EP 20
訳アリ物件とドラゴンの噂
「ただし、魔物が出ますけどな」
ゴルド商会の豪華なVIPルーム。
ニャングルの言葉に、一瞬、部屋の空気が凍りついた。
だが、その静寂を破ったのは、意外にも勇太の即答だった。
「よし、内見に行こう」
「ユウタさん!?」
キャルルの兎耳がピンと逆立つ。
「全く……。貴方のそういう突拍子もない決断力には、少し頭が痛くなるわ」
リーシャがやれやれとこめかみを押さえる。
そんな中、目をギラギラと輝かせたのはイグニスだった。
「面白ぇじゃねーか! その魔物をぶっ飛ばせばいいんだろ? 豪邸も手に入って、腕試しもできる! 一石二鳥ってやつだ!」
「おおっ! 助かります~! さすがユウタはん、話が早くてホンマに助かりまんなぁ!」
ニャングルは揉み手をしながら、つい本音をこぼした。
「いやー、あの物件。元はエッライ貴族の別荘でのう。広くて立派なんやけど、例の魔物のせいで寄り付くモンがおらんくて、ホンマに不良債権化して困っとったんですわ!」
「……え?」
キャルルがピタリと動きを止め、ジト目でニャングルを睨みつけた。
「……ニャングルさん。もしかして、私たちに面倒な『厄介払い』をさせようとしてませんか?」
「そ、そんな人聞きの悪い! い、いや、その……」
冷や汗を流すニャングルに、勇太が冷静に尋ねた。
「因みに、そのモンスターって何が出るの? 貴族が手放すくらいだ。ゴブリンやコボルトとは訳が違うんだろう?」
「あぁ、な~に、たいしたことおまへん。ワテも噂でしか聞いとりまへんが……ただのドラゴンですわ」
ニャングルは、お茶を濁すように、さらりと言ってのけた。
「「「「…………」」」」
数秒の、完全なる静寂。
「そっか~♡ ただのドラゴンか~! なら楽ちん楽ちん♪ ……って、なるかぁぁぁーーーっ!!」
一度は納得しかけたキャルルが、我に返って絶叫した。ウサギの聴覚で増幅されたツッコミが、応接室にビリビリと響き渡る。
「このドブ猫……、いい加減にしなさい。私の『フレイム・サイクロン』で、あなたこそ丸焼きにして差し上げましょうか?」
リーシャの碧眼に、本気の怒りの青白い炎が宿る。杖の先端がバチバチと鳴り始めた。
「ひぃぃっ! ま、待っておくんなまし~! ちゃんと訳がありまんねん!」
ニャングルは高級ソファの裏に隠れ、必死に弁明を始めた。
「あ、あの物件はですな、元々、帝国でも指折りの『飛竜騎士』様のお宅だったんです!」
「飛竜騎士?」
勇太が眉をひそめる。
「へえ、あのスカイドラゴンに乗って空を駆ける、エッライ強い英雄様ですわ! そりゃもう、一人で戦況をひっくり返すほどの強者やったとか……。それが、まあ、その……」
ニャングルが言葉を濁す。
「どうしたのよ? 激戦の果てに散ったの?」
リーシャが杖を下ろし、先を促した。
「……宴会の席で出された『生キノコ』を食べて、あっけなく食当たりで亡くなってしまいましてな……」
「「「しょ、しょうもなっ……!!」」」
あまりにも締まらない英雄の最期に、全員のツッコミがハモった。
「ほんで、残されたそのスカイドラゴンが、主を失った悲しみから、元々住んでた屋敷を根城にしてしもたんですわ。人に危害を加えるわけやないらしいんですが、何せ大型のドラゴンですやろ? 近づくだけで威嚇されるし、主を失ったせいで誰も乗せようとせんしで……みーんな困り果ててるんすわ!」
「なるほどな……。主を亡くしたドラゴンが、思い出の場所を守ってるってわけか……」
同じ竜の血を引くイグニスが、少し同情したような、複雑な顔になる。
勇太は、全ての事情を飲み込んで、ポンと膝を打った。
「分かった。つまり、そのドラゴンを『退かす』か、『手懐ける』ことができれば、あの広大な屋敷が金貨50枚で手に入るってことだな」
「へっ? て、手懐ける……?」
ニャングルがポカンとする。
「イグニスがぶっ飛ばす気満々だったけど、話を聞く限り、悪いドラゴンじゃないみたいだしね。……相手が知能の高い竜なら、交渉の余地はある」
勇太の脳裏には、既に「地球ショッピング」のリストが浮かんでいた。
(……犬や猫を懐かせるには『美味しいエサ』が一番だ。ドラゴンなら……『地球の最高級A5ランク和牛』や『マグロの解体ブロック』とかを出せば、胃袋を掴めるんじゃないか?)
勇太の不敵な笑みを見て、キャルルもリーシャも、そしてイグニスも、「またユウタがとんでもない手段を出す気だ」と察して頷いた。
「しゃ、しゃいなら! おおきに、ユウタはん! 期待してまっせ!」
ニャングルは、厄介払いができた安堵感と、本当にドラゴンをどうにかしてしまうかもしれないという期待感をない交ぜにしながら、勇太たちに物件の『権利書と鍵』を手渡した。
こうして、「ホープ・クローバーズ」のマイホーム購入計画は、ただの内見から、『哀しき空の王者との対話(餌付け?)』というとんでもないミッションへと発展したのである。




