EP 3
潮風の港と船旅の始まり
ルナキャロット村を旅立ち、数日が経過した。
海岸沿いの街道を、黒い鉄の巨象――**『ノマド号』**が疾走していた。
「うわぁぁぁ! 海です! ユウタさん、海が見えますっ!」
助手席でキャルルが窓に張り付き、はしゃいだ声を上げる。
眼下には、太陽を反射してキラキラと輝く碧い大海原。
エアコンの効いた快適な車内から見る絶景は、最高の贅沢だ。
「でけぇ……。湖とはスケールが違うな」
後部座席のイグニスも、口を開けて見入っている。
リーシャは地図を広げ、ナビゲートをしてくれていた。
「もうすぐよ。岬を越えれば、**交易都市『アルトリア』**が見えてくるわ」
勇太がハンドルを切ると、視界が一気に開けた。
白亜の石壁に囲まれた巨大な港町。無数の帆船が行き交い、カモメが舞う。
ルナキャロット村の数十倍はあるであろう大都市だ。
「よし、行くぞ!」
勇太はアクセルを緩め、街の正門へと車を進めた。
ズオオオオオオ……
重低音のエンジン音と共に現れた「謎の鉄塊」に、門番や通行人たちがギョッとして道を開ける。
「な、なんだアレは!?」
「魔物か!? いや、車輪がついているぞ!」
注目の的になりながら、勇太は広場にノマド号を停めた。
ドアを開けて降り立つと、潮の香りと活気が押し寄せてくる。
「ここがアルトリアか……! 人がいっぱいだ!」
キャルルが長い耳をピコピコさせてキョロキョロする。
勇太はすぐに「移動手段」の確保に動いた。この巨大なノマド号を運べる船が必要だ。
港のギルドで交渉すると、運良く帝都行きの**「大型魔導輸送船リヴァイアサン号」が出航直前であることが分かった。
本来は軍の物資や大型魔獣を運ぶ船だが、勇太が提示した「金貨(ヒュドラ討伐の報酬)」**の威力と、ノマド号という未知の積載物への興味で、船長が特別に乗船を許可してくれた。
「へえ、こいつがアンタの馬車かい? 鉄で出来てるとは豪気だねぇ!」
船員たちが驚く中、勇太は慎重にノマド号を船の広大な甲板へと乗り入れた。
こうして、**「船の上にキャンピングカーがある」**という奇妙な光景が出来上がった。
出航の銅鑼が鳴り響く。
岸壁が遠ざかり、360度見渡す限りの海原へ。
「最高だな……。風が気持ちいい」
勇太たちは、ノマド号のサイドオーニング(日除け)を広げ、甲板上にテーブルと椅子を出してくつろいだ。
そして、ここからがお楽しみの時間だ。
「よし、市場で仕入れた新鮮な魚介で、**『海鮮BBQ』**といこうか!」
勇太が**『無煙ロースター(地球製)』**を取り出し、巨大なホタテ、エビ、イカ、そして脂の乗った魚を並べる。
ジュウウウゥッ……!
醤油とバターの焦げる香ばしい匂いが、潮風に乗って漂う。
「こ、この匂いは反則だろ……!」
イグニスが喉を鳴らす。
「はい、焼けたよ」
勇太が焼き立てのホタテを渡すと、イグニスは殻ごと掴んで口に放り込んだ。
「あつっ! うめぇぇぇぇッ!! プリプリの身と、この濃厚な汁! 海の恵みが爆発してやがる!」
「ん~っ! イカも柔らかくて美味しいですぅ!」
キャルルも口元を汚しながら笑顔満開だ。
リーシャは、勇太が出したよく冷えた白ワインと、白身魚のホイル焼きを優雅に楽しんでいる。
「船旅でこんなに美味しいものが食べられるなんて……。貴方といると、常識が壊れていくわね」
他の船員や乗客たちも、良い匂いに釣られて遠巻きにこちらを見ている。勇太は彼らにも料理を振る舞い、またたく間に船上の人気者になってしまった。
数日間の船旅は、まさにバカンスだった。
昼はデッキチェアで日光浴、夜はノマド号のフカフカのベッドで就寝。
嵐が来ても、頑丈な装甲車の中にいれば関係ない。
そして一週間後。
水平線の彼方に、天を突くような白い巨塔群が見えてきた。
「あれが……!」
マルシア帝都「アウストラ」。
魔法文明と機械技術が融合した、大陸最大の都市。
空には飛竜騎士が舞い、港には魔導船がひしめく。
「すっげぇ……。ルナキャロット村が何個入るんだ?」
イグニスが呆然と呟く。
「いよいよですね、ユウタさん」
「ああ。ここからが本番だ」
勇太はハンドルを握り直した。
この巨大都市で、どんな出会いが、そしてどんなビジネスチャンス(地球ショッピングの活用)が待っているのか。
期待と野心を胸に、ノマド号は帝都の桟橋へと降り立った。




