105話 ようこそ? アルブラへ
「すごくおっきい……」
目の前に見える巨大な門と、それに連なる年代を感じながらも堅固そうな壁。それは先日までいたゲーニスはもちろんのこと、初期村でも見たことが無いほど大きなもので、遠くから見た時とはまるで異なる印象を受けた。
『あの茂みから見えたのはコレだったんだ……』
吐いてたからきちんと見ていなかったけど、やっぱりなんだか特殊なものなんだよね。
「これがアルブラ三大名物の一つ【決断の門】。この門を初めて潜る人間は出るまでに一つ何かの決断を強いられると言われている」
「そういえば俺も前にこの門を潜ってから出るまでに決断したことがあったな」
ロキシーの説明に対し、ハルも以前にここで何か決断したことを呟く。
……聞いてみたいけど、さすがに聞くのはちょっと躊躇われるというかプライバシー的に問題あるよね。
「じゃあ、わたしとロキシーも何か決断をしなければならないことが?」
「良いことだったらいいけど、決断する内容なんて良いものよりも悪いものの方が判断せざるを得ないことが多い」
「……うん」
【PAを使いこなせるように、さもなくば大事なものを失いかねないぞ】
ふと、初期村を出る前にディメール様と話したことが頭をよぎる。それが今回の門に対する内容と一致してしまうことがあれば、それはきっとわたしにとって悪い決断になる可能性が高い。
『この地にいると言われた十二柱の一神に会わないようにすることで、少しでもそういったことと係わり無いようにしたいけど……可能なのかな』
とりあえず決断とは違うけど、わたしの中の目標としてPAを扱えるようになろう……自分もだけど周りも守れるように。
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「これは……」
門を潜り、開けた視界の先に見えたのは巨大な湖とそこにそびえる建物群。しかも潜った門から繋がっていた壁はその湖を囲うように向こうまで連なっている。
「さて、私はここから別行動にしようか」
「はい」
ファナさんは手綱をハルに渡すと馬車から降りる。
当初はてっきり都市内まで一緒に行くと思っていたけどファナさんというより、ここの状況について色々と事情は聞いていたので、ここは素直に別れることに。
「いろいろとありがとうございました」
「いや、こちらこそ」
ファナさんがゲーニスにいなかったら、もしかしたら村に入ることができなかったかもしれないし、知らなかったこともあったはず。
「何かあれば気軽に来てくれれば良い、もっとも面倒事に巻き込まれる可能性もあるから、あまり勧めはしないがな」
「いえいえ、わたし達こそファナにはお世話になりっぱなしでしたから、御用があれば遠慮なく言ってください」
「ふふ、そう言ってもらえると助かる」
馬車を一度降り、ファナさんと固い握手を交して別れるとわたし達は湖に架かる橋を渡ると、ロイズさんが先行して向かっている神殿へ行ったんだけど……
「ああ、マチュア」
「……どうしたの? かなり疲れた顔して」
神殿に着いてから呼び出してもらったロイズさんは疲労の色が濃く、髪の毛もボサボサな状態。
「まぁ、色々とあってな……」
シーレフのディメール神殿よりも倍は大きいと思われる【機械神メテオス】を主神として奉る【メテオス神殿】。
都市としての規模もシーレフよりも大きく、住人や冒険者の数も比べ物にならないほどたくさんいるからこそ忙しくて大変だと思っていたけど、ここまで疲労困憊状態だなんて……
「なるほど、これがお前の言っていた妻と仲間か」
「あ、グーデル」
「【グーデル神官長】だ」
『この人が……』
血色が悪い顔色に窪んだ目、瞳の色はアイスブルー。髪は適当に揃えられは白髪で、それらを合わせて見てみると、正直神官と言うより魔術師と思えるようなイメージが強い。
『確か聞いた話だとロイズさんと同い年で旧知の仲だったはずだけど、どう見ても二回りは年上に見えるかな……』
「そんなに私の顔が珍しいかね、異邦人の娘」
「い、いえ」
そんなに凝視したつもりはなかったけど失礼なことしちゃったみたい。
「あの、本当にすみま」
「いや、そうやって詫びる時間をそのままここから立ち去る時間に変えてもらえれば構わない」
「え?」
「聞こえなかったのかね? 意訳したつもりは無かったのだが簡潔に伝えることにしよう。私は『ここから立ち去るように』と言っているんだ。ここに異邦人がいる理由はない、治療を望むのであれば回復屋でも行けば良い」
……えーっと。
「あの、先ほどことは大変申し訳ございません!」
こちらの対応の悪さがグーデルさんの気に障ったなら即謝ることで対応しようとしたけど。
「謝罪は不要だ。理由が必要ということであればあとでロイズに説明させよう」
取りつく島もないってこういうことかな……うーん。
「グーデル、いい加減に」
「【グーデル神官長】だ、お前物覚えが悪いのか? それとも異邦人と短くない時間一緒に行動したことで記憶に障害が発生したのか」
『なんだろ、この横柄というか応対に正直イラっとするんだけど』
だけどこの感じってゲーニスで異邦人の冒険者に敵対しかけていた時とはちょっと違う。最初からこちらを拒絶しているというか……
「リア」
ちょっと何か言わないと気が済まないというか納得がいかない状態だったわたしを察したのか、ロキシーが後ろからわたしの服を引っ張る。
『ここは素直に退散、理由はたぶんわかるから。ここまでとは思わなかったのが正直なところだけど』
『……わかった、了解』
「それでは失礼致します」
グーデルさんに軽くお辞儀をしてからマチュアさんだけ残し、わたし達はその場を後にし、乗ってきた馬車の中に移動する。
「いやぁ、よく我慢したなリア」
「えっ、顔に出てた?」
ペタペタ
「うん、鬼か般若かって感じだった」
「あはは……」
すみません、人間が未熟で。




