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こちら魔法犯罪取締室〜最狂の窓際部隊が帝都を闇から守り抜く〜  作者: 尾田jerart


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第6話

~帝都北区~

重低音が腹の底に響く。

豪奢なシャンデリアの下、着飾った若者たちが獣のように身体を揺らしていた。

紫煙と高価な香水、そして熱気が混じり合った甘ったるい腐臭。

快楽に溺れる彼らの間をすり抜け、黒服の男が「関係者以外立入禁止」の扉を開ける。

そこから続く階段は、天国から地獄の釜の底へと繋がっていた。


地下室の最奥。 重厚な扉の先で、鈍い破壊音が響いた。


ドゴ!!!

「あ、あ、がっ……!」

見るからに高価なマホガニーの机に、男の頭が叩きつけられる。

飾られていたヴィンテージワインの瓶が砕け散り、真紅の液体が男の頭から流れる鮮血と混じり合って床を汚した。


「お前、売上未達じゃねぇか。どういうことだ、あ?」

ソファから立ち上がった男は、血濡れた部下の髪を鷲掴みにし、無理やり顔を上げさせた。


「先月言ったよなぁ? 来月は必ず目標に届かせるって。今月も超えてないじゃねぇか。なぁ!」

至近距離で浴びせられる怒声と殺気。

額から流れる血が目に入り、男の視界は赤く染まっていた。

それでも彼は顔を拭うことすらできず、ただガチガチと歯の根を鳴らす。

ここで下手に言葉を発せば、次は命がないと本能が理解していた。


「泣いて済む話ちゃうぞ。どう落とし前つけるんやって話をしてんねん」

「も、申し訳、あ、ありません……ッ!」

震える声で謝罪することしかできない。

男ードロガは忌々しげに舌打ちをすると、手を離し、部下は糸が切れたように床へ崩れ落ちた。


「お前、次ミスったら……その首が胴体と繋がってると思うなよ」

ドロガの声のトーンが、怒号から絶対零度の冷徹さへと変わる。

その温度差こそが、彼が帝都の闇で恐れられる所以だ。

「ッ!!!」

「返事は!!!」

「は、はいっ!!! 承知いたしました!!」


男は転がるようにして部屋から逃げ出した。

再び静寂が訪れた部屋には、血とワインの匂いだけが残る。


ドロガの側に佇んでいた偉丈夫――ヴォルティスが、ようやく口を開いた。


「……よろしいのですか。あの男は今までそれなりに成果を出してきました。最近は近衛の嗅ぎ回りが厳しく、動きづらいだけかと」


「そんなこたぁ知ったこっちゃねぇな。昔がどうであれ、今結果が出てねぇのはあいつの問題だ。次ミスったら処分だな。……それとも何か? お前は俺の方針に反対するって言うのか、ヴォルティス」

ドロガの爬虫類のような瞳が、ヴォルティスを射抜く。


にらまれた男ヴォルティスは目を伏せると

「...いえ」

と一言だけ返す。


「おまえも腕を買って俺のそばにおいてはいるが...。

妙な真似したら...。分かってるな」

「肝に銘じております」

「..そうか。ならいい」

そういうとドロガは一気に酒をあおる。

帝都の闇は広がる空の漆黒よりも深く昏かった。


~魔法犯罪取締室~

「室長、先日の魔法を用いた抗争の報告書まとめておきました!確認お願いします!」

「うん?もう終わったのか。いつぶりだこんなに早く報告書が来たのは。全くおまえらにも見習って欲しいもんだ。」


レグルスは呆れたように視線を巡らせる。

そこには、勤務時間中にも関わらずソファで高いびきをかいているレインと、アイマスクを装着して微動だにしないグレイの姿があった。


「おいグレイ、言われてるぞ。全く、報告書の一つも期限通りに出せないとは社会人として失格だな」

「昼間っから職場で酒飲んでソファ占領してるお前にだけは言われたくないな。というかお前、軍に入ってから一度でもまともに報告書出したことあんのか?」

「どっちもどっちよ。……はぁ。私やセレス、室長の身にもなってみなさいよ」

マキナが工具の手入れをしながら、深い深いため息をつく。

配属されて一週間。セレスはこの「魔取」という職場の実態を嫌というほど理解していた。

(相変わらず自由な人たち……。実力は凄いのに、どうしてこうも社会不適合者ばかりなのかしら)


ぴこん。

弛緩しきっていた室内の空気を、電子音が切り裂いた。

全員の通信機ヴォックスが同時に鳴る。

「……ジンからだな」


レグルスが端末を操作する。

画面に流れる文字列を目で追うにつれ、先ほどまでの穏やかな表情が消え、眉間に深い谷が刻まれていく。


「室長、そのジンさんというのは.....?」

「ん?あぁジンは魔取の残りのメンバーだ。基本的に情報収集が担当だからここにはいないことが多いんだが、、、」

そういうと再び端末に目を落とす。眉間によったしわは取れる様子がない。


「薬物か...。こいつはぁ少々やっかいな事案かもしれねぇな。」

「薬物を使った犯罪ですか?」

セレスがレグルスに問いかける。


「あぁおそらくな。最近帝都の若者を中心に薬物の使用が増えていて、その被害も拡大しているらしい。バックにはどっかの組織があるのは間違いねぇだろうな、、、。たしか近衛の方もこの事件は追っているらしいがジンの方で何か情報をつかんだらしい」


室内の空気が、わずかに重くなる。 先ほどまで寝ていたはずのグレイがアイマスクをずらし、レインもソファの上で身を起こした。


「あいつが持ってくるってことはやっかいごと確定だな。」

「最悪だ。最近働き過ぎだと思うんだがな。俺。」

二人がそれぞれに愚痴をこぼした、その時だった。


「それは聞き捨てならないですね。レイン、グレイ。」

「っ!?」

セレスは心臓が跳ね上がるのを感じた。

誰もいなかったはずの背後。

そこから唐突に、男の声が聞こえたのだ。


「いつ私が厄介事を持ってきましたか? むしろサボり癖のあるあなた達に、給与に見合った働きをする機会を提供してあげているんですがね」


振り返ると、そこにはマスクで口元を覆った痩身の男が立っていた。

ドアが開く音もしなかった。

気配すらなかった。

まるで影から滲み出てきたかのような登場に、セレスは言葉を失う。


「こいつはともかく俺は給料以上の働きしてるぜ、ジン」

「その言葉そっくりそのまま返すぞレイン。」

レインもグレイも突然現れた彼に対して驚くことなく彼と会話をする。


(声を聞くまでこの人が来たことに全然気づかなかった、、、。)

「あなたが新入りのセレスさんですか?」

ジンと呼ばれた男が、セレスに向き直る。

その細められた目は、マスク越しでも笑っているのが分かった。


「は、はいっ! 今年から魔法犯罪取締室に配属されました、セレス・リアナと申します! これからよろしくお願いします!」

「これからよろしく頼みますね。セレスさん」

その声色は穏やかで、威圧感はない。


(優しそうな人……。レインさんやグレイさんと違って、まともな大人に見える。良かった、ちゃんとした先輩もいるんだ)


セレスが胸を撫で下ろしたのも束の間、レグルスが本題を切り出した。


「それで、詳細が掴めたのか、ジン」

「大方の情報はつかめました。今回の一連の薬物事件はとある店から始まっていることが分かりました。その店の名前は「インカータ」。帝都北区の裏通りにある店です。表向きはクラブ経営を装っていますが、裏には「スペリド」が関わっていました。」


「やっぱり裏にはマフィアがいたのか。しかもよりによってスペリドとはな。」

レグルスが苦虫を噛み潰したような顔をする。マキナも作業の手を止め、真剣な表情を向けた。


「えぇ思ったよりも裏では大事になっているのかも知れません。」

「すっすいません。スペリドっていうのは一体何なのですか?」

「スペリドというのは近年急速に勢力を拡大しているマフィアです。」

ジンが淡々と説明を始める。


「クラブ経営や用心棒、違法薬物や魔道具の売買を主に行なっている組織で噂では貴族の一部も関わっていると言われています。」

「ようは手を出すのが難しい相手って言うわけだ。特にボスのドロガとその用心棒のヴォルティスって男は相当やるらしい。近衛の方でも何度か検挙の動きがあったがことごとく失敗している。」

ゴクリ。

セレスがつばを飲む音が響く。


「それで室長。この件もしかしなくても私たちが担当するってことなのね?」

マキナの呆れたような問いかけに、レグルスは深く息を吐き出し、乱れた頭をガシガシと掻き毟った。


「そうなる。んで具体的な作戦だが、、、。ジンおまえが持ってきた仕事ではあるが、何か方法はあるんだろうな?」

レグルスの問いに、ジンは数秒の沈黙を置いた。

全員の視線が彼に集まる。

ジンはゆっくりと、計画を口にした。


「この事件においてやらなければならないことは3つあります。一つは薬物売買の検挙。次に大元のスペリドの検挙。そしてそのスペリドとつながっているであろう貴族の調査です。なのでまずは薬物売買の現場を押さえる必要があります。」

「潜入捜査か。ただ誰が担当する?俺たちはある程度顔が割れている可能性もあるぞ。こういう方面の調査をすることも多いからな。」

「ええ。だからこそ……適任がいるでしょう?」


ジンがゆっくりと振り返り、その視線をセレスに固定した。

先ほどまでの優しげな瞳に狂気の色が映る。


「セレスさん。インカータにいって薬物の売買をしてきてください。」

「はっはぁぁぁぁ!?」

ここまでご覧いただき誠にありがとうございます!

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