EP 29
獅子王祭と戦士たちの血潮
帝都郊外の屋敷では、ポーション作りが完全に軌道に乗り、ホープ・クローバーズの新たな日常が築かれていた。
キャルルの月兎族の魔力で育つ白月草。リーシャのエルフの秘術。そして勇太の「地球の科学」による精密な品質管理。
三人の力が合わさって生み出される『特製ハイ・ポーション』は、ゴルド商会を通じて帝都の騎士団や富裕層に流通し、彼らに莫大な富と確かな名声をもたらしていた。(ちなみにアカメは、稼いだ金で買う地球の極上肉にご満悦だ)。
その日、勇太達は完成したポーションの納品と、新たな材料の買い出しのために、帝都の中央商業区を訪れていた。
マジック・ポーチにはずっしりと金貨が詰まっている。だが、街の様子がいつもと違っていた。
「なんだか、街がやけに騒がしいですね。……それに、怖い顔の人がいっぱいです」
キャルルが兎耳を伏せ、勇太の背中に隠れるようにして辺りを見回した。
大通りの至る所に、黄金の獅子をかたどった勇壮な旗がはためいている。
そして街を練り歩いているのは、身の丈ほどある大剣を背負ったドワーフの重戦士、全身に呪縛の刺青を入れた獣人の拳闘士、鋭い眼光を放つ異国の剣客など、明らかに「普段の帝都」では見かけない、血の匂いを纏った猛者たちばかりだった。
「……なんだ? どいつもこいつも、一筋縄じゃいかねえ面構えをしてやがる」
イグニスが、すれ違う戦士たちの放つ闘気に反応し、喉の奥で低く唸った。
「見て、あそこ。ギルドの掲示板に大きな張り紙があるわ」
リーシャが指差す先には、人垣ができている巨大なポスターがあった。彼女は背伸びをして、その内容を読み上げる。
「何々……『帝都武術大会・獅子王祭』開催! 我こそはと思う大陸中の強者よ、帝都アウストラに集え!……ですって」
「獅子王祭……!?」
その言葉を聞いた瞬間、イグニスの目の色が変わった。彼は巨体で人垣をかき分け、ポスターに食い入るように見入る。
リーシャは、さらにその下の「賞品」の欄を見て、目を丸くした。
「嘘でしょ……。『大陸中の強者がトーナメント形式で技を競う。勝ち残り、栄光を掴んだ最後の者には、副賞として金貨1000枚。そして――マルシア帝国より『子爵』の位を授ける』ですって!?」
金貨1000枚。日本円にして約1億円。
だが、それ以上に凄まじいのが『子爵位』だ。平民や冒険者が、一夜にして帝国の貴族になれるという、まさに特大の帝都ドリームである。
「出る! 絶対に出るぞォ!!」
イグニスは興奮で全身を震わせ、背中の戦斧を握りしめた。
「く~っ、想像しただけで竜の血が沸き立ちやがる! 大陸中の猛者どもをぶっ飛ばして、俺様の名を世界中に轟かせてやる! これこそ冒険の醍醐味だ!」
イグニスは鼻息荒く振り返った。
「ユウタも出ろよ! キャルルも、お前も武闘家だろ!」
「わ、私が……?」
キャルルは最初は驚いていたが、周囲を歩く武闘家たちを見ているうちに、次第にその赤い瞳に闘志の光を宿し始めた。
「……私の『月影流』の技が、大陸中に轟く……。もし勝ち進んだら、故郷の師範も喜んでくれるかも……! はいっ、私、出ます!」
「ユウタはどうするの?」
リーシャが尋ねると、勇太は腕を組み、ニヤリと笑った。
「もちろん出るよ。ウルジ爺さんに叩き込まれた薙刀が、大陸の猛者相手にどこまで通用するか試してみたい。……それに」
勇太はポスターの『子爵位』の文字を見つめた。
「僕たちが帝都で商売を広げ、あの屋敷を守っていくには、『貴族』という絶対的な身分があればこれ以上ない武器になる。金で買えないステータスが手に入るなら、やる価値は十分にあるさ」
「ふふっ、相変わらず計算高いわね。でも、頼もしいわ」
リーシャが優雅に微笑む。
「魔法使いの私はトーナメントには不向きだから、出場は辞退するわ。その代わり、あなたたち三人の『専属スポンサー』兼『セコンド』として、特製ポーションを浴びるほど用意してあげる。……存分に暴れてきなさい」
「へっへっへ……! 楽しくなってきたぜ!」
イグニスが獰猛な笑みを浮かべ、勇太とキャルルを挑発するように見下ろした。
「ユウタ! キャルル! こうなったら、ただ出るだけじゃつまらねえ! 誰が一番上まで行けるか、俺たち三人で勝負だぜ!」
「望むところだ。悪いけど、負けないよ」
勇太は静かに、しかし力強く応じた。
「私も、月影流の名にかけて、絶対に負けませんから!」
キャルルも、可愛らしい顔に似合わない、凛とした武闘家の表情で言い放った。
帝都を揺るがす最大の血肉の祭典、「獅子王祭」。
それは、三人の戦士たちの心を熱く燃え上がらせるには、十分すぎるほどの舞台だった。
彼らは互いの顔を見合わせ、闘志に満ちた笑みを交わす。
「ホープ・クローバーズ」の次なる標的は、大陸最強の座。
彼らの新たな挑戦が、今、熱狂の渦の中で幕を開けようとしていた。




