EP 21
碧海の交易都市と深淵の秘宝
第19話:空き家の庭と招かれざる(?)竜
ニャングルから鍵と地図を受け取った翌日。
勇太たちは、ノマド号に乗って帝都の郊外――小高い丘の上に建つ「いわくつきの別荘」へとやってきた。
重厚な鉄柵を越えて敷地に入ると、噂通りの広大な空間が広がっていた。
主を失って久しいらしく、庭は雑草が生い茂り、白亜の洋館は所々に蔦が絡まっている。だが、石と木で組まれた堅牢な造りは、往時の飛竜騎士の栄華を十分に感じさせた。
「ひ、広い……。ここが、僕たちの家になるかもしれないのか……」
勇太は、期待と不安が入り混じった声で呟いた。
四人はまず、敷地全体を見て回った。
特に驚いたのは、庭の奥にある巨大な石造りのドーム――飛竜を休ませるための『竜舎』だ。
天井は高く、風通しが良い。
「すげえ! この竜舎なら、ノマド号を停めてもまだ余裕で俺の鍛錬場が作れるぜ!」
イグニスが興奮して走り回る。
「洋館の中も、埃はひどいけれど構造はしっかりしているわ。……私の研究室にするには完璧な広さね」
リーシャも、窓枠の装飾を撫でながら満足そうだ。
「でもユウタさん。肝心のモンスターの姿が見当たりませんよ? 静かすぎるくらいです」
キャルルが、ウサギの耳をピンと立てて周囲を警戒する。
「そうだな……。話に聞いていたスカイドラゴンは、どこかに出かけているのかな」
勇太が首を傾げた、その時だった。
キュルルルルゥゥゥ~~~~ッ……。
静寂な敷地に、雷鳴のような盛大な腹の虫の音が響き渡った。
全員の視線が、イグニスに突き刺さる。
「……お、おい! 今のは俺じゃねえぞ! ロックサウルスの鳴き声だ!」
イグニスが慌てて腹を押さえる。
「いえ、どう聞いてもイグニスさんの胃袋の音でした」
キャルルにジト目でツッコまれ、イグニスは顔を赤くした。
「う、うるせぇ! とにかく、探索してたら腹が減っちまったんだよ!」
「ははは。まあ、ちょうどお昼時だしね。ドラゴンもいないみたいだから、この庭でバーベキューでもしようか。新しい家の下見祝いも兼ねてさ」
「やった~♡ お外でお肉ですね!」
キャルルが嬉しそうに飛び跳ねた。
勇太はノマド号のサイドオーニング(日除けテント)を展開し、「地球ショッピング」を起動した。
大型の炭火グリル、高級備長炭、網、トング一式(500P)。
さらに、マジック・ポーチから、先日狩ったばかりの新鮮なイノシシ肉や、ピッグシープの厚切り肉を取り出す。
「よし、準備開始だ!」
イグニスが自前の炎(ブレスの極小版)で一瞬にして炭に火を起こす。
キャルルとリーシャが手際よく野菜を切り分け、勇太が肉を網に乗せた。
ジュウウウウウゥゥゥッ!!
脂が炭に落ち、白い煙が立ち昇る。
そこへ、勇太が地球から取り寄せた**『秘伝の焼肉のタレ(特製ニンニク醤油味)』**を豪快に刷毛で塗った。
「こ、この匂いは……! 反則だろユウタァ!」
イグニスが涎を垂らす。
ニンニクと醤油が焦げる暴力的なまでの香ばしさが、敷地いっぱいに広がった。
「よし、焼けたぞ! どんどん食べてくれ!」
四人は青空の下、最高の食事を満喫した。
「んー! 美味しい! やっぱり外で食べるお肉は格別ですね!」
キャルルが頬張る。
「うまっ! この甘辛いタレ、肉の旨味が爆発してやがる!」
イグニスが串焼きを何本も同時に口へ放り込む。
「ええ、本当に美味しいわ。……結局、ドラゴンなんて居ないのね。きっと寂しくなって、どこか故郷の山にでも帰ったのかしら」
リーシャが、勇太の出した冷えた白ワインをグラスで揺らしながら、安心したように微笑んだ。
「そうかもな。ハハハ……」
勇太が笑って肉を裏返した、その瞬間だった。
バサァァァァァァッッ!!!!
突如、巨大な突風が吹き荒れ、太陽の光が遮られた。
空がにわかに暗くなる。
四人が驚いて上空を見上げると、巨大な影がゆっくりと彼らの真上に舞い降りてきた。
「なっ……!?」
空を覆い尽くさんばかりの巨体。
深い蒼色の美しい鱗は、夏の空をそのまま映し出しているかのようだ。
強靭な四肢、背中の巨大な皮膜の翼。
そして何より、その瞳はルビーのように赤く輝き、人間を見下すような高い知性を宿していた。
ズシィィィン……ッ!
ドラゴンが、音を立てて庭の中央――グリルの数メートル先に着地した。
その圧倒的な威圧感に、イグニスでさえ戦斧に手を伸ばしたまま固まる。
蒼き鱗と、赤い瞳のスカイドラゴン。
それが、この屋敷のもう一人の住人であり、主を失った孤高の竜――**『アカメ』**だった。
アカメは、楽しげにBBQをしていた勇太たちを、その赤い瞳で冷酷に見下ろした。
そして、彼らの脳内に、低く威厳に満ちた声が直接響き渡った。
『……何だ、貴様らは。少し狩りに出かけていた隙に、我が根城で勝手に騒ぎおって』
テレパシー。
人語を解する高位の竜。
楽しいバーベキューパーティーは、最強の家主の帰還によって一瞬にして凍りついた。
だが、勇太は気づいていた。
威圧的なテレパシーを発するアカメの赤い瞳が。
自分たちではなく、網の上でジュージューと音を立てる**「タレがたっぷり絡んだ極上肉」**に、一瞬たりとも釘付けになっていることを。




