EP 4
最初の宿と四つ葉の誓い
マルシア帝国の首都、アウストラ。
その圧倒的な威容に息を呑んだ勇太たちは、まず**「足」**の確保に動いた。
とはいえ、巨大な装甲キャンピングカー「ノマド号」で、人ごみ溢れる市街地を走るわけにはいかない。
勇太は港湾区にある**「王立高級馬車預かり所」**にノマド号を預けることにした。
保管料は一日金貨一枚と高額だが、厳重な警備がついている。何より、あの車は勇太たちの「動く城」だ。ケチる場所ではない。
「ふぅ、これで身軽になったな。さあ、帝都の探索といこうか!」
勇太が声をかけると、三人は待ってましたとばかりに歩き出した。
港湾区から平民区へと続くメインストリートは、ルナキャロット村の全人口よりも多い人々が行き交っていた。
「うわぁ……! 人がいっぱいです! あのお店、見たことない果物が並んでます!」
キャルルが目を回しながら、あちこちの露店に吸い寄せられそうになる。
「こらキャルル、落ち着きなさい。……田舎者だと思われて、スリに狙われるわよ」
リーシャが諌めるが、彼女自身も魔法道具屋のショーウィンドウに釘付けだ。
「へっ、面白ぇ街だ! 強そうな冒険者がゴロゴロいやがる!」
イグニスは、すれ違う戦士たちの装備を値踏みし、ニヤリと笑っている。
一行は観光もそこそこに、今夜の宿を探し始めた。
高級地区のホテルは堅苦しいし、港の安宿は治安が悪い。
勇太が求めていたのは、情報が集まりやすく、かつ居心地の良い「中級の宿」だ。
日が傾きかけた頃。
路地裏の落ち着いた通りに、良い雰囲気の看板を見つけた。
『宿屋イージー・ブロンズ亭』。
看板には磨かれた青銅の盾が飾られ、建物は古いが掃除が行き届いている。
「ここなら良さそうだ」
勇太が扉を開けると、活気ある酒場の熱気と共に、カウンターから恰幅の良い女性が声をかけてきた。
「いらっしゃい! 見ない顔だね、旅の方かい?」
女将のマリリンだ。太い腕でジョッキを拭く姿が様になっている。
「ええ。四人なんですが、空きはありますか? しばらく滞在したいんですが」
「おや、四人かい? ちょうど二階の角部屋が空いたところだよ。広いし、窓から大通りも見下ろせる一番の部屋さ!」
マリリンは快活に笑った。
提示された宿泊費は、帝都価格だけあって安くはない。だが、ここで動いたのはリーシャだった。
「女将さん。私たちは長旅で疲れておりますの。……もし、この価格で『朝食に卵とハム』をつけていただけるなら、この先もずっとご贔屓にさせていただきますわ」
リーシャは、貴族のような優雅な所作で微笑んだ。
ただ値切るのではない。「サービスを要求する」という高等テクニックだ。
「おやおや、お嬢ちゃん、なかなか言うじゃないか! ……気に入った! あんたみたいな美人の頼みだ、特別にオマケしてやるよ!」
こうして交渉成立。
通された部屋は、木目の温かい清潔な空間だった。二段ベッドが二つと、作戦会議ができそうな丸テーブルがある。
ノマド号の近未来的な快適さも良いが、こういう「ファンタジーの宿屋」もまた、旅の醍醐味だ。
「ふぅ、ようやく落ち着けるな」
イグニスがベッドに大の字になり、きしむ音をさせた。
「さて、明日はどうする?」
「まずは冒険者ギルドで登録だね。帝都で活動するにはライセンスが必要だ。……そこで、みんなに相談があるんだ」
勇太は椅子に座り直し、真剣な表情になった。
「これからギルドに登録するにあたって、**『パーティ名』**を決めなきゃならない。いつまでも『勇太一行』じゃ格好がつかないだろ?」
「おお! 名前か! 重要だな!」
イグニスが飛び起きた。
「はいはい! 私、良い名前思いつきました! 『キャロット・ラバーズ(人参大好き)』! 可愛いですよね!?」
キャルルが耳をピンと立てて提案する。
「却下だ。ウサギ小屋じゃねえんだぞ。……俺様は**『レッド・ドラゴン・ステーキ』**が良いと思うぜ! 強そうで美味そうだろ!」
イグニスが胸を張る。
「どっちも食べ物じゃないか……」
勇太が頭を抱えると、リーシャが苦笑した。
「勇太の案はないの? リーダーなんでしょう?」
「うーん……」
勇太は窓の外、帝都の夜景を見つめた。
種族も生まれも違う四人が出会い、ヒュドラを倒し、海を渡ってきた。
四人揃えば、どんな困難も乗り越えられる気がする。
「……四人、か」
勇太は指を四本立てた。
「四つ葉のクローバーは、幸運の象徴だ。僕たち四人が集まって、希望を持って未来へ進む……。『ホープ・クローバーズ (Hope Clovers)』。……どうかな?」
部屋に静寂が落ちた。
キャルルが目を輝かせ、リーシャが満足げに頷く。
「……素敵です! 希望の四つ葉!」
「ええ、悪くないわ。シンプルで、私たちの旅にふさわしい名前ね」
「ケッ、少し気取ってるが……ま、人参よりはマシか。俺様が活躍すりゃ、その名前が『最強』の代名詞になるんだしな!」
イグニスもニカッと笑って同意した。
「よし、決まりだ! 僕たちは今日から**『ホープ・クローバーズ』**だ!」
勇太が手を差し出すと、三人がその上に手を重ねた。
四つの手が重なり合う。
温かい仲間たちの体温。
その夜。
久しぶりの「動かないベッド」で眠りにつきながら、勇太は確信していた。
このメンバーとなら、帝都のどんな荒波も乗り越えていける。
【クエスト完了:帝都への到着と拠点確保】
【パーティ名『ホープ・クローバーズ』を結成しました】
【結束力ボーナス: 500 P 加算。現在 33,555 P です】
勇太の脳裏に、静かな祝福のメッセージが浮かんでいた。




