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13話 「あんな顔させるぐらいなら……」

 










 コナーはベッドにノラを押し倒した。


 ノラの瞳に自分の姿が映る。





 すぐにノラはキスをせがむ様にその大きな瞳を閉じる。

 その仕草に男の本能を刺激された。




 こんなに可愛い幼女と二人きり、ベッドの上。


 これから彼女を自分の欲望のままに扱える。


 こんなチャンスきっと二度とこないだろう。


 据え膳食わねばなんとやら……、けれど不思議と心は満たされない。



「君は誰だ……」



 口をついて出た言葉。自分でも自覚はなく本当に自然とこぼれてハッとなった。



 実は頭の片隅で気づいていたんじゃないか?


 目の前の女の子は、ノラではないと。



 コナーにそう問われて、ノラは閉じていた瞳をゆっくりと開けた。


 ふと視線を上げた先で、コナーが痛ましいものを見るような眼差しで自分を見つめている。



「早く、始めましょう?」


「君は、猫ちゃんじゃない……」



 誰なんだ、とコナーがしつこく言い足すとノラは口角を上げて笑う。



「私はあなたの大事なパーティメンバーのノラよ?」


「違う、猫ちゃんはこんな……」



 ノラは咄嗟にコナーの口を塞いだ。



「そんなこと……どうでもいいじゃない……」



 少女が、目元を潤ませて「早く」と言いたげな恨めしい目を向けてくる。


 熱くなる身体とは裏腹に、コナーの心は複雑だった。


 ノラはこういう事を平気で出来る子じゃないって自分が一番わかっていたじゃないか。


 それなのに、色香に惑わされて一瞬でもその気になってしまった自分に嫌悪感さえ覚える。


 キスをせがんだとき、ノラは思いがけずそれに答えてくれた。


 しかしその時のノラの顔はどうだった?


 心からそういう行為をしたくて及んでいた顔とは到底思えない。


 あんな、絶望的な顔をさせてまで俺は彼女としたかったのか?


 コナーの心情は、やり切れない悲しみに包まれていくばかりだった。



「あんな顔させるぐらいなら……」

 


――いつもみたいにきつい言葉で責められたり、冷たい目で蔑まれた方が100倍マシだ。



 そう思った時には、目の前の少女に突き飛ばされていた。


 突然のことだったので受身をとる暇もなく、ベッドの下に無様に転がった。



「情けないわねぇ……! やるのやらないの?! どっちなの?!」



 ノラは突然怒号すると、床に転がったコナーに馬乗りになって激しく肩を揺さぶってきた。



「猫ちゃんはどこにいるんだ。知っているんだろ?」


「……は? この状況であの子の心配?」


「彼女の居場所を教えろ。さもないと君には少々痛い目を見てもらわないといけなくなる」


「ちょっと顔がいいから可愛がってやろうと思ったけど、やめたわ。あの子と一緒にあなたも始末してあげる。二度と此処ディスオーダーインフェクションに出入りできないようにしてやるんだから」



 ノラは舌なめずりすると、手早くゲームウィンドウに指を滑らせ手元に拳銃ハンドガンを出現させる。使用銃は、ベレッタM92F。アルミニウム製のピンク色のフレームに、同じくピンク色をしたスチール製のスライド、グリップはピンク色の迷彩柄が施されており乙女チックな印象を受ける。この銃はイタリア製のもので、アメリカ軍の正式銃としても知られる有名な代物だ。



 銃を一瞥しながら、コナーが「ほう」と目を細める。



「……ガンスリンガーか。遠距離攻撃に特化している、銃使い。レベルによってはライフル、ショットガン、グレネードランチャーを扱えるようになる。銃は弓と系統が似ていて、敵を逃げ撃ちしたり、非移動型モンスターを一方的に倒すことができるのが特徴だ。しかし攻撃性は高いが、燃費が悪い。初期職にはあまり向かないと思うけど」


「うっ……! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい!」



 銃を構えたノラは銃口をコナーの額に擦り付けて立て続けに発砲した。コナーは、ノラの怒りを受け止めるように抵抗もせず、じっと動かない。


 乾いた銃声が室内に響いたが、コナーは涼しい顔をしてノラを見上げるばかりだった。



「嘘……っ、なっ、なんで消えないのよ……?」



 ノラは「くそっ」と吐き捨てると、コナーを蹴りつけて部屋の隅まで移動する。そして壁に背を向けて銃を構えなおした。その手は僅かに震えている。


 コナーは首を回しながら、ゆっくりと身体を起こして立ち上がり少女を見つめた。



「死ねぇえええ!!!!」



 ノラは、奇声をあげながら引き金を連続で引いた。銃弾は少し離れた場所に立つコナーの身体に次々と命中していく。彼の身体に弾痕が走るたびにホロが削れるようなエフェクトが目に入った。


 銃を打ち続ける最中さなかに、ノラはあることに気づく。


 コナーのHPが、まったく変化していない。




 ――いや、違う。




 コナーのHPは最初からゼロ。


 無色透明なのだ。



「残念だけど、俺を倒したプレイヤーに未だかつて出会ったためしがないんだよ。消えるのは君の方だ……」



 乾いた笑みを浮かべたコナーは、ゆっくりとてのひらを目の前にかざした。












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