EP 27
魔法と科学のポーション工房
ゴルド商会本店から屋敷に戻った勇太たちは、休む間もなく新たな事業計画――『白月草ポーション・プロジェクト』に取り掛かった。
まずは、その主役となる「白月草」の栽培だ。
勇太は広大な庭の一角、日当たりと水はけの良い場所を選び、そこへ「地球ショッピング」で取り寄せた『最高級園芸用肥料(N-P-K黄金比配合)』を惜しげもなく撒いた(50P)。
「ユウタ、この土……すごいわ。生命力(魔力)が活性化して、まるで生きているみたい」
土を耕していたリーシャが、大地の魔力の高まりを敏感に感じ取り、驚きの表情を浮かべた。
「僕の世界の、植物を育てるための『科学の知恵』だよ」
準備が整った畑に、キャルルが銀色の種を一粒一粒、丁寧に蒔いていく。
そしてその夜。満月が中天に輝く頃、キャルルの本当の力が発揮された。
「……優しい月の光よ。この子たちに、生命の息吹を」
キャルルが畑の中心に立ち、目を閉じて祈りを捧げる。
すると、彼女の長い兎耳が銀色に輝き出し、周囲の満月の光がスポットライトのようにキャルルへと集まった。
彼女の体から溢れ出した銀色の魔力オーラが、月の光と混ざり合い、粒子となって土に染み込んでいく。月兎族の秘術『月華清生』だ。
「すごい……。月の光が、意思を持っているみたいだわ」
リーシャもその神秘的な光景に圧倒されつつ、自らも杖を構え、植物の成長を促すエルフのエッセンスを畑に注いだ。
魔法と種族の力、そして地球の肥料。三つの力が融合した瞬間。
パキパキパキッ!
土を割って、銀色の芽が一斉に顔を出した。
それは見る間にぐんぐんと成長し、わずか一晩で、美しく輝く銀色の葉を広げた「白月草」の畑が完成したのだ。
翌日。収穫した白月草を抱え、一行は屋敷の工房へと移動した。
ここからは勇太の独壇場だ。
「よし、ここからは『科学』の出番だ」
勇太は「地球ショッピング」から、異世界の住人が見たこともないガラス器具の山を取り出した(400P)。
正確な量を計るための『電子天秤』。
薬草を完璧にすり潰す『セラミック製乳鉢』。
そして、今回の目玉――ガラスの球体と管が複雑に組み合わさった『サイフォン式抽出装置(大型)』だ。
「まずは、この葉を乳鉢で……。重さはこれくらいね」
リーシャが経験と勘で葉を手に取る。勇太はそれをすかさず電子天秤に乗せた。
「リーシャさん。その『これくらい』は、正確には『3.25グラム』だ。……キャルル、記録して」
「3.25……グラム? 秤が数字を喋ってる!?」
キャルルが目を丸くしながらノートに書き留める。感覚ではなく、全てを「数値」で管理する。それが勇太のやり方だ。
乳鉢ですり潰した白月草を、勇太はサイフォン式抽出装置の上部へ投入した。下部のフラスコには、リーシャが魔力を込めて精製した聖水が満たされている。
アルコールランプに火を灯す。
フラスコの水が沸騰し、ガラス管を通って上部の薬草へと駆け上がる。
琥珀色の液体がフラスコへ戻っていく……。
蒸気機関のような駆動音と、ガラス管を流れる美しい液体のきらめき。
「これが、地球の『サイフォン抽出技術』だ。熱と圧力で、薬草の有効成分を100%、不純物なしで抽出する」
抽出された濃縮液と、リーシャの魔水を混合。
完成した試作品を、勇太は最後に『実体視顕微鏡』で覗き込んだ。
レンズの先のミクロの世界。そこには、リーシャの青い魔力粒子が、白月草の緑の成分と幾何学的な模様を描いて完璧に結合し、凄まじいエネルギーを秘めて安定しているのが見えた。
「完璧だ……。魔力粒子が最も活性化する配合比率、そして抽出温度。……全てデータ化できた」
「おいユウタ。さっきから何をブツブツ言って、その箱(顕微鏡)を覗き込んでるんだ?」
様子を見に来たイグニスが、不思議そうに尋ねた。
勇太は顕微鏡から顔を上げ、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「これはね、イグニス。いつも最高品質の物を作れるための、『規格』と『基準』を作ってるのさ。これさえあれば、僕がいなくても、リーシャやキャルルだけで、いつでも同じ効果の『最強のポーション』を大量に作れるようになるんだ」
勇太の言葉に、リーシャとキャルルは顔を見合わせた。
自分たちの魔法や力が、勇太の未知の知識(科学)と組み合わさることで、これまでにない可能性を生み出そうとしている。
「……よし、それじゃあ、性能テストをしよう」
勇太はそう言うと、作業台にあった鋭利なナイフを手に取った。
「ユウタさん!? 何を……!」
仲間たちが止める間もなく、勇太は自らの左手の平をナイフで浅く切り裂いた。
赤い血が流れ落ちる。
「勇太ッ!! 狂ったの!?」
リーシャが駆け寄ろうとするが、勇太はそれを制した。
「大丈夫だ。……見てて」
勇太は完成したばかりの、銀色の輝きを放つ『ハイ・ポーション』を、自らの傷口に数滴垂らした。
シュワァァァッ……!
傷口に触れた瞬間、ポーションが蒼白い光を放ち、周囲の魔力を強烈に吸い込み始めた。
「な……ッ!?」
キャルルとリーシャは、周囲の魔力がその場所に吸い込まれるような「魔力の渦」を感じて息を呑んだ。
そして――。
勇太の傷口は、まるで時間を巻き戻したかのように一瞬で塞がり、皮膚が再生し、跡形もなく消え失せたのだ。
「……完璧だ。痛みも、痺れも、傷跡も一切ない。……リーシャ、魔力の回復具合はどう?」
「……え、ええ。今、ポーションが発動した瞬間、貴方の周囲の魔力が活性化して……。これ、ただの回復薬じゃないわ。失った魔力まで急速に回復させる、伝説級の『エリクサー』に近い効果があるわ!」
リーシャが、震える声でその性能を証明した。
「よっしゃあああッ!! 大成功だッ!!」
勇太は、傷一つない左手を掲げ、勝利の雄叫びを上げた。
魔法と科学、そして月兎族の力が融合した、世界初の『ハイブリッド・ポーション』。
それは、帝都アウストラ、いや、この大陸全体の常識を覆す、最強のアイテムの誕生だった。




