11話 「この手の犯罪者は皆そういうんだよ! 早く捕まってしまえ!」
「ついに外されちゃったかぁ」
コナーは、自分のパーティメンバーにノラがいなくなっていることに気づき、大きくため息をついた。
気落ちしているコナーとは、相反して彼の訪れた酒場はおおいに盛り上がっている。
「なーにしみったれた顔してんだよ!」
コナーの向かい側に座っている男が酒を煽りながら視線を投げてくる。昔、別のゲームでギルドを組んだことのあるライヤという名前の男だ。ライヤとは歳が近いこともあって、現実世界でも友人関係にありお互いの家を行き来する仲でもあった。困ったことがあるとこうやって集まっては相談しあっている。
むさ苦しい男の容姿を一瞥して、コナーは浮かない表情をする。
「……いや、野郎と飲む酒はこんなにもまずいのかと思って」
「ああ?! 自分で誘っておいて! お前本当に失礼なやつだな!」
空になった自分のグラスを見つめ、ライヤは片手を挙げてNPCの店員を呼ぶ。そのまま黙りこくってしまったコナーを不審に思ったのか「それで話って何だ?」とライヤが顔を覗き込んできた。
「……最近パーティを組んだ女の子を怒らせてしまってね。仲直りしたいけど自分でもどうしたらいいかわからなくてさ。いい歳した男がこんな相談するなんておかしいだろ?」
今振り返ってみても一回りも違う女の子相手に大人気なかったな、と反省している。
彼女を止めるにしても、もうちょっと他にやり方があっただろうに。
パーティからコナーを外したという事は、つまり完全にノラは心のシャッターを下ろしてしまったということで……、もうコナーとは金輪際関わりあいたくないという無言の意思表示でもある。
「へぇ……。女の子? いくつだよ?」
「十五歳。すごく可愛い子だよ」
「十五歳って……中学生じゃねぇか……っ。お前それ、あきらかに犯罪……」
「うるさいな。彼女に対して不純な気持ちはないんだ。いやらしい目で見てはいない」
「幼女物のAVだらけのお前の部屋を見た後では、まったく説得力にかけるな……っ」
それを聞いたコナーは咄嗟に、テーブルの下でライヤの足を蹴った。
「痛ぇな! 本当のことだろう! それにお前! この間道行く小学生を横目でみつつ「これだから小学生は最高だぜ……」とかほざいていたじゃねーか! どうせその子もそういうフィルターかけてみてるんだろうが! この変態が!」
「それ以上言うな! 俺は可愛いものは可愛いと愛でているだけで、断じて変態ではない!」
「この手の犯罪者は皆そういうんだよ! 早く捕まってしまえ!」
お互いに詰りあって騒いでいると、小さな酒場にハイヒールの音が響いた。
コツコツと規則正しい音を立てながら長い黒髪を揺らして、一人の少女が二人のテーブルまでやってくる。
「コナー、探したわよ? 迎えにきたわ」
聞き覚えのあるその声に、コナーはゆっくりと顔を上げる。
そこに立っていたのは、今絶賛話題に出ていた十五歳の女の子、ノラだった。
「ねっ……猫ちゃん?」
ノラは困惑気味のコナーの腕を掴むと、恋人が身を寄せるようにその腕に絡み付いてくる。
「早く……行きましょう?」
そう耳元で呟かれて、コナーは怪訝そうな顔で席を立つと「帰る」とライヤに目配せをした。
ぴったりとくっつく二人を目の前にしてライヤが「なんだよ、結局できてるんじゃねぇか」とおもしろくなさそうに野次を飛ばす。
コナーはすれ違いざまに「またな」とライヤの肩を叩き足早に店から出て行った。