表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら魔法犯罪取締室〜最狂の窓際部隊が帝都を闇から守り抜く〜  作者: 尾田jerart


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/9

第9話

~インカータ周辺 sideグレイ~


吐き出した紫煙が、薄暗い雑居ビルの一室でゆっくりと散っていく。

窓の下には、ネオンの看板を掲げたクラブ「インカータ」が見える。


視線を下に向けると、この五日間で空にしたコーヒーやエナジードリンクの缶が無造作に転がっていた。


「それにしてもセレスのやつ、思ったより良い仕事しているな。」

手元のモニターから店内の様子を眺めながら、俺は独りつぶやいた。


潜入捜査は特有の慣れが必要だ。それこそ戦闘なんかよりも難易度は高い。


だからこそ正直俺は驚いていた。

任務が始まる前までは、新入りがいきなり潜入捜査なんてできないと考えていたからだ。


戦闘よりも割と経験がものをいうことが多いこの仕事を、入りたてペーペーのセレスが慣れないながらも一人でターゲットと接触するチャンスを得たのは驚愕に値することだった。


(セレスが思ったよりやるから、これはもしかしたら俺の出る幕はないか?)


今回の任務はさすがに俺が働かなければいけないと感じていたから、始まる前は憂鬱だったが、始まってみれば最初の指示と報告を受け、手元のモニターでセレスの動きを見る以外は特に俺の仕事もない状態だ。


(全くどうなってんだあいつは。さすがに出来が良すぎると思うがな。そういえば前回の事件のときも室長のテストに食らいついていたな。何で()()()()に優秀な奴がこんな部署に来たんだか。訳ありか、、、?)


俺がセレスの事情について考察していると、ポケットに入れていたヴォックスが小さく振動する。

セレスからの短い通信。

『——今からマル被と接触します』

「いよいよか」


俺はパイプ椅子から立ち上がると、無造作に羽織っていたヨレヨレのコートを脱ぎ捨てた。そして、バッグから取り出した柄の悪いシャツとジャケットに袖を通す。


サングラスもつけ完全にインカータ潜入用の服に着替えると、俺も店へと向かう。


(何事もなくセレスが一人で取り押さえができればベストだが、、、まぁさすがにそれはないだろうな。相手はマフィアだ。一歩間違えればあいつだって危ない。尻拭いの準備だけはしておかないと)


アスファルトを革靴がたたく音だけが響く。

夜の街は異常な静けさをまとっていた。

まるでそれが嵐の前の静けさであるかのように。


俺は吸いかけのたばこを床に投げると革靴で火を踏み消す。

目の前に広がる暗がりをまっすぐ進むと、すぐ目の前にネオンの看板にインカータと書かれた店が現れた。


店の扉に手をかけた瞬間、視界がわずかに歪む。

遠い昔に捨てたはずの”記憶”がフラッシュバックし、胃の底からどす黒い吐き気がせり上がってきた。


(まさか()()()以外と一緒に仕事をするはめになるなんてな..。

しかもその相手が新人ペーペーの奴だとは..。全くわかんねぇもんだな。

ただこれが最初で最後のセレスとの仕事だ。俺はもう二度と()()しねぇ、、、

もうあんな思いをするのはこりごりだ)


夜風が俺の体に吹き付ける。

飲み込みきれない嫌悪感を胸に、俺はインカータの扉を押し開けた。



~インカータ店内 sideセレス~


ロメロという男が店の奥へと進んだのを確認した私は、目を閉じ深い深呼吸をする。

狂騒的な音楽とアルコールの匂いが、否応なしに私の神経を削ってくる。

(雰囲気に飲まれてはだめよ私。ここからが本番なんだから!)


自分に言い聞かせながら、無意識に胸ポケットへ手を伸ばす。

指先が触れたのは、潜入前にグレイさんから渡された『使い古しのボールペン』だった。

(何なのあの人は!全く捜査手伝ってくれないじゃない!私今回初任務なのに!)


気持ちを切り替えたつもりが、グレイさんへの愚痴を吐く時間になってしまう。

(グレイさんがしたことなんて最初私にやり方を説明した後に、このボールペンを渡しただけ。絶対持っとけって言ってたけどこんなの何に使うのよ、、、。しかもしまう場所まで指定してきて、、、。)


私は胸ポケットにしまっていた使い古されたボールペンを眺めて毒づく。

私にはこのボールペンが何の役に立つのかさっぱり分からなかった。


グレイさんの不可解な行動に内心いらだちを感じながらも、自分がやらなければならないことを頭の中で整理する。


(とにかく私がやらなければいけないことは、ディスタという男と接触する。そしてあわよくばその男がどこに薬を保管しているのかも把握すること。そのためにはまず彼に接触してなんとかコミュニケーションを取らなければ、、、。)


そんなことを考えていると、ロメロが扉から出てくるのが見えた。


「アリスちゃん!ディスタさんにアリスちゃんのこと話したら少しなら会ってくれるってよ!」

(来たいよいよだ)

「ありがとうございます」

「いいってことよアリスちゃんのためなら俺頑張っちゃうから!でもディスタさんに失礼な態度はとっちゃいけないからね!なんかあったら俺まで巻き込まれるし!」


そういうと彼は店の奥にある扉へと向かったので私も彼の後を追っていく。

フロアの奥、重厚な扉の前には屈強なボディーガードが立っていた。


「さっき言ったアリスちゃんだ。通してくれ」

ボディーガードは私を上から下まで値踏みするように一瞥すると、無言で扉を開けた。


扉の先は、下へと続く薄暗い階段だった。 ランプの頼りない光に照らされた階段を降りていくと、周囲の重低音が嘘のように消え、不気味なほどの静寂が鼓膜を打つ。

最下層にあったのは、「関係者以外立入禁止」のプレートが掛けられた鉄扉。


ロメロはその扉の前まで行くと、コンコンと拳を打ち付ける。

「ロメロです。先ほど話した例のアリスを連れてきました。」


重い音を立てて扉が開く。

中は、上のフロアとは別世界のような豪奢なVIPルームだった。

ベルベットのソファ、高そうな酒のボトル。


しかし、そんな装飾よりも私の目を引いたのは、部屋にいる三人の男たちだ。

その中央——頭に生々しい包帯を巻いた男が、ソファに深く腰掛けていた。


「おまえか、アリスっていうのは?」

底冷えのする低い声。


「はっはい」

「そうかそうかロメロ、おまえもう下がっても良いぞ」

「はっ、はい。わっかりました。」

ロメオはそういうと部屋から出て行く。

重たい鉄の扉が完全に閉まり密室となる。


「んでおまえ俺の売ってるものに興味あるらしいじゃねぇか」

男ーディスタは単刀直入にそう切り出す。

「えっえぇ。ロメロさんにいいものがあると紹介されて、、。」

「うちの商品買いてぇなら条件がある。」

「条件って、、、?」

私がそう聞くとディスタは私の顔をじっと見つめる。

「金だ。金をしっかりと払うなら問題ねぇ...。ぶつ一つあたり5万ゴルドだ」

「ごっ5万!?」



私の月の給料が30万ゴルドぐらいなことを考えると、若者にとってはとんでもない値段であることが分かる。


「ただ俺は優しいからな。最初は半額の2万5000ゴルドで売ってやるよ。ちなみに今の機会逃したら次の機会はないからな。買うなら今やぞ。」

驚く私を見たディスタは私を焦らせるように言葉を並べる。

私を凝視する彼の目は、爬虫類のように細まっていく。

(どうする……? 5万ゴルドという金額の問題じゃない。軍人である私が、違法薬物を金を出して買う。それは明確な軍規違反であり、私自身が犯罪者になるということだ)


心臓が嫌な音を立てて早鐘を打つ。


もし後から言い訳が通用しなかったら? 軍法会議にかけられ、最悪の場合は軍を追放されるかもしれない。

ジンさんは「買う素振りを見せるだけでいい」と言っていた。でも、この男の目は誤魔化しが利くような甘い目じゃない。


「黙ってどうしたんだ。買わないのか、今買わないなら一生買えないが...?いいのかそれで?」

急かされるように圧をかけられ、私は息を呑んだ。

ここで購入を渋れば、捜査は再び振り出しになる。時間をかければかけるほど、帝都での被害も拡大していく。実質選択肢は一つしかなかった。


「....買います!」

私がそういうと目の前の男はにやっと笑う。

「おい部屋から商品取ってこい。」

そうディスタが言うと彼の横に立っていた男が商品を取りに外へと出る。


——証拠を押さえた。あとはこいつらを尾行して、大元を叩くだけ。

そう安堵した、直後だった。


『ヴヴッ、ヴヴヴッ』

部屋に、無機質なバイブレーション音が響き渡った。


ディスタが舌打ちをして懐からヴォックスを取り出す。しかし、画面を見た瞬間——彼の顔から、スッと血の気が引いた。


「……お疲れ様です。はい、今店にいますが....え? はい……はい……えっ!?」

ディスタの視線が、電話越しに私をギョッと見据えた。ヴォックスを持つ手が小刻みに震えている。


「はい……かしこまりました。いえ、すでに気付いているかと……申し訳ありません! こちらで確実に始末します……っ! はい!」


通信を切ったディスタの瞳には、先ほどの余裕は欠片もなかった。あるのは、剥き出しの殺意。

「その女を捕らえろ!軍からの差し金だ!」


「っ!?」

(どこでばれたの!?というよりまずい!)

思考よりも先に、体が動いた。

私は弾かれたように扉へ飛びつき、ノブを全力で引き開ける。


背後から迫る怒号。

目の前にそびえ立つ薄暗い階段が、まるで地獄へと続く死の道筋のように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ