109話 えーっと、これは……
『どうしてこうなった!?』
今の状況を簡潔に述べると、コクピット内にある一つの座席に二人がけ……いや、これはタンデムっていうのかな? とにかく座席の前部分にわたしが座り、後ろにハルが座る状態に。
そんなに広くない座席だから必然的に体は密着するし、お互いの息遣いすらわかってしまう距離に顔から湯気が出そうな所をとにかく必死な思いで隠している。
『なんだかハルが乗り気じゃなかったのもコレが理由な気がしてきた。というか、よくよく考えてみたら狭いコクピットで教えてもらうなら、これぐらいのことを予想しておかないわたしが悪かったというか、落ち度だったというか……』
正直、ハルが意外にと言っては失礼かもしれないけど、冷静に教えてくれているからコチラもなんとか普通に受け答えが出来ている……と思いたい!
「というわけでコレが初歩的な操作に関するレクチャーだが……大丈夫か?」
「う、うん」
コクピット内にある複雑怪奇(あくまでわたし的に)なレバーやスイッチについて一つ一つ詳しく教えてくれるのは非常に有難いものです。
レバーが四本あった理由も、通常の歩行時とホバー時とで操作形態が変わるからということで納得。ペダルが複数あったのも、移動からダッシュやジャンプ・逆噴射など様々なアクション時に使い分けるということで、覚える事が多すぎて頭がパンクしそうに……ていうか、
「ハルはなんで型ハマルの操作方法とか知っているの?」
汎用型のアルタイルとかならまだしも、かなりのレア機体であるはずのハマルの操作方法まで知っているとか、さすがになかなか普通な事とは思えない。
「知り合いにハマル使う奴がいたからな。一応操作する機会があるかもしれないってことで、オレも一緒に勉強……いや、趣味レベルで覚えたのが正解かな」
ハル自身が乗るシリウスだってレア機体なのに、知り合いにハマルを持っている人がいたとか、いったいどんな凄い世界なんだか。
「射撃に関しては視界に的を入れることで自動的に照準が付いてくれる。ただし、これは相手が動かない的だから出来る最低限な設定だ。
相手がPAなら動くのが当たり前だから、このパターンで当てられる事は稀だと思った方が良い。それこそ動かない狙撃手ぐらいとかだな」
「あはは……」
なんとなく想像がつくけど、そんな相手にでもミスする可能性が高いから素直に笑えないんだよね。
パン
「駄目だ、照準の合わせ方が甘い」
パン
「駄目だ、照準を合わせるのにそんなに時間をかけたら、当たるものも当たらない」
……っく、わかっているけど全然当たらない。
「なんでここまで当たらないのよ!」
「イライラするな。余計に照準がブレるだけだぞ」
「うぅ……」
視界に的が現れる、そこに焦点を合わせることで照準が自動で移行する。
照準とポイントが重なったタイミングでトリガーを引く。
頭ではわかっているのにどうにもタイミングがあってくれないというか、ポイントが重なる前に撃ったりポイントがズレたタイミングで撃っていたりと散々な状況に、ついイライラしてしまい、そこをハルに指摘されるの繰り返し。
『向き不向きというか、あっていないというか……』
「正直こういうのは技術よりも慣れとか勘だと俺は思っている」
「慣れとか……勘?」
「もちろん技術があればそれに越したことはないと思っているし、その為にPAのスキルに【射撃】や【照準】といったものがある。だけどそれはあくまでもスキルであって、自分の力が成長した結果にはなってくれない」
「それは……わかるけど。でも勘ってすごい曖昧だよね?」
「うーん、まぁそう言われると確かにそうだが基本的には慣れたころには『なんとなくあの辺り』とか『次はこう動くんじゃ』みたいなことがわかることがあるんだ」
「それが勘?」
「と、俺は思っている」
……やっぱり奥が深いというか難しいの正確な感想。
「でも、移動操作については正直問題ないレベルで扱えていると思うぞ? 普通、あんな目にあったらなかなかまともに操縦レバーを握れなかったり、アクセルが踏み込めなかったりするもんだが、それが無いのは普通に凄いぞ」
「そ、そこはハルの教え方が上手いからだと思うよ?」
……すみません、ハルと密着したり熱が伝わったりすることでのプレッシャーがわたしの頭の中を支配していて、普通ならバンダナとの闘いで生んでいたであろうトラウマを完全に払拭していると思います。
それにしても、
「あっつい」
コクピットの中が暑いのか、それとも密着しているこの状態が熱を産んでいるのか、何にせよ暑いので作業着のジッパーを少しだけ下ろす。
『よし、とにかく頑張らないと』
ハルが教えてくれたおかげでPAの操縦については目途が立ち始めたようなので、なんとか射撃についても水準レベルぐらいにはしたいものです。
―――◇―――◇―――
『色即是空、色即是空、色即是空……』
妹と乗った時には感じなかった色々なものが悪魔の囁きのように俺の意識に働きかける。集中力をなんとか維持して耐えることで、リアに教えることを続けられているが、気をつけないと何かの箍が外れそうになるわけで……
『さっきまで自主トレしていたこともあってか、気にしてわざわざシャワーで汗を流してきたんだろうけど……正直、リアから香るシャンプーや石鹸の良い匂いがヤバイ。
しかも無意識に嗅ごうとしている自分が怖いというか情けないというか』
操作方法を教える際にレバーに手を重ねたり、どうしても座席的に密着状態にならざろうえないから、ダイレクトで色なものが伝わってくる。それに、
『暑いとか言って作業着のジッパーを下ろすのは反則だろ! 全開じゃないとはいえ、後ろからだと身長の差もあって見下ろす状態になるから、タンクトップから見える谷間に目が……いかんいかん!』
「どうしたのハル?」
「いや、なんでも無い……って、前! 前!」
一瞬目を離した隙に、俺達が操縦しているハマルの進行前方へ二つの人影が。
『ヤバイ、この速度だと確実に轢いちまう!』
いつも読んでいただいてありがとうございます!
とりあえず再開一回目です、よろしくお願いいたします。
……といっても、まだしばらくは週一〜ニになりますが(´・ω・`)




