7話 「キモイ、ウザイ、くさい」
その日、ノラとコナーは町はずれにある古びた酒場に足を運んでいた。
何故こんな場所にノラ達がやってきたのかというと、とある人物からここで会いたいとお願いされたからだ。
なんでも、ノラ宛てに突然メッセージが入り、仕事の依頼をしたいのだそう。
木目の粗い丸いテーブルを囲むようにして備え付けの椅子に二人は腰をおろしていた。ちなみにコナーはノラの付き添いで訪れていた。
「猫ちゃん、約束の時間は?」
「二時」
ノラの返答を聞いてコナーは、自分の画面左上に小さく表示されているデジタル時計に視線を移した。
人物との約束の時間からとうに三時間は過ぎている。
コナーはなかなか姿をみせないメッセージの送り主に、不信感を覚え始めていた。
「猫ちゃん、その人来る気配ないけど」
「……」
「もしかして、悪戯とかかもしれないよ?」
その場にいるのは、NPCの店主とノラに、コナーの三人だけだったが、何故か声をひそめていってくる。ノラは呆れたように、コナーをまじまじと眺めた。
「おっさん、待つのが嫌なら帰っていいよ」
そう言うとノラは口をへの字に曲げてムッとした目つきでコナーを睨み付けた。
この手のゲームでは、相手の顔が見えないのを良いことにこういった悪戯をする人間も少なくはないのでコナーの言い分にも一理ある。しかしこれはノラの受けたメッセージだ。したがって、コナーに口を出される謂れはない。
「そんな怖い顔しないでよ。俺は、猫ちゃんを心配していっているのに」
「キモイ、ウザイ、くさい」
「最後のくさいってなんだよ!」
「おい!」と突っ込みをいれたコナーの声に重なるようにして、「あの~」と女性の声が聞こえてきた。
声のする方へ二人が振り返ると、まん丸の大きな瞳でこちらを見つめているショートカットの綺麗な女性と目があった。
「ノラ……さんですか?」
小首を傾げて探るように女性が聞いてくる。
そんなことは表示名をみれば一目瞭然だろうと思ったが、律儀に「そうですよ」とノラは返事をして頷いた。
女性は、表情を明るくして「よかったー!」と、胸を撫で下ろすとノラの両手をとって目を輝かせている。
「私が、メッセージで依頼を送ったラスカルです。ごめんなさい、遅くなってしまって」
「ああ、あなたが」
両手をとって上下にブンブンとふりながら、ラスカルが出会いを喜んでいる。
女性のテンションに圧倒されてポツンとその場に取り残されてしまったコナーは「ごほん」とひとつ咳払いをして自分の存在を知らしめる。
すると、ラスカルがやっとその存在に気付いたようで、コナーに目を向けてきた。
「えーっと……保護者の方ですか?」
ラスカルに、そう問われて「なんでだよ!」とコナーはその場にズベッと転んだ。
「この人は、私に利用されたくて無理やり後をつけてきているだけだから気にしなくていいですよ」
「えっ、ドM?」
「誤解を招くようなこといわないでよ! 俺たちはパーティを組んでいるんですよ。彼女は俺にとって大切な仲間なんです」
コナーがそうきっぱりと答えると、ノラは文句を言う気が失せたのか冷ややかな眼差しを彼に向けているだけだった。