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予感

 未来が部活に来れないと監督に伝えると、酷く心配していた。

 他の部員も同様に、彼女と会った時はそこまで体調が悪そうには見えなかったそうだ。


(本当にどうしたんだろうな。今朝からずっと何もなかったようにしか見えなかったし、見抜けないはずもないからなぁ、未来は隠し事下手だし、、、嫌な予感がするけど練習やらないとな。集中集中っと。)


 その後は若干もやもやした考えを抑えて練習に取り組んでいたのだが、少し休憩を入れようとした時に、、、


「うっ、、、。」


 目眩を感じた。まるで体が浮かび上がりそうな感覚、足が地に着いてないようにも感じた。思わず膝を着いてしまったが為に周りの人を驚かせてしまったようだ。なんか嫌な予感がするな。


「大丈夫です、ちょっと目眩がしただけなので。」


 それを見た監督の顔色があまり良くなかったような気がしていたが、恐らくやりすぎたとかそんな感じだろう。

 監督にそんな事はないと伝えると安心したようだ。休憩もついでにお願いして外に出ようとしたその時だった。


「「火事だぁぁぁぁぁっ!」」


 校舎の方から何人かの生徒が走って来ながら叫んでいた。

 まさか、冗談だろうと思い、周りが指を指す方を見ると、校舎が燃えていた。これはちょっと洒落にならないんじゃ、、、


『か、火災発生!火災発生!せ、せせ、生徒の皆さんは、落ち着いてグラウンドに避難して下さい!繰り返します!火災発生!生徒の皆さんはグラウンドに避難して下さい!』



 相当焦っている恐らく新任の教員であろう人が噛みながらも必死に放送で呼びかけてくれた為にみんなが一斉にグラウンドへと走る。

 俺も思わず向かおうとしたが、まずい事を思い出した。



 未来がまだ校舎にいる。



 そう、未来がまだ保健室にいるはずなのである。

 震える手で携帯を取り出し電話をかけると三コールした後に彼女が出た。


「未来っ!今どこにいるんだ!?早く校舎から逃げろ!」


『和矢?今保健室にいるんだけどどうかしたの?逃げろって避難訓練か何かあってるの?』


「訓練じゃない!まじで校舎が燃えてるんだよ!放送は聞こえなかったのか?」


『っ!嘘でしょう!?放送って、、、スピーカーが切ってあったのかも。とりあえず一番近い出口に向かうから!』


「分かった!通話は繋げたままにしておくからな!」


『うん!分かった!和矢も気をつけてね!』



 とりあえずちょっと慌てているようだが出口に向かったようだ。

 俺は別校舎から保健室へと向かう。

 向かいながらも携帯を握りしめて走る。現状ではそれしか彼女の無事を確認することができないからだ。


 燃えている校舎の入り口まで来たがまだ叫び声などが聞こえる。

 これはかなりまずい。消防士もまだ着きそうにない。

 飛び込むか否か迷っていると携帯から声が聞こえた。








『和矢、、、ごめんね。』







 今何て言った?何で謝ったんだ。




「未来っ!しっかりしろ!未来!!」



 通話が、切れていた。

 全身が震える。冷や汗も止まらない。



 未来が逃げれていなかった。



 俺は迷わず近くの水道で頭から水を被って、口を手で覆い、燃える校舎に走り込んだ。訓練の事を今更ながらも思いながら低い姿勢でできるだけ速く走る。


(未来、無事でいてくれ!)



 どれくらい走ったであろうか、彼女が見つからない。熱い上にそろそろ苦しくなってきた。一酸化中毒というものだろうか。でも諦められない。家族も同然である彼女を助けるまで足を緩めない。

 苦し紛れに電話をかけると、、



 〜〜♪〜〜♪



 聞こえた。彼女の携帯の呼び出し音が。


 震える足を奮い立たせ、一目散に向かった。音を頼りに走ると助けを求める声も聞こえた。


(まだ逃げ遅れた人がいるのか。)


 そう思いながらも走ると、、、


 見つけた。

 助けを求める声がする部屋の扉の前に彼女は倒れていた。


「未来っ!しっかりしろ!未来!」


 彼女を抱き起こして、息があるのを確認すると少しだが安心した。

 この場で倒れていたってことは部屋から出られない人を助けようとしたのだろう。こんな状況でも他人を助けようとする彼女の勇気を褒めるのは後回しだ。ついでに勝手に諦めた未来には説教をしなければ。


 無事を確認した後閉じ込められた生徒と思われる人の救出だが、火の手がかなり回っており、すぐにでも引き返して逃げたかったが、見殺しにするのは人としてどうかと思うし、彼女が助けようとしたのだから絶対に助ける。

 そう意気込んで中にいる人物に呼びかける。


「おい!大丈夫か?今助けてやる!」


「すまない!君も危ないというのに!扉が急に動かなくなってしまったんだ。それをどうにかしてもらえれば出れそうなんだ!」


  この火事の中落ちついているが、、、出られない理由がな、、、

 モップがそれはそれは見事に扉の隙間に挟まっている。

 人為的にじゃないとこうはならないだろう。一体誰がこんなことを。いや、それは後だ!とにかくこれを外さないといけない!


(くそっ!思った以上にしっかりはまってる!いい加減逃げないとやばい!)


「モップが挟まってる!そっち側から思いっきり蹴ってくれ!速く!」


「わ、わかった!行くぞ!」


 ガァァン!!

 蹴って扉が揺れた拍子に勢いよくモップを引き抜く。


「取れた!早く逃げるぞ!」


 さっきの蹴りの強さなら蹴破れたんじゃないかと余計な事を考えたがそれを振り払い逃げるように促す。



「すまない!助かった!行こう!」


 助けた生徒は生徒会長の、、、忘れた。後で聞こう。

 とりあえず男子なので急かして走らせる。

 俺は未来を背負い3人で出口へと向かう。ずっと走りっぱなしの上に何より呼吸が苦しい。それでも走る。生き延びてもいつもの日常は送れそうにはないが死んだら元も子もない。

 助けた会長は足が速く俺の前を走っている。彼も火事現場の中にいたであろうに、多少の息切れをするくらいの感じで走っているので嘆かわしい。


「出口だ!助かった!君!早く来るんだ!」


 出口が見えるとさらに加速し一気に飛び出した彼はこっちを振り返り呼びかける。

 言われなくても分かってる。返事をする余裕がないのでスパートをかけた時、会長さんが俺の背後を見て驚いている。

 思わず俺は振り返った時、、、


「ッ!!」



「どけぇぇぇぇぇぇ!!」



 怒声とともに俺は弾き飛ばされた。

 とっさに未来にダメージがいかないよう片手を彼女の頭に当てて横向に倒れた。


(くそっ!誰だこんな時に!)


 悪態づきながらも立ち上がろうとすると足に激痛を感じた。


「痛っ!!」


 さっき飛ばされた時に足を捻ったらしく、うまく立ち上がれない。


(なんで今に限って怪我なんてするんだ、よりにもよって足を!

 でも、我慢すりゃいい!死ぬわけじゃないんだ!)


 痛みを堪え一気に立ち上がる。大切なものを守る為に。

 そして目の前の出口へと走る。走る、走る。

 生き残ってみせると、またいつもの日常を未来と過ごす為に。



「うおぉぉぉぉぉっ!!」



 最後の力を振り絞り勢いよく飛び出した。

 同時に目の前が真っ白になり、和矢の意識は途切れた、、、




  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「うわぁぁぁぁっ!!」


 勢いよく跳ね起きて思い出した。俺は燃えた校舎から逃げ遅れた未来を助けにいったんだ。彼女を背負い、彼女が助けようとした生徒、会長さんを救出して、誰かに弾かれて、ギリギリで飛び出したんだ。

 結局助かったかどうかは分からないが、こうやって考えることができるという事は生き延びたということなのだろうか。

 見渡せば白い壁に絵が飾ってある。そして俺が今寝ていたベッド。

 なんとも簡素な部屋だ。まさに病人が寝る為の部屋という感じだ。

 ということはここは病院なのか?

 そこで俺が1人であることにハッとして声をあげた。


「未来っ!?どごだ!?未来!」


 自分の命を投げ打って助け出した未来の姿が見当たらない。

 別の病室にいるのだろうか。

 ベッドから降りて部屋から出ようとすると、、


「これはこれは勇者候補様!叫び声が聞こえてものでどうしたものかと思ったので来てみたのですが、その様子なら大丈夫そうですね。」



(勇者候補、、様?どういう意味だ?)

 疑問に思ったので目の前にいる女性に尋ねてみた。


「あの、勇者候補ってなんのことでしょうか?」


 それを聞くと女性は、


「あなたはこの国を救うために召喚魔法で召喚された勇者候補様の1人です」


(ふーーっ、とりあえず頭がおかしくなってしまったかな。疲れてるのかもな。勇者やら召喚魔法だなんてあるわけがないだろうに。ん?勇者候補の1人だって?じゃあ他にもいるのか?)


 考え事をしていると女性が困った顔をしていたので、納得できてないが話を聞いてみることにした。


「他の候補者は既に起きて病室を出ております。全員の方から体に毒素のようなものを検知したので浄化をしました。あなたの場合は特に毒素が多く、足も怪我をなされていたようなので治癒魔法を行いましたが、足は大丈夫そうですね。


 今更気づいた。足が全然痛くない上に体も軽い。

 これは本当なのだろうか。


(他の候補者か、、全員に毒素みたいなものって言われたら火事現場にいた人かな、、、未来は!?)


「あの、すいません。俺が背負っていた女の子を知りませんか?

 名前は藤咲未来っていうんですけど。」


「あ、その方ならすぐに昨日のうちに起きてあなたを心配されていましたよ?とにかく無事なので安心してください。」


 よかった、とりあえず未来も無事のようだ。

 会いに行かないとなんとなく後が怖くなりそうなので彼女の元に向かうことにした。


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