再会した彼女に困惑と動揺を隠せない俺。
のんびり更新です。そして1話読むのにそんなに時間がかからない程度に収めています。なので息抜きにでも読んでもらえればと思ってます。感想や誤字脱字その他気軽にお願いします。
「たつみくん、私たちが高校生になったとき。だからえっと…4月10日!私のお姉ちゃん、その日が高校の入学式だったの!だから、その日にあの公園の桜の木の下で会おうね。」
「うん!でも、忘れちゃうかもしんないよ?」
「なら、絵日記にこの約束のことかいておこうよ!すてちゃだめだよ?この絵日記も、その約束の日に持ってきて目印にしよう!」
「分かった、すてないようにする!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺が転校した小学三年生の時に、親友の女の子“弦光 結華”と交わした約束だ。4月10日、約束の書かれた絵日記を持って『桜丘みどり公園』にある桜の木の下で待ち合わせる。小学生がする約束にしては、どうも洒落ているような気がしてならない。それも彼女の姉による影響だろうと思うが…そんなこと、今はどうでもいい。
何故なら、今日がその約束の日なのだ。昨日の夜は、緊張でなかなか寝付けなかったが同時に「この約束は有効なのか」と思った。だって、小学生の時の約束だ。子供心にされた、その時の気分によるものだ
しかし、口約束ではなく互いに絵日記というものに約束を記している。俺がその絵日記を捨てれば無効になるのかとも思ったが、僅かな罪悪感にその行動は制止された。それに、向こうの絵日記にも俺との約束は記されている。
まぁ、その件に関しては俺が忘れたと言い切れば良いのだろうが……やはり、罪悪感が…。けどまぁ、黒髪のよく似合う結華ちゃんが高校生になった姿に興味はあった。
時間などの詳細な約束をしていなかったなと今更に感じながらも遅いに決まっている。
俺の通うことになった高校の入学式が丁度この日だったこともあり、早く式が終わった。一旦家へと帰り着替え、絵日記を机から引っ張り出し、俺は約束の場所へと自転車で向かった。
転校し、引っ越したと言っても当時家から近かった『桜丘みどり公園』までの距離だって大したことはない。けど、当時小学生だった俺らからすればなかなかのものだったに違いない。己の足や体力だけでは行くに厳しく、そもそも家も知らなかったからな。
そんなことを考えながら涼しい風を切りながら自転車を走らせていれば、いつの間にか目的の公園へと着いていた。この公園は広い割には遊具などは少なく、芝生が広がっていることもあってよく休日になると親子連れが遊びに来ていたのを思い出す。その芝生を抜ければ、色とりどりの花が植えられた花壇が広がっており、その奥に桜の木が一本植えられている。
だから、彼女と約束していた桜の木はこれしかないのだ。目印となる絵日記をリュックから取り出せば、俺は僅かに見えるその桜の木の下へと向かい歩いた。進んで行けば一人の目立つ女の姿があった。目を凝らしよく見た俺は驚きを隠せなかった。
何故なら、俺の目の前に居たのは、『パンチの悪魔』というクソダサい異名を付けられた女だったからだ。その上ノートを持っているではないか。恐らく…いや、あれは絵日記に違いない。桜の木の下でノート片手に待つ用事なんて他にあるわけないだろう。
俺の中学で、周りの男子や女子が、突然現れた喧嘩がクソ強い女がいるとか何とかで噂していたことがあった。それは他校でも同様だったようで…。その時に、友人から隠し撮りしたという彼女の写真を見せてもらった。金髪の背中半分まであるロングヘアーに、スケバンを彷彿させるようなセーラー服。勿論スカートは足首付近まで伸ばしてある。今俺の目の前にいる彼女の姿はまさしくそれだった。けど、彼女がその『パンチの悪魔』だと分かったのはそれだけが理由じゃない。彼女の髪には花の髪留めが付けられていた。真っ赤なバラの髪留め。それが同一人物だと表す確かな証拠。此処まで偶然ということは無いだろう。それにしても、中学の頃の姿の筈なのに何故まだ同じ格好なのだろうか?セーラー服の高校をわざわざ選んだのか?
とにかく、俺と再会するまでの間に何かあったのは間違いない。俺も喧嘩を吹っ掛けられる前に此処から立ち去ろう。そう思い後退りするも、俺の足元に偶然あった石を踵で蹴ってしまった。小さい音であるも、静かな公園で彼女の元まで音が届くには十分だった。
あぁ、神様は悪戯が好きなんだな…。私より遅く来るなんて良い度胸してんじゃないのーなんて怒られてぶん殴られるんだろうか。嫌だな…。俺、こう見えても中学の頃そこそこモテてたし今日の入学式でだって、何人かの女の子に声掛けられたんだぞ。まじで勘弁してください。
なんて、彼女が俺の方を振り向くまでの短い瞬間に考えてた。そして、眩しい太陽に照らされ、ただでさえ明るい金色の髪が太陽光のせいでより明るく、眩しく見えた。思わず目を細めさせながら自分の顔を隠すように、手に持っていた絵日記で自身の顔を隠してしまった。
バカだったな俺は。走って立ち去れば良かったのに、そんなことしたらバレたとき殺されるんじゃないかとか思って無意識に絵日記を顔の前へとやっていた。それが彼女へ「小学三年生の時に会う約束をした浦風辰己ですよ。」なんて教えてるようなもんだったのに。振り返った彼女はスタスタと歩き俺の元まで歩み寄ってきた。
「辰己くん…だよね?私との約束、ちゃんと覚えててくれたんだね。すっごく嬉しいよ…!」
「……へ?」
予想とは全く違った彼女の言葉に思わず間抜けな声が出てしまった。全く怒ってなんていなかったし、むしろ喜んでくれていることが彼女の声色と表情からも分かった。少し頬を染めさせながら嬉しそうに目を細め緩む顔。古臭いスケバンスタイルな恰好とは似合わない程に可愛らしく、唯一昔の彼女と変わっていないと思えるものだった。
「辰己くん、今日はありがとう。時間もちゃんと決めてなかったから会えるかどうか凄く不安だったし、そもそも小学生の頃の約束なんて日記に書いたことすら忘れてるんじゃって思って……。だから私、すっごく嬉しいの…」
「えっと…、俺も本当はちょっと迷ったんだ。昔の約束は有効なのかなって。け、けど…もしも待たせてたら申し訳無かったし…結華ちゃんに会いたかったんだけど…」
「けど…?あ、やっぱりこの格好変かな。中学の頃の制服のままなんだよね…、高校の制服ブレザーでさ。なかなか着る気になれなくって」
苦笑しながら話す彼女。やはりそれは中学の時の制服だったのか。俺は、喧嘩や異名について質問してみたかったが再会して直ぐに話す内容でも無いような気がした。それに、過去の話は必ずしも話題になる。だから聞かずとも自然に彼女の口から聞けるんじゃないかって思ったから。とにかく、普段の彼女のことは知らないけれど、俺に対しては小学生の頃の優しい彼女のままで安心した。
取り敢えず、彼女の格好はは「私はパンチの悪魔です」なんて言いながら歩いているようなものだ。目立って目立って仕方がないので最高に着替えてほしい。どうにかして着替えさせる方向にもっていくことは出来ないだろうか…。色々と思考を巡らせるも結局何も思いつかなった俺は、少し離れた所にあるベンチへと一緒に座った。
「えっと…何を話そうか…」
「あのね、辰己くん」
「ん?」
少し緊張しているのか、結華ちゃんは下を向いたまま小さな声で俺の名前を呼んだ。会う前から緊張して、会ってからは色んな意味でバクバクな俺の心臓が、彼女の緊張をも拾って俺へと伝染させる。何を言われるのだろうかと手に軽く滲む汗を拭き取ろうとズボンで擦った。すると、隣で深呼吸する音が聞こえた。
「私、あの約束する日のずっと前から…辰己くんのこと好きだったんだ。」
「えっ、え?」
「それでね?辰己くんが転校してから今の今までも気持ち変わらなくって…。転校してからは、今頃辰己くん新しい友達出来たのかなーとか…、好きな人出来ちゃったかなとかずっと考えてて…。あのね?私、今も辰己くんのこと好きなんだ…。」
「ちょい、えっ…待って…」
「辰己くん、私と付き合ってくれませんか?」
待て待て、こんな展開誰が予想してた?!誰も予想してないよ!いや、え?確かにこう…昔の黒髪ロングの清楚な姿だったら俺も喜んでいたのかもしれない。けど、いくら中身が変わっていないからといって、彼女は此処らでは悪い意味で有名な子だぞ…。付き合ったりしたら俺まで変な噂が立ちかねないし…それに、今の彼女は俺の好みからは逸れ過ぎた姿だ。とてもじゃないけど付き合えない。
どうしよう、あぁ…無理だ。逃げたい。もうだめだ、限界だ。状況が呑み込めなさ過ぎて頭が爆発しそうだ。
「ご、ごごごごめんなさい!パンチの悪魔とは付き合えませんん!!!すいませんでしたあああ!!」
俺は気が付いたらこんなことを叫んでは、全速力で逃げていた。情けない事この上ないけれど、今の彼女とは付き合えない。
ごめんね結華ちゃん…、せっかく勇気を振り絞って俺に告白してくれただろうに。なのに俺は…。なんて、罪悪感に顔を歪ませながら走っていた。
けれど、さすが喧嘩負け知らずの悪魔の結華…
「待って!!たつみくんんん!!!」
パッと後ろを振り返れば、全速力で俺を追いかける結華がいた。それはもう凄い形相で…こんな顔子供が見たら泣いてしまうぞ。必死さが伝わりすぎてヤバイ。気を抜けば追いつかれてしまいそうで、俺は恐怖に叫びながら走り逃げ続けた。