EP 16
黄金の笛と空からの強襲
「ッ!? 全員、伏せろッ!!」
勇太の警告と同時に、ゴールドゴブリンが投げつけたガラス瓶が地面で砕け散った。
ボンッ!!
爆発音と共に、あたり一面に濃密なピンク色の煙が立ち込める。
だが、熱くない。衝撃もない。代わりに、鼻を刺すような強烈な甘い香りが広がった。
「ゲホッ! なんだこの甘ったるい煙は! 目眩がしやがる!」
イグニスが煙を払おうと腕を振る。
「これは……毒? いいえ、痺れ薬の一種かしら?」
リーシャが袖で口元を覆う。
(サーモグラフィーも効かない……。ただの煙幕じゃないな)
勇太が警戒を強めたその時。
煙の向こうで、ゴールドゴブリンがニヤリと笑い、首から下げていた**「奇妙な形の黄金の笛」**を口にくわえた。
ヒュゥゥゥゥゥゥ――――……
人間である勇太とリーシャ、そして竜人のイグニスには、風切り音程度にしか聞こえなかった。
だが、兎人族のキャルルだけは違った。
「いっ……!? 耳が、痛いですっ!」
キャルルが長い耳を押さえてうずくまる。
あれはただの笛ではない。特殊な高周波を発する魔道具だ。
そして、その音と甘い香りに呼応するように、上空から「それ」はやってきた。
バサァァァッ!!!
突風が吹き荒れ、ピンク色の煙が一瞬で吹き飛ぶ。
頭上を巨大な影が覆い尽くした。
「なっ……!?」
「ウソだろ……!?」
空から舞い降りたのは、鷲の頭と翼、ライオンの胴体を持つ、伝説の魔獣――**『グリフィン』**だった。
その鋭い嘴と爪は鋼鉄のように輝き、広げた翼はゆうに10メートルを超えている。
「グルルルルォォォォッ!!」
グリフィンが咆哮すると、周囲の木々が激しく揺れた。
その威圧感は、以前戦ったロックサウルスにも匹敵する。
「キシャシャシャッ!」
ゴールドゴブリンは、混乱に乗じて素早く近くの木に登ると、そこからグリフィンの背中へと飛び移った。
慣れた動きだ。これが奴の逃走手段なのだろう。
「グリフィンだと!? なんでこんな所にいやがる!」
イグニスが戦斧を構え直す。
「まさか、あのゴブリンが使役しているの!? グリフィンは誇り高い魔獣よ。ゴブリンなんかに従うはずが……」
リーシャが驚愕する。
勇太は冷静に分析した。
あの甘い香りの煙幕。そして高周波の笛。
「……違うな。あれは『調教』だ」
勇太がグリフィンの首輪に注目する。そこには、ゴブリンが持つ笛と対になるような、奇妙な金属の首輪がはめられていた。
「あの煙の匂いで呼び寄せ、笛の音と首輪で強制的に従わせているんだ。……どこまでも小賢しい真似を!」
ゴールドゴブリンは、グリフィンの背中から勇太たちを見下ろし、醜悪な笑みを浮かべた。
そして、懐から盗品であろう「大きなルビー」を取り出し、グリフィンの目の前でちらつかせた。
「キィッ! キシャッ!(やれ! こいつらを殺せば、これをやるぞ!)」
「グオォォォッ!」
宝石に目がくらんだグリフィンが、勇太たちに向かって急降下を開始する。
「来るぞッ! 迎撃だ!」
勇太はグロック20を構え、トリガーを引いた。
ダァン! ダァン! ダァン!
10mm弾がグリフィンの胸板に吸い込まれる。
だが、鋼のように硬い羽毛と分厚い筋肉に阻まれ、血飛沫は上がるものの、致命傷には至らない。
「ギィャァァッ!!」
痛みに怒り狂ったグリフィンが、さらに加速する。
空からの突撃。地上の罠。そして狡猾な司令塔。
ただの「ゴブリン退治」は、最悪の空中戦へと変貌した。




