第5話
~帝都北区 sideグレイ~
「制圧を始めるだぁ?馬鹿が。おめぇは俺に今からミンチにされんだよ。」
「この脳筋であればまだしも、私を制圧するなど夢でも見ないことですよ。」
グレイに対し、巨漢のグランが拳を鳴らす。
一方、少し離れた位置からは、痩身のエマヌルが両手に緑色の魔力を収束させていた。
「...ふぅ。」
殺気立った怒声を浴びながら、グレイは胸ポケットから煙草を取り出し、ジッポで火をつけた。
紫煙が風に流れる。
その余裕が、二人の導火線に火をつけた。
「なめてんのかてめぇ。俺が怖くて来れねぇのか!」
「そちらから来ないのなら私が敗北を差し上げますよ!」
「「第一魔法術式”迅”。第二魔法術式”烈”。第三魔法術式”凪”!」」
「地砕きの重腕!」
「腐蝕砲!」
グランの右腕が異様に膨張し、丸太のような太さでグレイに殴りかかる。
同時に遠方のエマヌルから、触れたもの全てを溶かす緑色の強酸弾が放たれた。
近距離からの圧殺と、遠距離からの溶解。
逃げ場のない挟撃。
だが、グレイは動かない。
ただ、吸っていた煙草を指先で弾いただけだ。
くるくると回転しながら飛んでいく吸い殻は地上にいるエマヌルの方角へ向かっていた。
その刹那。
強酸の弾丸と、グランの拳がグレイを捉えた――かに見えた。
「双影転置」
ジュッ、ドゴォォォォン!!
地面が砕け、酸の煙が立ち上る。
だが、グランの拳に肉を潰した感触はない。
あるのは、虚空を殴りつけた虚しい反動だけだ。
「あぁ!? どこ行きやがった!」
エマヌルもグレイの姿を追おうとした瞬間
目の前にいるはずのない男が立っていた。
「「っ!!!?」」
いきなりの光景に二人とも理解が追いつかない。
「第一魔法術式”迅”。第二魔法術式”烈”。第三魔法術式”凪”。」
すでにグレイの目は獲物を捕らえる。
ドゴッ!!
無言の一撃。
強化された拳が、鎧の様にまとわれた魔力ごとエマヌルの鳩尾を貫く。
「ッ!?ゴハッッッ!」
嗚咽と共に、血混じりの酸液を撒き散らす。
予想だにしなかった攻撃に対処できなかったエマヌルは白目をむき地面に崩れ落ちる。
「チッ、訳のわからねぇ真似を……! だが、離れれば俺の拳から逃げられるとでも思ったか!」
離れた場所でそれを見ていたグランが吠える。 彼にとって、エマヌルが倒されたことは「邪魔者が消えた」ことと、「不可解な移動への警戒」でしかなかった。
グランが屋上から飛び降り、地面にいるグレイへと肉薄する。
対するグレイは、腰のホルスターから拳銃を抜き放った。
チャキッ、とスライドを引く乾いた音が響く。
「ハッ! チャカだと? 魔法使い相手にそんな玩具が通じるかよ!」
グランは嘲笑し、鋼鉄のように硬化した巨大な腕を盾にして顔面を覆いながら突進する。
銃弾など、この腕で防げば問題ない。
そう判断したグランの視界で、マズルフラッシュが光った。
パンッ!
(貰った!)
グランは腕に力を込める。
だが衝撃は来なかった。
「あ?」
グランが盾にしていた腕の手前。
銃弾が着弾するはずだった空間に、グレイは「転移」していた。
放った銃弾と自分の位置を入れ替えたのだ。
防御のために視界を塞いでいたグランは、懐に入り込まれたことに気づけない。
その隙だらけの顎を、下から蹴り上げる。
ガゴォッ!!
脳を揺らされたグランの巨体が宙に浮く。 グレイは追撃の手を緩めず、腰から警棒を引き抜き、魔力を流し込んだ。
「第二魔法術式”烈”」
魔力をまとい”火”をふいた警棒がグランの腹にたたきつけられる。
「ッッッッ!!!!?」
声にならない悲鳴を上げたグランはそのまま地面にたたきつけられると倒れ込む。
ピクリとも動かない二人を見下ろし、グレイは警棒を縮めて懐にしまう。
「……ふぅ。手間かけさせやがって」
グレイは意識を失い地面に倒れ込んでいる二人に対してそう吐き捨てると、通信機器ーヴォックスを取り出し報告をする。
「こちら魔法犯罪取締室グレイ。帝都北区にて発生した魔法を用いた抗争の鎮圧に成功。至急回収を求める。」
~帝都北区 sideセレス~
「おっ終わってしまった、、、。こんな一瞬で。」
初めての実践に緊張しきっていたセレスだったが、あまりにあっけない幕引きに思わず肩を落とす。
「言っただろ、すぐ終わるって。」
レグルスはそういうと戦闘を終えたグレイとマキナのもとへと向かう。
未だに驚きが抜けきらないセレスはその場で立ち尽くしている。
(あ、ありえない……。この人たち、本当に窓際部隊なの?)
彼女の目には見えていた。
おそらく レインの正確無比な広範囲制圧。
マキナの工具を駆使した蹂躙。
そして、ボス格の二人を翻弄し、一瞬で沈黙させたグレイの空間移動。
(特にあのボス二人。近衛でも無傷でしりぞけるのは手間取るような相手だったのに。それを一瞬で倒してしまうなんて)
「よくやったおまえら!セレスも俺らがどんな仕事をしてるかはなんとなく分かっただろ。」
「あっちで固まっちゃってるけどね。あの娘。それよりグレイ。サルファゴスへの移送班いつ頃到着予定なの?」
マキナが手をパンパンと払いながらたばこを吸うグレイに問いかける。
「後3分ほどで来るそうだ。それまでは待機だ。」
「了解。まぁこいつらの様子見てると当分は動けないでしょうから放置で良いわね。」
そのあっけらかんとした会話が、逆にセレスには異様に映った。 あれだけの戦闘をしておきながら、彼らにとっては任務の一つに過ぎないのだ。
「しっ室長。これから彼らはどうなるんですか?」
眼前の状況から我にかえったセレスが、レグルスに問う。
「ん?あぁこいつらは魔法犯罪者専用収容所サルファゴスへと移送する。魔法犯罪を犯した奴のうち生かして確保できた奴は、基本的にここに収容することが決まっている。サルファゴスの監視と警護は近衛軍第9部隊が担当しているから、移送もこいつらが受け持っているぞ。っとそんな話をしている内に来たみたいだな。」
通りの向こうから、サイレンを鳴らさずに黒塗りの装甲車両が数台、滑り込んできた。
車体には近衛軍の紋章が刻まれている。
「こちら近衛軍第9部隊、サルファゴス移送班。帝都北区で発生した魔法を用いた抗争の容疑者達の移送の任をうけ、到着。相違ないか?」
「あぁ相違ないな。容疑者はそこの伸びてる連中だ。好きに持っていってくれ」
「相変わらず荒れているなお前らの現場は」
移送班の隊長は半壊した倉庫とボコボコにされた構成員たちを見て、呆れたように呟く。
「仕事熱心と言ってくれ。それじゃ、後は頼んだぞ」
「...了解した。これより容疑者の移送を始める。総員かかれ!」
第9部隊の面々が容疑者達を次々と移送用車両へと連れて行く。
その光景を尻目にグレイ達魔取の面々は帰路につく。
四人の歩く足音が、静けさを取り戻した倉庫街に響く。 レグルスは歩きながらヴォックスを取り出し、作戦完了を告げた。
「これにて本日分の業務完了。総員、撤収!」
ー第一章完ー
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