EP 7
碧海の交易都市と深淵の秘宝
第6話:Eランクの誤算 ~鋼鉄の恐竜と科学の牙~
帝都アウストラ近郊の「迷わずの森」。
勇太たち「ホープ・クローバーズ」は、最初の依頼である「ゴブリン討伐」に来ていた。
「……マイクテスト。感度良好」
『こちらリーシャ。聞こえているわ』
『オレ様だ。……この耳に突っ込んだ豆粒、すげぇな。勇太の声が頭に直接響きやがる』
『キャルルです! 聞こえまーす!』
四人は、勇太が購入した**『軍用骨伝導ヘッドセット(無線機付き)』を装着していた。
さらに上空には、カメラ付きの『小型ドローン』**が静かに浮遊している。
Eランクのゴブリン退治には、あまりに過剰な装備だ。
「ドローン映像確認。北北東、距離300メートルにゴブリンの集落。数は15体」
勇太がタブレット端末を見ながら指示を出す。
「プランAでいく。イグニスが正面からヘイト(敵意)を集め、その隙にキャルルとリーシャが側面から殲滅。……開始!」
「ヒャッハァ! 待ちくたびれたぜェ!」
イグニスが森を飛び出した。
戦斧の一振りで、見張り役のゴブリンが空の彼方へ吹き飛ぶ。
「ギャッ!? ギョギョッ!?」
パニックになるゴブリンの群れ。そこへ、側面から銀色の風が舞い込む。
「月影流・連脚!」
キャルルが踊るように駆け抜け、トンファーの一撃で次々とゴブリンを沈める。
「ウィンド・カッター」
リーシャが指先を振ると、逃げようとした個体の足元が真空の刃で切り裂かれる。
勇太もまた、逃げ遅れた個体に対し、冷静に**『グロック20』**のトリガーを引いた。
プシュッ、プシュッ!(サプレッサー装着済み)
乾いた音と共に、ゴブリンたちが崩れ落ちる。
「……クリア。全滅を確認」
戦闘時間、わずか3分。
完全なる蹂躙だった。
「けっ、張り合いがねえな。準備運動にもならねえ」
イグニスがつまらなそうに戦斧を担ぐ。
「Eランク依頼ですからね。……でも、これで実績解除です!」
キャルルがVサインを作る。
その時だった。
ズゥゥゥゥン……
地面の底から、腹に響くような振動が伝わってきた。
ドローンが激しく揺れる。鳥たちが一斉に空へ飛び立つ。
「……なんだ? 地震か?」
イグニスが周囲を警戒する。
「待って。……ドローンの反応がおかしい。大型の熱源が接近中!」
勇太がタブレットを見た瞬間、画面が真っ赤に染まった。
バキバキバキィッ!!!
巨木がマッチ棒のようにへし折られ、森の奥から「動く岩山」が現れた。
全長10メートル。
全身を灰色の岩石のような皮膚で覆い、頭部には三本の鋭利な角。そして首周りには巨大なフリル。
地球の「トリケラトプス」に酷似しているが、その威圧感は生物のそれを超えていた。
「な……ッ!?」
「で、でかい……!」
「グルルルルォォォォォ……!!」
巨獣が低い唸り声を上げると、周囲の空気がビリビリと震えた。
その瞳は血走っており、明らかに興奮状態にある。
「あれは……『岩撃竜』!? なんでこんな森の浅い場所に!?」
リーシャが叫ぶ。
「ロックサウルス? 知ってるのか?」
「本来は山岳地帯に住むAランク相当の魔獣よ! その皮膚はミスリル並みに硬くて、生半可な魔法や剣は通じないわ!」
Aランク。
つまり、熟練の冒険者パーティが命懸けで挑む相手だ。
それが、たかがゴブリンの血の匂いに釣られて降りてきたというのか。
「へっ、上等じゃねえか! ヒュドラよりは小さくて可愛げがあるぜ!」
イグニスがニヤリと笑い、大盾を構えて前に出る。
「俺様が止める! お前らは隙を見て叩け!」
「イグニス、待て! 奴の質量は戦車並みだぞ!」
勇太の制止も聞かず、イグニスが突っ込む。
「オオオオオッ! 『剛斧・兜割り』!!」
イグニスが跳躍し、全体重を乗せた戦斧をロックサウルスの頭頂部に叩きつけた。
普通の魔物なら脳天が割れる一撃。
ガギィィィィィンッ!!!
硬質な金属音が森に響き渡った。
戦斧が弾かれ、イグニスの腕が痺れて泳ぐ。
ロックサウルスの皮膚には、白い傷がついただけだった。
「なっ……マジかよ……!?」
「グオォォォッ!!」
ロックサウルスが首を振り上げ、カウンターの角撃を放つ。
イグニスは大盾で受け止めるが、その圧倒的な突進力に耐えきれず、枯れ葉のように吹き飛ばされた。
ズドォォンッ!
「ぐはっ……! 重てぇ……! まるで城壁が突っ込んできやがった……!」
「イグニスさん!」
キャルルとリーシャが顔色を変える。
ロックサウルスは鼻息を荒くし、次は勇太たちに狙いを定めて前足を掻いた。
突進の構えだ。
(……まずいな。物理装甲が厚すぎる)
勇太は冷や汗を拭いながら、脳内で素早く計算した。
銃弾は弾かれる。魔法も表面で拡散されるだろう。
ヒュドラの時のような「再生能力」はないが、単純な「硬さ」と「質量」においては、こいつの方が上だ。
だが、科学には「硬いものを壊す」ためのメソッドが無数にある。
「みんな、散開しろ! 正面には立つな!」
勇太が叫び、懐から**「ある道具」**を取り出した。
「Eランクの仕事にしては割に合わないけど……追加料金(ドロップ素材)はたっぷり頂くぞ!」
勇太は不敵に笑い、最強の硬度を誇る古代生物へ向かって駆け出した。




