100話 へんなの
「落ち着いたようだな?」
「はい、ファナさんも色々とありがとうございます」
ゲーニス滞在中に利用している空き家は最初に借りてから既に三日目で、何かと使いやすい建物だったこともあり、かなり快適に過ごしていた。
もっとも、三日目と言ってもうち二日は寝て過ごしていたので、正確には三日じゃないんだけどね。
「マチュアさんから六日後にここを出るって聞いたのですが、ご迷惑は……」
「なに、問題ないよ。それに皆もリアのことが心配なんだろう。こういう時は素直に従った方が良い」
「はい、そうします」
てっきりわたしの意識が回復した次の日には出発すると思っていたけど、マチュアさんの『治ったと思った時が一番注意が必要なの!』という一言で、まさかの六日間逗留に。
『心配かけた以上、さすがに予定変更を話すのは難しいし、ここは素直に従うしかないよね』
わたしよりもハルやロキシーの方が退屈かと思ったけど、ハルはこの隙にとマチュアさんに鍛えてもらっているし、ロキシーは
「こんな味付けでどう?」
「うーん、もうちょっとお塩いれよっか。あと火力ももう少し弱めが良いかな」
「はい、先生」
と、料理作りに没頭していた。
「そうだ、さっき斥候に出していた兵士が戻ってきて、山神様が山の洞窟にいることを確認したそうだ。今は交代で祠の前に見張りが立っているから、中には誰も入れない状態だ。
ゲーニスが落ち着いたタイミングでアルブラから結界師を呼び、誰も入れないように結界を張るつもりだ」
「そうですか」
問題を起こした冒険者の討伐が済んだことで、今まで村の通行を許可していなかった冒険者に対し関を解除したことで、村の活気も元に戻りつつあると村長さんも話していたとのこと。
「それにしてもファナさんにアルブラまで御者をしてもらうなんて申し訳ありません」
「ああ、そのことなら気にしなくて良いよ。そろそろ領主へ報告に戻る必要があったのは確かだし、一人で行くより多人数で行くのが賑やかで悪くない」
わたしの事があり、ロイズさんだけが先行してアルブラへ行ったことにより、馬車を扱える人がいなくなったことに対し、ファナさんが御者役をかってくれたのはありがたかった。
逆にハルが『男一人か……』とやや緊張した面持ちで呟いていたのが少し面白かったり。
さて、
「ファナさん、一つお願いがあるのですが」
「どうかしたかい?」
「実は洞窟に……山神様がいらっしゃる洞窟に入る許可がほしいのですが」
「理由を聞いても?」
一瞬だけどファナさんの感覚が鋭くなったのがわかる。さすがに警戒するよね。
「はい……実は山神様にこれを届けたいのです」
コトン
「これは……エリクサーか!?」
「はい。と言っても【エリクサーの入っていた容器】と【エリクサー残りの一滴】という残念アイテムですが」
このアイテム、【特別クエスト】のを一応クリアしたことからの報酬アイテムなんだけど、さすがにクエスト期間の半分近くを寝て過ごしていたので、報酬もこの内容にグレードダウン。
【エリクサー残りの一滴】はエリクサーを使った後に残った最後の一滴らしく、本来の十分の一ぐらいしか効果がないことから、『期待して使うには効果が伴わなく危ない』との注意書があるほどの残念アイテム。
【エリクサーの入っていた容器】については『長年エリクサーが入っていたことにより、その効果が染み付いている』という事なのでもう少し使えるみたい。
ただし、『この容器自体に効果が染み付いた為、容器を直接摂取できないと効果が得られない』という、ツッコミ所満載な内容で……
「あー、うん……確かに人よりも山神様の方が良さそうだ」
さすがにこの内容だとファナさんも納得なようで。
「話はわかったが、さすがリアとはいえ冒険者を一人で行かせるわけには行かないから、私が同行しよう。他にも連れて行きたいメンバーがいたら事前に知らせて欲しい。
あと、さすがに今からは許可できないから三日後にしてもらうが良いかな」
「はい、よろしくお願いします」
何にせよ許可が貰えてよかったです。
「とりあえずハルにでも声をかけようかな」
ファナさんと別れてから山の中腹にある洞窟へ行くにはハルの持つ職業の力を出来れば借りたいところ。
『確かマチュアさんと組み手しているって話だったから、裏庭かな?』
そんな事を考えなから歩いていくと、裏庭から威勢の良い声と激しい音が聞こえる。
ドン
「うぉっ!」
「うーん、まだちょっと甘いわね~」
『うん、やってるやって』
裏庭へ続く扉が少し開いていたので除いてみると、上半身裸のハルと薄手のシャツで密着するマチュアさんの姿が。
ズキン
下になったハルはマチュアさんに体を絡まれたような感じで寝技をかけられている、うん。
ちなみにハルの顔はマチュアさんの胸に押し付けられるような状態で、半ば顔が胸に沈んでいる。マチュアさんもかなり良いものをお持ちだから痛みも和らぐのかな、
じーっ……
「いてててっ……って、リア」
「あ、どうぞつづけてください」
わたしは扉を閉めると元いた部屋に戻る。するとすぐに扉が開き、息を切らせたハルがやって来た。
「ハル~、女性の部屋にノックせずに入るのはどうかな~」
「あ、すまん」
「いいよいいよ、気にしないで」
ズキン
「いや、とりあえずさっきリアが見たのは組み手で投げられてから寝技を食らってただけだからな?」
「やだな~べつにわかってるよ、ハルがマチュアさんに稽古つけてもらっているのは知っているし。それにハルがマチュアさんとナニしてたってわたしには関係ないから大丈夫」
ズキン
「ま、まぁそうだが……言葉に微妙なトゲがないか?」
「いやぁねぇ、トゲなんてないわよ。ハルったら気にしすぎ」
「そ、そうか。ちなみに何か」
「うん、山神様のところはファナさんと二人で行ってくるからって話をしたかっただけだから」
「おいおい、さすがに二人じゃ」
「あ、じゃあロキシー連れて三人で行くから大丈夫! さ、わたしは二人と打合せするからハルはマチュアさんとの組み手ガンバッテ」
「おーい……」
わたしはハルを置いて室外に出ると、そのまま村の中を適当にぶらつく。
『なにやってんだろ……』
なんかアレからイマイチ変なの。