106話 三つの勢力
「で、ロキシーが握っている情報って?」
ペタペタと顔を触っていても話は進まないので、とにかくさっきのことについて聞いてみる。
「『アルブラは貴族の問題でゴタゴタしている』って話覚えてる?」
「えーっと、ファナさんと別れた理由のやつだよね」
「そう。今、この都市は大きく分けて三つの勢力に別れているの……」
アルブラの西部、商業地区の商人やPA技術者を中心としたグループで、異邦人を積極的に迎え、文化・技術の向上を目的とした【革新派】。
アルブラの東部、貴族地区に居住する上流階級や文化人を中心としたグループで、この世界への異邦人の流入を断絶することを目的とした【拒絶派】。
アルブラの北部の現領主派と南部の住民を中心としたグループで、今のようにこの世界と我々の世界を均等に扱うことを目的とした【融和派】。
ちなみにファナさんは【融和派】に属しているらしく、これがファナさんと早めに門の所で別れた理由なわけで。
「さっきの【メテオス神殿】は確か【拒絶派】だったはず。だからそこのトップであるグーデルって人もあんな対応になっていたんだと思う」
「拒絶派かぁ……」
自分のテリトリーというか関わっている範囲の中で、彼らから見た異物とはやっぱり一緒にいたくないと思うのかな。
あそこまでハッキリとした態度を取られてしまうと、こちらとしても何もしようがない。それこそ無理に関わった所で、かえって話を拗らせる要因になりかねないし。
『マチュアさんとロイズさんが神殿で勤務することになるから、シーレフの時と同じように一緒に働かせてもらおうと考えていたけど、たぶん無理だよね』
うーん、マチュアさんにいろいろ教えて欲しいことはあるからアルブラから離れるわけにはいかないし……どこか別のところで働き口を見つけて、修練の際にどこかで落ち合うのが理想って感じかなぁ。
「とりあえずアルブラ東部においてオートモードで仕事に就くのは難しい。積極的に異邦人と交流している西部か、とりあえずどちらにも付いておらずシーレフに近いと思われる北部と南部。
だけど、基本的に南部は住宅街がメインだからなかなか仕事が無いと思うし、北部は役所みたいなところが多いからやっぱり求人は少ないと思う」
「そうしたら西部ぐらいしかないってことか」
商業地区ということは料理を出す店とかで求人があれば……
ガチャ
「ごめんね、遅くなって」
そんな話をしていると、マチュアさんが困った顔で馬車へやってきた。
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「なるほど、ロキシーが得た情報とそこからの推察でほぼ問題ないと思うけど、ちょっとだけ訂正かな」
「訂正ですか?」
「西部地区は確かに異邦人と積極的に交流しているけど、逆を言えばそこへ異邦人の冒険者が集中しちゃっている状況なの。だから求人情報は順番待ちみたいなもので、かなり厳しいと思って良いわね。それと」
「それと?」
「西部地区では冒険者を狙った襲撃事件がここ二週間で頻発して起きているみたいなの。なんでも【冒険者狩り】って新聞にも載ってるわ」
マチュアさんはそう言いながら手にした新聞をコチラに見せる。そこには確かに冒険者狩りのことが書いてあり、記事には【三十人目の犠牲者】とも。
「まぁ貴方達の場合、襲撃によって死んだとしても加護により復活できるとはいえ、所持金や経験値をいくらかロストしちゃうから平気とは言えないわよね」
確かに人によっては厳しいかも……
「リアの場合は他人事じゃないわよ、見た目が異邦人でも有り様はこの世界の人達と同じになっちゃっているんだから」
「うっ……、ですよね」
「しかしそんな冒険者狩りがいたなら懸賞金とかかかってるのでは?」
「そうね、確かにハルの言うとおり賞金首になっているけど、未だに誰も倒すどころかパトロール中に襲撃現場に会った人もいないようなの」
「暗殺者ですか?」
「かもしれないし、もっと違うものかもしれないわね」
なんだか妙な話になってるなぁ……
―――◇―――◇―――
「じゃあわたし達は今日はこのあたり宿屋に」
「わかったわ、貴方達も気をつけてね」
マチュアさんはロイズさんと一緒に神殿で住み込みながら働く事になっているらしく、とりあえずやる事が決まっていないわたし達とは宿屋街の前で別れた。
「実は宿屋に泊まるって初めてだったり」
「それはそれでレアだよな」
シーレフでは神殿で住み込みだったし、ゲーニスでは村長さんが貸してくれた一軒家、そして道中はテントでの就寝と、こういう世界では定番とも言える宿屋に少しだけ憧れてたり。
「知らなくて困ることとかないよね?」
「まぁ最初に金払って食事は別払い、グレードが高い部屋なら設備の一部として温水が出るぐらいが一般常識として押さえておけば問題ないな」
お金はそれほど溜まってないけど無駄遣いもしていないから余裕なら少しはあるし、ここはグレード上げた部屋にしておこうかな?
「いらっしゃいませ、【快夜の海原】へようこそ」
『宿屋と食堂が一つになっていないんだ』
大きな都市の宿屋は初期村とは異なり宿屋のだけで営業している所が多いのに驚いた。
初期村にあった宿屋は一階が食堂兼飲み屋になっている所が殆どで、賑やかというか騒がしい場所というイメージが強かったけど、ここは完全に宿泊施設だけになっており、食堂は別棟(営業は別)に別れていることから必然的に静かな感じで落ち着いた場所になっていた。
『冒険者が多く訪れるなら宿屋営業だけで成り立っているの。宿屋だけ食堂だけで営業した方が効率が良いって異邦人の意見を取り入れたらしい』
『なるほど』
ロキシーに言われて建物内にいる人達を見てみると、確かに冒険者しかいなかった事に気がつく。
『こっちの世界のひとがいないのはちょっと寂しいかも』
「部屋にはまだ空きがあったから問題なくとれたし、一旦部屋に荷物を置いてから食堂に集合しようか」
「了解」
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「お〜、なんか思ったより広いしキレイかも」
想像していたのは、やや薄汚れた狭い部屋に硬くギシギシと音がするベッドだったけど、実際の部屋はビジネスホテルのシングルルームぐらいあり、ベッドも意外に清潔でフカフカ。
「さて、アルブラでどう過ごして行こうかなぁ」
マチュアさんとの修練時間は思ったよりとれそうもないし、自動生活で仕事につけるかも微妙な状態。
『確かアルブラはPAが盛んな所だから、PAの操縦とかリペアについて学ぶ方向で考えてみようかな』
PAが学べる学校がなんて無いだろうし……ハルに習うのも申し訳ないし、いつまでもいるなわからないから甘えられないし……
どうしよう?




