第2話
~魔法犯罪取締室 sideエリス~
コツコツ。
古びたコンクリートの階段に、私のブーツの音だけが響く。
地下へ続くその道は薄暗く、煤の臭いが鼻をついた。
細く長い廊下を歩く私は、鉄製の扉の前で足を止める。
「ーーふぅ。」
私は体中に広がる緊張を深呼吸をすることで整えていく。息を吐ききると、表情から緊張の色が取れていくように感じる。
(今日付けで配属された、魔法犯罪取締室。噂では軍の窓際部署なんていわれているけど、オフィスがこんなところにあるなんて、、、。でも最初が肝心。落ち着け私!)
意を決して扉に手をかける。
「失礼致します!本日より魔法犯罪取締室に配属される運びとなりました、セレス・リアナです!
よろしくお願い致します!」
そういうと同時に深く背を折る。
だがー返事はない。代わりに聞こえてきたのは、金属のぶつかりあう音だけだった。
「なるほど...。これはやっかいなもん持ってきたわねグレイのやつ。」
部屋の中央、書類の山に埋もれたデスクで、小柄な女性が独り言を呟いている。
彼女の手元には、改造に改造を重ねた違法改造銃がある。彼女は保護グラスも何もつけずにその銃の分解を高速で進める。
「あ、あの……?」
声をかけるが、女性ーマキナは顔も上げない。 その背後にあるソファでは、もう一人の人影が死体のように転がっていた。
「……うぅ……頭いてぇ……」
視線を向けると、無精ひげを生やした男ーレインが周囲にお酒の空き瓶を散乱させながら寝ている。その胸には長大な対物ライフルが抱き枕のように抱えられていた。
「おいマキナぁ……その音、うるせぇよ……」 「黙ってなさいアル中。今、証拠品の解析中なの。……あ、この部品結構言い質してるじゃない。使えるかも」
(な、なんなのこの人たち……!)
私が言葉を失っていると、部屋の扉が開き白髪の大柄な男が入ってくる。
彼の放つ圧倒的なオーラに気圧されていると、男ーレグルスと視線があう。
「おっ初めましてだな。おまえが新人か?」
「はい!本日から魔法犯罪取締室に配属されましたセレス・リアナと申します!よろしくお願いします!」
男の威圧感に押され少し声が裏返るもなんとか平常心を取り戻して語る。
「俺が室長のレグルス、そこで証拠品の分析をしているのがマキナ。そしてソファでだめになっているのが、レインだ。ほらてめぇらも挨拶ぐらいしやがれ」
レグルス室長の言葉にやっと二人の顔が上がる。
「私がメカニックのマキナよ。よろしく。」
「んで、俺がレインだ。見て分かるだろうが酒がこの世界で一番好きだ。」
「こいつらに加えて後二人メンバーがいるんだが、、、まぁ今んところは来てねぇみたいだな。何はともあれよろしく頼むぜセレス。」
レグルス室長は私の肩をバシバシと叩き(骨が折れそうだ)、ニカッと笑った。
「まぁそう固くなるなよ。ここは軍の窓際部隊、規則なんてあってないようなもんだ。仕事さえすりゃ、昼寝しようが酒飲もうが自由だぞ?」
私が緊張しているのを見てそういうと、レインさんは近くにあったウイスキーの瓶を手に取り、一気にあおる。
「あんたのは飲み過ぎだけどね。酒臭いったらありゃしない。」
そういうとマキナさんはあきれた顔で、レインさんをにらみつける。
(私は何をしたらいいんだろうか?)
レグルス室長に声をかけようとした瞬間、開け放たれたドアの先から革靴が床をはじく音が聞こえた。
視線を向けると、そこには黒いロングコートをまとった男が立っていた。男の目には濃い隈があり、全身から疲労感を出している。
「お、グレイ。戻ったか! 例の犯人はどうした?」
レグルスが声をかけると、男ーグレイは、懐からまがまがしい魔力をまとった魔道具をレグルスに放り投げた。
「報告通り確保完了。現物は押収済み。……報告書は後でいいですか。疲れた」
グレイさんは私の存在になど目もくれず、一番奥の椅子へ倒れ込むように座り、アイマスクを装着した。
「……あの、この方は?」
私が小声で尋ねると、レグルスが苦笑いで答えた。
「こいつはグレイ。うちのメンバーの一人で実力は確かだ。まぁ……見ての通り、勤務態度は最悪だがな」
(この人達がメンバー……? ただの不審者の集団にしか見えない。)
私が絶句していると、部屋中にけたたましいサイレン音が響き渡る。
『――緊急通報。帝都北区にて、魔法犯罪集団同士の衝突が発生。魔法犯罪取締室は直ちに出動せよ。』
一瞬にして、弛緩していた空気が凍りついた。 レインが酒瓶を置き、マキナが工具を捨てて端末を叩く。
そしてアイマスクをしていたグレイが、ゆっくりと身を起こした。
レグルス室長が、獰猛な笑みを浮かべて号令をかける。
「お前ら、聞こえたな仕事だ! セレス、お前も来い! 現場研修だ!」
「は、はいッ!?」
私の魔法犯罪取締室での初めての仕事はいきなりの実戦投入になった。




