EP 5
冒険者ギルドと狐耳の受付嬢
帝都アウストラでの最初の朝。
「イージーブロンズ亭」でマリリン特製のハムエッグ定食を平らげた勇太たちは、その足で冒険者ギルド**『ラックギオン』**へと向かった。
港湾区の一等地に鎮座するその建物は、まるで要塞だ。
石造りの壁には飛竜の頭骨が飾られ、扉を開ければ、むせ返るような熱気とアルコールの匂い、そして怒号のような話し声が押し寄せてくる。
「うわぁ……。ルナキャロット村の酒場とはレベルが違いますね」
キャルルが耳をパタパタさせて驚く。
「へっ、いい空気だ。強そうな奴がゴロゴロいやがる」
イグニスがニヤリと笑い、わざと足音を高く鳴らして歩く。
周囲の冒険者たちが、新入り(勇太たち)をジロジロと値踏みする視線を送ってくる。
だが、その視線はすぐに驚きに変わった。
白銀の髪を持つエルフの美女、愛らしい兎人の武闘家、そして威圧感の塊のような竜人。
どう見ても、田舎から出てきた新人パーティーの編成ではない。
「おい見ろよ、あの上玉のエルフ……」
「竜人がいるぞ。珍しいな」
ひそひそ話を聞き流し、勇太は受付カウンターへ向かった。
そこには、ふさふさの狐耳と尻尾を持つ、愛嬌のある女性が座っていた。
「いらっしゃいませ~! 新規登録ですか? それとも依頼の報告ですか?」
名札には**『受付嬢:フォミナ』**とある。彼女の尻尾は、業務用の愛想笑いとは裏腹に、パタパタと忙しなく揺れていた。
「新規登録だ。四人でパーティを組んでいる」
「はいはい、新規さんですね! ではこちらの『魔力感応紙』に手を乗せてください。お名前と、適性ジョブが浮き出ますので~」
フォミナが羊皮紙を差し出す。
まずはイグニスが手を乗せた。
ボッ!
紙が一瞬で焦げ、赤い文字が焼き付いた。
【氏名:イグニス・ドラグーン】【種族:竜人】【ジョブ:重戦士(ランクA相当)】
「ひぇっ!? 紙が焦げた!? ランクA相当の筋力!?」
フォミナの狐耳がピンと立つ。
次はリーシャだ。彼女が優雅に手をかざすと、紙は金色の光を放った。
【氏名:リーシャ・エルフリーデ】【種族:エルフ】【ジョブ:魔導師(全属性適性あり)】
「ぜ、全属性!? 王宮魔導師クラスじゃないですか!?」
フォミナが目を丸くする。
続いてキャルル。
【氏名:キャルル・ルナ】【種族:兎人】【ジョブ:格闘家(月影流師範代)】
「し、師範代……? この可愛さで……?」
「最後は俺だね」
勇太が手を乗せる。
「地球ショッピング」の力はどう判定されるのか。
紙には、今まで見たことのない奇妙な文字が浮かんだ。
【氏名:ナカムラ・ユウタ】【種族:ヒューマン】【ジョブ:???(商人? 兵器使い?)】
【スキル:異界の扉】
「は……? 『異界の扉』? 異世界の商品を買うスキル……? 戦闘職じゃないんですか?」
フォミナが困惑して首を傾げる。
勇太は苦笑して誤魔化した。
「まあ、補給係みたいなものですよ。荷物持ち兼、リーダーです」
「はぁ……。すごいメンバーなのに、リーダーが『荷物持ち』……?」
フォミナが疑わしげな目を向けた、その時だった。
「おいおい、そこのネエちゃんたちよぉ」
背後から、酒臭い息をした大男(オーク族の戦士)が、リーシャの肩に手を回そうとした。
「こんなヒョロガリの荷物持ちがリーダーじゃ、夜の相手も満足にできねえだろ? 俺たちのパーティに入りな。たっぷりと可愛がって……」
ガシッ。
大男の言葉は続かなかった。
イグニスが、その太い腕を横から掴んでいたからだ。
「ああん? 俺の大事なツレに、その汚ねえ手を触れるんじゃねえよ。……豚の丸焼きになりてぇか?」
「い、痛ぇ! 放せ! なんだテメェ!」
「失せろ」
イグニスが軽く手首をひねると、巨漢のオークが木の葉のように宙を舞い、酒場のテーブルへと激突した。
ガシャーン!!
一瞬の静寂。そしてざわめき。
「おい見たか? あのオーク・ジェネラルを片手で投げたぞ……」
「新入りじゃねえ。……手練れだ」
勇太はため息をつき、フォミナに向き直った。
「騒がせてすみません。……で、登録はこれでいいですか?」
「は、はいぃっ!!」
フォミナは尻尾を逆立てて直立不動になった。
「こ、個々の能力はSランク級ですが……ギルドの規定により、実績ゼロのため**『Eランク』**からのスタートになります! よろしいでしょうか!?」
「構いません。地道にやりますよ」
「ありがとうございます! では、こちらがギルドカードです! ……(小声)あとでギルドマスターに報告しなきゃ……とんでもない新人が来たって……」
フォミナから銀色のプレートを受け取る。
表面には**『パーティ名:ホープ・クローバーズ』。
ランクは最低の『E』**。
だが、その実力が「E」でないことは、ギルド中の冒険者が既に悟っていた。
「よし、行こうか。最初の仕事を探しに」
勇太が歩き出すと、冒険者たちが自然と道を空ける。
帝都アウストラ。
この巨大な街で、彼らの名前が轟く日は、そう遠くないだろう。




