第4話
~帝都北区 sideグレイ~
「第一魔法術式”迅”」
通報を受け、即座に準備を整えたグレイはレグルスやセレス達より一足先に現場への移動を始めた。
通報を受け、即座に現場へ向かったグレイは、冷たい空気を切り裂きながら帝都の屋根を疾走していた。 その速度は、並の人間では目で追うことすら叶わない。
(魔法を用いた抗争……。近衛が動かないということは、裏で手打ちがされているか、あるいは単に北区だからと捨て置かれたか)
眼下には、半壊した倉庫と、怒号が飛び交う戦場が広がっている。 グレイは屋上の縁に音もなく着地すると、まずは状況の観察に入った。
(人数は20..いや30はいるか。魔法の使用者はおそらく5~6名ってところか)
レインが遠くから予想した大雑把な想定より、さらに正確な分析を進める。
彼は即座に飛び込むことはしない。
ポケットに手を突っ込んだまま、眼下の争いを冷めた目で見下ろす。
そこでは、身長2メートルを超える巨漢の男率いるグループと、不吉な魔力を纏う痩せぎすの男の率いるグループが睨み合っていた。
「あぁ!? なんだテメェは!?」
巨漢の男が、屋上のグレイに気づき声を荒らげる。
その怒声につられ、痩せぎすの男も、その配下たちも一斉にグレイを見上げた。
数十の殺気が、たった一人の男に集中する。
「おいおい、どこの部外者だ? 近衛かと思ったが……隊服じゃねえな」
「クフフ。近衛が来ないということは、賢明な判断だ。我々の争いに割って入ればどうなるか、よく理解していると見える」
二人のボスが交互に嘲笑う。
彼らは近衛が来ない理由を「自分たちへの恐怖」だと確信し、グレイから放たれる「やる気のなさ」を「弱さ」と誤認したようだ。
「無視してんじゃねぇぞ! おい、野郎ども! あの見物人を引きずり下ろして殺せ!」
巨漢の男が部下たちに攻撃を命じる。
だが、それを遮るように痩せぎすの男が前に出た。
「おや、貴方の部下ごときでは役不足でしょう。私の手勢で始末しますよ。死体が増える分には構いませんからね」
「あぁ!? テメェ横取りする気か!」
双方が我先にと武器を構える。
彼らの構えた拳銃が今まさにグレイに向けて放たれようとしていた。
それでも、グレイは動かない。
防御の構えを取ることもしない。
彼はただ、空を見上げ――ボソリと呟いた。
「……そろそろか」
男たちが引き金を引こうとした、その刹那。
空が、きらりと光った。
「あ……?」
誰かが声を上げた瞬間には、もう遅い。
それは雨のように、あるいは流星群のように。 無数の魔弾が、空を覆い尽くしていた。
ズガガガガガガガガガッ!!!
「「ぎゃあああああッ!?」」
一瞬。
たった一瞬の出来事だった。
降り注いだ光の豪雨が、広場にいた構成員たちを同時に吹き飛ばした。
武器を、腕を、足を正確に貫かれ、30人近い男たちが一斉に地面へ崩れ落ちる。
断末魔すら重なり合い、巨大な悲鳴となって広場に響いた。
「な……ッ!?」
「ば、馬鹿な……何が起きた!?」
土煙が晴れると、そこには立っている者はほとんどいない。
立っているのは、ボス格の男たち数人と一人銃撃の影響を受けていないグレイだけだった。
「勘違いするなよ。ここに来たのは、俺一人じゃない」
グレイは懐から警棒を取り出し、パシャリと音を立てて展開する。
その瞳から、眠気は消えていない。
だが、その奥には底知れない冷徹な光が宿っていた。
(室長と”新人”もすでについているか。準備も整った。そろそろ始めよう。)
「そういえばまだ名乗っていなかったな。”我々”は魔法犯罪取締室。魔法を用いた戦闘行為を確認したため、制圧を始める。」
~帝都北区 sideマキナ~
「レインのやつ相変わらず銃の腕だけは一流ね。」
グレイより一足遅れて到着したマキナは、物陰で口角を吊り上げた。
眼下の広場では、レインの一撃によって敵の戦力が瞬時に無力化されている。
遠くからグレイの声が聞こえる。
「そういえばまだ名乗っていなかったな。”我々”は魔法犯罪取締室。魔法を用いた戦闘行為を確認したため、制圧を始める。」
その言葉を聞いた瞬間にマキナの中でスイッチが入る。
「それじゃあ始めますか!」
「第一魔法術式”迅”。第二魔法術式”烈”。第三魔法術式”凪”」
身体強化、筋力増幅、感覚鋭敏化。
全ての術式を淀みなく起動させると、マキナは腰に提げた小さな工具箱に手をかけた。
一見すればただのポシェットのようなサイズだが、彼女にとっては無限の兵器庫だ。
「夢の工具箱」
彼女が箱の留め具を外すと、工具箱に魔力が行き渡りその口がありえない大きさまで広がる。 彼女はその小さな箱の底から、自分の身長よりも巨大な柄を引き抜いた。
ズズズ、と質量を無視して現れたのは、無骨で凶悪な鉄塊――巨大ハンマーだ。
「よい……しょっと!」
彼女は華奢な腕で巨大ハンマーを軽々と担ぎ上げると、爆発的な脚力で地面を蹴った。
「なっ何だ!?」
敵も小柄な少女と巨大なハンマーのアンバランスな光景に一瞬だけたじろぐ。
「グレイ!後ろの雑魚魔法師は任せなさい!そいつらの相手は頼んだわよ!
巨人の槌!」
マキナは独楽のように回転しながら、敵集団の中心へと突っ込んで、巨大なハンマーを振り下ろす。
ドゴォォン!!!
まるで何トンもあるハンマーを振り回したかのような衝撃が敵に襲いかかる。
しかしマキナはその重さを全く感じさせないように軽々とハンマーを振り回す。
なんとかマキナの攻撃が直撃するのを免れた彼らは必死に反撃に転ずる。
「くっ!衝撃波!」
「針林連激!」
「念動剣線!」
「野獣の牙!」
先ほどまでは争っていた彼らも、マキナという明確な脅威を前に奇しくも連携を取る形になった。
衝撃波に、ムチのようなツタの攻撃、無数の剣の攻撃、鋭い牙の攻撃が一斉にマキナへと殺到する。
「魔法だけに頼ってるようじゃ私に傷一つつけられないわよ!巨人の槌!」
マキナは衝撃波と飛来してきた剣を紙一重で交わすと、突撃してきた男の顔面に強力な一撃をたたき込む。
「っ!ライナー!よけろ!」
しかし仲間の呼びかけもむなしく、彼の牙はハンマーで叩き潰される。
「グガァッッッ!」
さらに回転した勢いを使って、自身に向かってきたツタをたたきつける。
この一連の流れで彼我の実力差をまざまざと見せつけられた彼らの顔に恐怖の色が色濃く表れる。
「とりあえず一人。次はあんたから行くわよ蔦男。」
マキナは空中でハンマーを工具箱に戻すと、間髪入れずに次の「道具」に手を伸ばす。
次に引き抜いたのは、身の丈ほどの長さがある巨大なドライバーだ。
「双螺旋」
キュィイイイイイイン!!
耳をつんざく高周波音と共に、ドライバーが高速回転を始める。
「っ!葛籠!」
植物の蔦を編み込んだ盾を展開する。
魔法で強化されたその盾は、鉄骨さえも防ぐ強度を誇るはずだった。
だが――。
ガリガリガリガリッ!!
「嘘だろぉぉぉッ!?」
盾ごと魔術障壁を削り取られ、男の顔が絶望に染まる。
「さよならッ!」
ドリルが盾を貫通し、男の脇腹を深く抉りながら吹き飛ばす。
「グァァァァ!!!!!」
「バンバっ!てめぇこのあま!っ!」
仲間がやられたことで激昂した彼らはマキナに再び攻撃を仕掛けようとしたが、マキナも反撃の手を緩めることはなかった。
「夢の工具箱。幻影圧縮」
マキナはドライバーを箱に放り込むと、両手を広げて残りの男達を挟み込むように構えた。その途端彼らは見えない力で押さえつけられていく。
「グッ!こっこのくそが!うっがっ!」
「グォッッッ!」
見えない圧力で横から挟み込まれた二人も必死に抵抗するものの全く歯が立たず次第に惜しまれていく。
「そろそろ終わりだね。じゃさよならッ!」
マキナがとどめとばかりに力を込めた瞬間にゴリっと骨の折れる音が鳴り響き、男たちは意識を刈り取られ、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「こっちの方は終わったからさっさと片付けなさいよグレイ。」
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