EP 22
竜の家主と驚きの提案
『……何だ、貴様らは。我が根城で勝手に騒ぎおって』
脳内に直接響くテレパシー。
蒼きスカイドラゴン――アカメの威圧感に、楽しいバーベキューの空気は一瞬で凍りついた。
「えっと……喋るんだ……」
勇太は呆然と呟く。
「ど、どうしましょう勇太さん……」
キャルルが震えて袖を掴む。
だが、最初に動いたのはイグニスだった。
彼は戦斧を構え、アカメを睨みつけた。
「へっ! 喋れるトカゲか! 上等だ、ここがてめぇの墓場に……」
「待ちなさい、イグニス!」
リーシャの鋭い声が制止した。
「このドラゴンからは殺気を感じないわ。あるのは怒りと……それ以上の『深い悲しみ』よ。むやみに刺激するのは得策じゃない」
『ほう……。話の分かる小娘がいるな』
「……小娘? やはり、今すぐ消し炭にしてあげようかしら」
リーシャの眉がピクリと跳ね、杖の先からバチバチと火花が散る。
「わーっ! ストップストップ!」
勇太は慌てて割って入った。
「えっと、失礼、ドラゴンさん。君はここの主だった飛龍騎士の相棒だよね? ……僕はユウタ。こっちは仲間たちだ」
『……我が名はアカメ。亡き友、エイベルンの魂と共にこの地を守る者だ』
アカメは鼻を鳴らした。
その赤い瞳は勇太たちを睨んでいる……ように見えて、実は**網の上で脂を滴らせている「特上カルビ」**に釘付けだった。
「あの~、アカメ。僕たちは君と戦うつもりはないんだ。……率直に言うと、この家に住みたいんだけど」
『……ここにか?』
「ああ。でも、主がいるなら話は別だ。……イグニス、片付けよう。帰るぞ」
勇太があっさりと撤退を指示すると、イグニスが噛みついた。
「ああん!? 冗談じゃねえぞユウタ! 主人がいねえなら、こいつはただの居座りトカゲだろ! 山へ追い返せばいいじゃねえか!」
『……ふざけるなよ、小僧』
ゴゴゴゴゴ……
アカメの喉奥から、地鳴りのような唸り声が響いた。
『この場所が、我とエイベルンの思い出がどれだけ詰まった場所か……貴様ら短命種に分かってたまるか! ここを捨てて山に帰れだと!?』
凄まじい竜気が放たれ、バーベキューの炭火が吹き飛びそうになる。
「ひゃうっ!」キャルルが悲鳴を上げる。
「イグニス! 失礼だろ!」
勇太が叱責し、アカメに向き直った。
「ごめん。悪気はないんだ。……行こう、みんな。ここは彼の家だ」
勇太が背を向けると、リーシャが静かに、しかし強い口調で言った。
「本当にいいの、勇太? ……私たちが去れば、いずれギルドの正規討伐隊が来るわ。主を失い、人里に居座るドラゴンは『危険生物』として処理される。……そんな結末でいいの?」
その言葉に、全員の足が止まった。
殺されるために、彼はここを守っているわけではない。
「……確かに。そんな結末は、寝覚めが悪いな」
勇太は立ち止まり、振り返った。
孤高のドラゴン。その瞳にある孤独。そして、チラチラと肉を見る切実な視線。
(……なんだ。要するに、寂しくて、腹が減ってるだけじゃないか)
勇太はニヤリと笑い、とんでもない提案を口にした。
「……よし! アカメ! 一緒に暮らさないか?」
『……何!?』
アカメの目が点になる。
「僕たちと一緒に、この家で暮らすんだ。君は『番竜』として家を守る。僕たちは君の家族になる。……どうだ?」
『家族……だと? 人間如きが、この我とか?』
「悪い話じゃないと思うぜ? ……もし一緒に暮らすなら、この『特製タレ漬け・A5ランク和牛』が、毎日食べ放題だ」
勇太がトングで肉を掴み、ひらひらと振った。
香ばしいニンニク醤油の香りが、ドラゴンの鼻腔を直撃する。
『ぬ、ぬぐ……ッ!』
アカメが喉をゴクリと鳴らした。
『……毎日、か? その、やたらと良い匂いのする肉を?』
「ああ。肉だけじゃない。新鮮な魚も、甘い果物もだ。……一人で思い出に浸るより、みんなで美味い飯を食ったほうが、亡くなったご主人も喜くんじゃないか?」
その言葉が、決定打だった。
アカメはしばらく黙っていたが、やがてフッと力を抜いた。
『……面白いことを言う男だ』
次の瞬間、ドラゴンの巨体が蒼い光に包まれた。
光が収縮し、人の形を成していく。
現れたのは、蒼い長髪と真紅の瞳を持つ、気品ある青年の姿だった。
ただし、その目は肉に釘付けだ。
「ええっ!? 人間になった!?」
キャルルが目を丸くする。
「……この姿の方が、食事には都合が良いだろう?」
人型のアカメ(全裸ではなく、魔力で生成された服を着ている)は、すまし顔で勇太の隣に座り込んだ。
「よかろう、ユウタと言ったな。その提案、乗ってやる。……だが、我を従わせるつもりなら、まずは誠意を示せ」
彼は箸を不器用に握り、網の上の肉を指した。
「我にも、それを食わせろ」
「ははっ! 交渉成立だ!」
勇太は笑いながら、焼き立ての極上肉をアカメの皿に乗せた。
アカメが肉を口に運ぶ。
噛み締めた瞬間、その美貌が驚愕に歪み、そして蕩けるような笑顔に変わった。
「……美味いッ!! なんだこれは!?」
こうして、「ホープ・クローバーズ」のマイホーム購入計画は、最強のドラゴンを「家族(兼・食いしん坊な居候)」として迎え入れることで、大団円を迎えたのだった。
【クエスト完了:訳アリ物件の契約と、竜の同居人】
【新たな仲間(?)アカメが加わりました】
【称号:『竜を餌付けし者』を獲得】




