17話 「残念」
コナーは、ノラから抜き取ったクレイモアを中段に構えると、半身の姿勢をとった。魔法使いとは思えないほどにごく自然な動作。
男は戸惑いながらも、サーベルを構えなおすとつま先を蹴って下方から振りかぶる。
その攻撃を体を捻りながら、瞬時に交わしたコナーは口もとで呪文を囁いた。
すると、大剣クレイモアの刀身がゆっくりと赤みを帯びていく。
「何をするつもりだ?!」
「言っただろう、茶番はここまでなんだよ」
そうコナーが言った瞬間、彼の姿がフッと目の前から消えた。
驚いた、男は「何?!」と声を荒げると、上下左右に首を振ってコナーの姿を追った。しかし、彼の姿はどこを探しても見当たらない。
この一瞬の間にどこへ隠れたというのか、男はギリッと唇をかみ締めた。次の瞬間に、ザシュッという大きな音を立てて男の胸のアーマーから炎の燃え滾ったクレイモアの剣尖が突き出ていたのだ。
コナーがいつの間にか男の背後に回って、背中からクレイモアをつき立てたのである。突かれた場所は、心の臓。プレイヤーにとって、急所だった。
「残念」
後ろだよ、とコナーが告げたときには男のHPはゼロになっていて、言葉を発する間もなく彼はガラスの破片になって消滅した。
「まだやる気か?」と、コナーは大剣を振り回しながら残りの仲間に視線を送ったが、彼らはコナーを勝てない相手だと判断したのか、速やかにその場を去っていった。
コナーは、フウッと息をついて地面にクレイモアをつき立てたが、それもつかの間。
ノラの傍らで勝敗の行方を見守っていたラスカルが突如大きな声を上げて彼を呼んだ。
「コナー! 大変よ!」
名前を呼ばれたコナーは一目散にラスカルとノラの元へと駆けつけた。
***
小さな子供の泣き声が遠くで聞こえる。
ノラは、ゆっくりと目を覚ました。
ここはどこなのだろう。
――真っ暗な世界。
あたり一面真っ暗なこの世界に、ノラと小さな子供二人きり。
子供は蹲って、嗚咽を漏らして泣いている。
性別はわからない。
「どうしたの……? どこか痛いの?」
ノラはそう尋ねると、子供はいっそう泣き声を上げて首を左右へ振った。
「どうしてそんなに泣いているの?」
泣いているばかりで、理由を話そうとしない子供。けれどもノラは、尚も子供に問いかける。すると、子供は急に泣きやんで、ゆっくりと立ち上がった。
突如訪れた静けさに、ノラは息をのんだ。
「どうして……? どうしてちゃんと見てくれないの?」
女の子とも男の子ともとれる高い声で、逆に問い返された。質問の意図が理解できずに、ノラは首を傾げる。
「……? 何のことをいっているの?」
ノラが、そう呟いたと同時に子供は俯いていた顔を上げた。
その顔にノラは驚くと思わず悲鳴を上げてしまう。
子供の瞳からは幾度となく血が溢れた。
そして、子供はニィッと口角だけ上げて笑うと、魔物のような声でこう呟いたのである。
「どうして、ちゃんと見てくれないの? おかあさん?」
ノラは、言葉にならない叫び声を上げて目を剥いた。
そこには、驚いた顔をしたコナーと、あと一人見覚えのない色黒の大男が自分を覗き込んでいた。
「猫ちゃん、大丈夫か?」
コナーの問いにも、頷き返すのが今は精一杯だった。
今のは夢だったのか……それとも。
地面に寝転んでいるノラの体を、コナーが抱え起こした。
「だいぶ魘されていたみたいだわ……この子。怖い思いをさせて悪かったわね。私のせいだわ……全て」
ラスカルの言葉に、コナーはいっそう表情を険しくすると「まったくだ」とはき捨てた。
「ラスカル、君には今後猫ちゃんに対して誠意を見せて貰わないといけない。少なくとも彼女は君を本気で心配して救ってあげようとしていたんだからな」
低く呟いたコナーに「わかったわ」とラスカルは塩らしく頷いたのであった。




