110話 じゃじゃ馬と二人
「え、ええっ!?」
ハルに言われて前方を見てみると進行方向のかなり先に人影が。
『と、とにかくペダルを思いっきり踏み込でのブレーキ! そして高速機動の操作レバーについているスイッチから、PAの機体前方に装備されているノズルに指令を出して逆噴射!』
グググッ
『うっ、くぅぅ……!』
座席に、いやこの場合は後ろにいるハルに対し、わたしが受けるGをそのまま体ごと全部を預ける形になる。
「ご、ごめ、ハル」
「しゃべるな!」
ハルは一言そういうと、圧で潰れそうなわたしを片手でしっかり抱きかかえ、空いたもう片方の手でレバーを思いっきり手前に引くと、PAの背部にあるスラスターへ強制的に排出行動をかけ、左右に暴れるPAを無理やり統制下に置き、進路上に立つ人影の十メートルほど前で止まる。
「かはっ……」
停止した瞬間、静止した反動が体を揺さぶると肺の中に溜まっていた空気を無理やり押し出す。
「はぁ、はぁ……さすがに今のはキツかった」
「うん、この子の推進力はじゃじゃ馬すぎるね」
『とりあえず轢かなくて良かった』
ハルに同意して思わずそのまま胸の中に身を預ける。
『ん?』
……預ける? 胸に? 誰の?
ゆっくり、そーっと自分の状態を確認する。
そこには後ろから伸びたハルの左腕がわたしの左脇下から右胸までをしっかりと抱きしめ、その左手はわたしの胸をがっちりと掴んでいた。
そしてわたしもハルの腕に対し、ひしっとしがみついていて……
「……ふぇ!?」
「う、あ、いや、その」
同時にハルも自分がどんな状態でわたしを抱きしめていたのかを確認したのか、慌てて手を離すとあたふたしながらこちらの様子を伺っている。
「大、丈夫だよ。その、ちょっと驚いただけだから……ありがとうハル」
「……あ、うん」
なんともいえない、不思議な空気がコクピットの中を
「いやぁ、メンゴメンゴ!」
包もうとしていたのを、外から聞こえる声が霧散する。
「「……」」
もう、そこには変な空気しか残っていなわけで。
「降りるか」
「……うん」
・
・
・
「ホンマにゴメンなぁ、ウチとしたことが珍しいPA見たもんやからつい飛び出してもうて!」
「「……」」
「お姉ちゃん、キチンと謝らないとダメだよ! ハマルの直進速度は波並みのPAの倍は出る化け物なんだから、あんな急なタイミングでお姉ちゃんを轢かなかったことを感謝しなきゃ!」
「せやから謝ってるやんか? そやなぁ……せやったら、お詫びついでサクラの乳揉むか? ええ乳してるで~?」
「お姉ちゃん!」
なんだろう、この無駄にしゃべくり倒してくる人は。今までこんな感じでマシンガン並みにしゃべる人と会話とかした記憶がないから、ペースがつかめないというか、圧倒的に押し切られて口を挟むこともできない。
「す、すみませんお姉ちゃんがバカで」
「バカってなんやバカって、そうやって人のことをバカっていうのかバカなんやってお母ちゃん言うてたやろ?」
「だってお姉ちゃんがキチンと謝らないからでしょ? しかもなんでお詫びに私の…お、おっぱい揉むとか変な条件出してるのよ!」
「せやかてサクラの乳なら一回揉んだら並みの乳じゃ満足できなくなるような最強兵器やで? 一回の価値あるかと思うやんか。なぁ、そっちの姉ちゃんもそう思うやろ?」
「あ、いえ……」
最初は文句の一つも言おうかと思っていたけど、なんだか毒気を抜かれて言う気もなくなっちゃったし。
「とりあえずそちらにケガもなく、こちらも特に……大したことは」
あったけど。
「そうかそうか、せやったら良かったわ。でもホンマにごめんやったな」
「本当にスミマセンでした」
『姉妹二人揃って頭も下げてるし、こっちもとりあえずは大丈夫だから』
『ま、リアがそう言うなら良いと思うぞ』
とにかくこれ以上このやり取りを続けるほうがしんどいというか、話が先に進まないのでこの話はここまでにしておきます。
「いやぁ、せやけどこの機体もここで初めて見たけど、中の冒険者も初めて見る顔やな〜、しかもかなりの別嬪さんでありながらエエ物持ってるようやし。
まぁ、ウチのサクラには敵わないやろけどな」
「お、お姉ちゃん!」
「いや、まぁ……その」
うーん、反応というか返答に困るかも。
わたし達の前にいる二人、どちらも女性で異邦人の冒険者なのは見ただけでもわかる。双子なのか見かけはよく似ているけど装備などは全く異なっていた。
「かぁー、やっぱハマルはカッコエエなぁ! このハマル独特のゴツい中にシュっとした鋭いデザインが何とも言えん!」
軽装でマントを羽織ったのが多分お姉ちゃんと言われた人。濃いエメラルドグリーンの瞳にアッシュピンクの髪の毛を横に束ね、ちょっと目じりはキツそうな感じだけど関西弁なのか、微妙なイントネーションで話しかけてくる。
「もうお姉ちゃんったらPAの話ばっかりして……すみません、こんなお姉ちゃんで」
で、ハルと似たような大剣を抱えて運ぶ、ちょっと際どい鎧を身につけたのがサクラと呼ばれた子。話を聞く限り妹さんなんだろうなぁ。
淡いトパーズの瞳にロイヤルブルーの髪の毛をアップサイドに纏め、ちょっと下がった目じりに泣きボクロで優しそうでありながら、少しだけ魅惑的な感じを見せる。しかもお姉さんとは違い胸元がパックリ開き、丈も短い鎧を身に着けているせいもあってか、プロポーションの良さが十二分にわかるし、さらに魅了的な感じに。
『確かにアレはわたしよりもおっきいかも』
「モ、モモお姉ちゃんだって脱いだらすごいんですよ!」
「あ、はい」
いや、別に聞いてないけど。
『ああいうのはハルつい男の子だから見ちゃうかなぁ』
なんて思いながらチラっと見てみたけど、ハルは意外にも二人を見ずになんだか難しい顔をしている……
『どうしたの?』
『いや、ちょっとな』
はて?
いつも読んでいただいてありがとうございます!
今週は金曜ぐらいにもう一話アップできそうです。
引き続き頑張りたいと思っておりますので、よろしければ生暖かい目で
見守っていただけると幸いです。
PAについて
もう少しロボロボした感じに書いていくつもりではありますが
内容的に(当たり前ですが)絵が無いと伝わらないという文才の無さが
ちょっとドキドキしています……
不整脈かもしれません(´・ω・`)
平凡な日常とかも増やしていきたいのに、書きたいことが基本的に非日常系になりつつある(ゲームですが)ので、なかなか平和な話が……
とりあえず飽きがこない程度にそういった話もできればと考えていますので、よろしければ今後ともよろしくお願いいたします。
あと、ブックマークや感想もここに来て増えてきているので頑張る栄養素となってます!
少しでも楽しい話が書けるよう頑張ります!




