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『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


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EP 44

霧降りの谷と三つ首の悪夢

『警告。有毒ガス濃度、危険域に到達。外気遮断モードを維持します』

ノマド号のコクピットに、無機質なアラート音が鳴り響く。

勇太たちは、「霧降りの谷」の中を走行していた。

窓の外は、乳白色の闇。強力なLEDヘッドライトをもってしても、数メートル先が見えない。

「……ひどい霧ね。魔力視マナ・サイトも通じないわ。空間そのものが歪んでいるみたい」

助手席のリーシャが、モニターを見つめながら眉をひそめる。

後部座席では、イグニスとキャルルが窓に張り付いていた。

「おいユウタ、なんか臭わねえか? 車の中にいても、鉄錆みてえな臭いがするぞ」

「耳もダメです……。風の音が反響して、どこから音がしているのか分かりません」

この鉄の城(ノマド号)を一歩出れば、そこは死の世界だ。

勇太はハンドルを握る手に汗を滲ませ、慎重にアクセルを踏んだ。

その時だった。

ドォォォォォォォォンッ!!!

「うわっ!?」

「きゃああっ!?」

突如、凄まじい衝撃が車体を襲った。

重量10トンを超えるノマド号が、巨人の手で叩かれたように横滑りし、岩壁に激突して止まる。

「な、なんだ!? 事故か!?」

「いいえ……敵襲よ! 右舷方向、熱源反応あり!」

勇太がサイドモニターを見る。

霧の中から、ぬらりと光る**「三つの鎌首」**が現れた。

暗緑色の鱗。爛々と輝く紅蓮の瞳。

それぞれの口から、紫色の毒液を滴らせている。

「『三つ首の毒蛇トライ・ヒュドラ』……! ニャングルの言っていた化け物か!」

ヒュドラが再び首を振り上げ、ノマド号の装甲板に叩きつけられた。

ガギィィンッ!!

装甲が悲鳴を上げ、強化ガラスにヒビが入る。

「こんの野郎ッ! 俺の新車に何しやがる!」

イグニスがブチ切れてドアを蹴り開けた。

「出るぞ! 車の中にいたら缶詰にされるだけだ!」

「待てイグニス! 外は毒気が……!」

勇太の制止も聞かず、イグニスが飛び出す。キャルルとリーシャも続く。

勇太も慌てて**『ガスマスク』**を掴んで外へ出た。

「グルルルルァッ!!」

ヒュドラの三つの首が、それぞれ意思を持って襲いかかる。

「オオオオオッ!!」

イグニスが大盾で噛みつきを受け止める。火花が散り、酸性の唾液が盾を焼く。

「キャルル、側面を!」

「はいっ!」

キャルルが霧の中を疾走し、トンファーを叩き込む。だが、鋼鉄より硬い鱗はビクともしない。

リーシャが援護魔法を放つが、霧に魔力を吸われて威力が半減している。

「硬い……それに、再生している!?」

キャルルが傷つけた場所が、瞬く間に塞がっていく。

これがヒュドラの再生能力か。

「シャァァァァァッ!!」

ヒュドラの中央の首が、大きく息を吸い込んだ。

「まずい! ブレスだ! 避けろッ!」

勇太が叫ぶ。

吐き出されたのは、黒紫色の**『神経毒ガス』**だった。

それは瞬く間に周囲を覆い尽くし、視界を完全に奪う。

「ぐっ、目が……!」

「ゴホッ、ゴホッ……!」

ガスマスクをしていない三人が咳き込む。

動きが鈍ったその瞬間を、ヒュドラは見逃さなかった。

丸太のような太い尻尾が、霧の中から鞭のようにしなり、イグニスとキャルルを薙ぎ払った。

ドゴォッ!!

「ぐはっ!?」

「きゃああっ!!」

二人はボールのように吹き飛ばされ、ノマド号のボディに叩きつけられて崩れ落ちた。

「イグニス! キャルル!」

「……ユウタ、逃げて……!」

リーシャも毒気にあてられ、膝をついている。

全滅。

その二文字が脳裏をよぎる。

ヒュドラの三つの首が、ゆっくりと、動けない獲物にトドメを刺そうと鎌首をもたげた。

「させるかよォッ!!」

勇太はガスマスク越しに叫び、懐から**『グロック20』**を引き抜いた。

狙うは中央の首、その目玉!

ダァン! ダァン! ダァン!

10mmオート弾が炸裂する。

鱗には弾かれるが、一発が瞼を掠め、鮮血が舞った。

「ギャウッ!?」

ヒュドラの動きが止まる。

三対、計六つの赤い瞳が、一斉に勇太を睨みつけた。

獲物としての優先順位が切り替わったのだ。

「こっちだ化け物!! 相手になってやる!!」

勇太は発煙筒を焚き、霧の中へと走った。

仲間から引き離さなければならない。

だが、ここは視界ゼロの毒霧の中。

地の利は完全に相手にある。

シュルル……という衣擦れの音が、全方向から聞こえる。

どこから来る? 右か、左か、後ろか?

勇太が冷や汗を流して立ち尽くす中、濃霧の向こうから、巨大な三つの影がゆらりと浮かび上がった。

絶体絶命。

科学の知恵も、魔法の援護もない、孤独な死闘が始まろうとしていた。

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