10話 神殿は回復スポット
おかしい、いまだに戦いの”た”の字も出てこない……
※1/15 文頭部おかしいところを修正しました
「正直なところ断られると思ったのだがね。
君達異邦人がこの世界に来てまで、自ら進んで苦労をかって出る事はあまり無いと思っていたからね」
「あはは……」
本当に正直な一言だけど、プレイヤーから見たら当たり前なのかもしれない。
「では説明をしよう、詳しい依頼書はこれになる」
◼依頼内容:神殿にいる神官の補佐と怪我人の対応
◼報酬:評価により異なる
◼期間:一日
報酬の書き方曖昧だけど、聞くだけ無駄かな。教えて貰えるのであればここに書いてあったと思うし。
「全然詳しくないですね」
ニッコリと微笑み、答える。
これが今のわたしにできる精一杯。
ベルナルドさんは面白いものを見たような顔をすると、何もなかったかのようにクエストについて説明をし、最後に
「また会いに来てくれるのを楽しみにしているよ」と言うと机に戻り、再び書類の整理に。
ミゼルさんはベルナルドさんから依頼書を受けとるとそれをわたしに渡してくれた。
「こちらを神官長のダレス様にお渡しください。表は混んでいるので裏口へ」
依頼書はいつの間にか封筒に入っており表にはギルドの印が。裏にはここから神殿までの簡略化された地図が書いてあった。
「ありがとうございます、それでは」
わたしは二人に軽くお辞儀をすると足早に部屋を出て神殿へ向かうことにした。
―――◇―――◇―――
「どうかね」
「私の看破でもスキルは判明しませんでした。それと能力の成長点がマイナスに」
ミゼルの看破は職業上特化した能力の一つだ。
それを使っても見抜けないとなると……
「我々に見えないスキルと、成長点がマイナスの件を合わせたらほぼ確定か」
「あと、彼女が召喚門にて黒百合と会話していたとの報告が」
「ほぅ……」
ごく稀に現れる、神々のお遊びに巻き込まれた異邦人。その事象自体が稀でありながら、成長していく異邦人は更に希有であり、殆どは数日のうちにこの世界から退場していくと噂には聞いた事はある。
「その者と黒百合が知り合いとはな……面倒事になるということか」
「女王陛下には」
「まだ伏せておけ。毒にも薬にも、それ以前に消えるかもしれない者の事を報告して陛下に煩わしい思いをさせるのは忍びない」
まだ手を打つレベルですらない。だが、
「一応影はつけておけ。ただし、近くに黒百合がいる可能性があるから慎重に」
ミゼルは「はっ」と頷き部屋をあとにする。
『また動くのか、世界が』
規定から外れた人間が現れた時、それは何かしらのシグナルと思っておいた方が良い。
空振ったところで苦労は無駄にならん。
「警戒体制を一段階上げておけ、帝国と公国、共和国の調査を怠るなよ」
準備を急がねばならないか……全てに対応できるよう、近隣諸国との準備を。
―――◇―――◇―――
「時刻は……まだ十一時かぁ」
視界を少し遠くにすると、自然に時計が目に入る。
その時計はデジタルでプレイヤー視点でしか見えない。
『こういう機能は便利よね』
ログインしたら時間がわからないという状態も考えられたが、その辺りは運営もわかっているようで。
しかしログインしてからまだ二時間とは……
キャラメイクして痛い思いして、ルナさんと話してギルド長と話して……感覚的には数時間過ぎてる気分なのは慣れないせいなのか、それとも?
「確かここの角を曲がれば」
ミゼルさんが書いてくれた地図ではこの先の神殿だったはずだけど……
「あった! アレ……ね……」
思わず思考が固まる。
目の前には立派とは言い難いものの、質素ながら大きな建物が。そしてそこに並ぶ長蛇の列には住人であろう老若男女と、鎧などを身に付けた冒険者達が長蛇の列を作っていた。
怪我をした人もいれば全身怠そうにした人も。並ぶ子供には元気がないし、冒険者達に至っては盾や鎧が破損した状態。
『……いやいや、これはちょっと多すぎでしょう!?』
ざっと数えても百人は下らないんじゃ?
『確かにこれじゃあ表から入れないし、入ったら……』
怖い考えになったのでストップ。
とにかく裏口に行きましょう、そうしましょう。
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裏口にまわり門番に依頼書を見せると、すんなりと建物の中へ。ついでにダレスさんは二階の奥にいると教えてくれたのでそのまま二階へ。
後ろから「ツナギのエルフ……」と言われたのはとりあえず置いておこう。
「はぁ……」
二階へついて通路通りに進むと、扉の無い開け放たれた部屋から盛大なため息が聞こえる。
見れば目の下に隈をつくった小柄な男性が窓越しに外を見て、再び大きなため息をついていた。
「あの……」
「あぁ、お客人に見苦しいところ見せたね。神に代わり民に癒しを与えるものが、訪れている民衆を見てため息をついているなんて」
ちょっとした乾いた笑いと共に「ここの神官長のダレスです」と挨拶が。
「冒険者ギルドの依頼書で来ました、コーデリアと申します。白魔法レベル1の初心者なのでたいしたお手伝いはできませんが、よろしくお願いします」
「おお!」
ダレスさんは大きな声を上げると
「レベルは関係ありません、他者を癒したいという思いと行動こそが大事なのです」
そう言うとわたしから受け取った依頼書を確認し、「ふむふむ」と頷き、廊下から「トーレ!トーレはいるか」と大きな声をかける。
「神官長、お呼びでしょうか」
一階から一人の青年が駆けてくると、ダレスさんの呼び掛けに応えた。
トーレさんは背は高く、ベリーショートの髪型にやや小さめなシルバーフレームの眼鏡をかけた好青年というのが見た目の印象。
「こちらのお嬢さん、コーデリアさんが今日一日我々の手伝いをしてくれるそうだ。魔法のレベルがまだ低いから軽治療の補助に当たってもらおうと思ってな、確か今日の軽治療担当は君だったな?」
「ええ、そうですが」
「ではコーデリアさんに治療と補助作業についての説明を。あとその服装では色々と問題もあるから、予備から彼女に合いそうなのを見繕ってくれないか」
あ、まだ作業着のままでした……
なんとか10話書けて嬉しい(´ー`)




