花弁と死神
ここは教室。周りがやけに喧しい、気がする。
時刻は1時を回っている。昼休みってやつだ。
そんな雰囲気にそぐわず、僕はただ黙って一人の少女と数日前の出来事に思いを馳せる。
絶望としか言いようのない感情に苛まれながら――
一人の少女がいた。何だか変な奴だったな。
漠然と日々を過ごしていた僕を園芸部に引っ張り込んだり、
「へへ、綺麗でしょ?」
とか言ってジョウロで水をやりながら嬉しそうな笑顔で花を見せてくれたり、
「よそ見してるけど水やりすぎじゃ」
「え、うわっわわわ!」
…少しドジだったり。
優しい表情。愛おしそうに水をやる姿。いつの間にか恋に落ちていた。
…あんな事になるなんて。
部活を終え一緒に下校していたんだ、花の事なんかを話しながら。
途中「寄り道しない?」と言われて花屋に入って一緒に花を見たっけ。
その店から出る時にはあの娘の手には色々な花があった。
「へへ、一杯買っちゃった」
「ほんとだよ。前、見えるの?」
「大丈夫だよー」
…この不安が的中するなんて。
坂道の下にある交差点。
あの娘は黄信号で少し飛び出してしまった。
死神は本当に存在するんだ。
―花弁が舞い散る。轟音と共に。僕の大切な人の命と一緒に。
回想をやめる。
もしあの時「止まれ」と言ったなら。
頭の中で様々な『もし』が重なる。
回想する僕の足は学校の一番高い所へと向かっていたらしい。
青空に風が吹き抜ける。
僕はふと思った。
この金網の向うに行けば君に会えるかも知れない。
体が勝手に動く。
あの娘の笑顔が頭に浮かんでいた。