたその証であり、付いていた宝石全てを売り払うことでドン底からやり直した証でもあるの」
『短剣を見る目が鋭く見えたのは、そういった歴史があったから……』
もっとも、今の話を聞いた事でフィーネさんの瞳に見える鋭さの中にも、若干愛おしそうにも見えるのは生き抜いた人達への賞賛なのかな。
「だから私はいつでも自分を高める事に全力を尽くすわ。こうやってアルブラまで買い付けに来ているのもそう、自分の目で見て他の商会に無いものを率先して仕入れていく事でクロイチェル商会の優位性を保つの。
そしてタウラスを自分の元に迎え入れたのも他の商会が『あのタウラスがクロイチェル商会に』と言わしめる為でもあるのよ」
『もっとも今はそれだけではないけどね』と小声で言っていたのは聞き逃しませんよ!
「それは何となくわかりますが、タウラスさんのように有名ではないわたしにはそういった価値があるとは……」
正直、その辺りがイマイチわたしには分からない。
「そうね、確かに今のあなたは無名に近いかも知れない。でも、きっとあなたはこれから名を馳せると私は見ているの。
そうなれば名が広まる前からあなたを囲い、自分の元へと引き入れた私にもプラスになる。
『在野に埋もれていた優れた冒険者を見出す眼を持つ、優秀なクロイチェルの代表』とね」
「そこまで先を見ているのですか……」
自分とは色々な意味で違う世界に住んでいるフィーネさんがとても眩しく、改めて凄い人だと痛感する。
「あと、それとは別にあなたとは一度対戦したいしね、勿論お互いに本気で。自分を冒険者として高める練習相手が得られ機会なんてそうそう無いもの」
「あはは……」
うん、フィーネさんはフィーネさんだわ。
いつも読んでいただきありがとうございます!
前回記載させていただきました通り、アップ日を間違えるという初歩的なミスを犯した戒めとして今週も三回アップを行います。本日はその二回目でございます。
戦闘パート明けからの、いまの状態ということでまとめていますが、こういった人物関係というのは書いているウチに『アレっ、この関係って書いたっけ?』とかわからなくなってきたり、つい名前が近しい(下手したら同じ)になってしまい、書いているうちに混ざってしまうことが……
こういったのは文才というより、記憶の無さを露呈・認識してしまいます(´・ω・`)
さて、話がこういう方向に変わっていく過程において、一応私の中では次の山に向けた階段を一歩ずつ書いているという状態ですが、こういう所って書いている内に若干変わったりすることも……
最終のゴールについては変わらないように書いているつもりですが「こっちのほうがおもしろいかな~」とか思うと、つい書くことが増えてしまったり。
そういうところは調子に乗らず(勢いにまかせず)まとめていきたいものです。
では、次は金曜日に向かって書いている内容のチェックとまとめに入ります。引き続きよろしくお願いいたします <(_ _)>




