EP 42
鉄の巨象と四つの心
ルナキャロット村の朝。
村人総出の見送りの中、勇太は広場の中央に立った。
「みんな、今までありがとう。……最後にもう一度だけ、驚いてくれるかな?」
勇太がボードを操作し、購入ボタンを押す。
空気が振動し、光の粒子が収束する。
ズドオオオオオオオオッ!!!
出現したのは、全長8メートル、6輪駆動の**大型装甲キャンピングトラック『ノマド・カスタム』**だ。
マットブラックの塗装、荒野を噛み砕く巨大なタイヤ、そして屋根には太陽光パネルと衛星アンテナ。
それは、異世界には存在し得ない「鉄の要塞」だった。
「な、なんだこの鉄の塊はぁぁぁっ!?」
「家か!? 家が車輪で走るのか!?」
村人たちが腰を抜かす中、勇太は運転席のドアを開け、仲間たちを招いた。
「さあ、乗って。僕たちの新しい『足』であり『家』だよ」
恐る恐る乗り込んだ三人は、さらに絶句した。
外見の無骨さとは裏腹に、内装はラグジュアリーホテルのようだったからだ。
広々としたリビング、IHキッチン、ふかふかのソファベッド、そして清潔なシャワールームまで完備されている。
「うわぁぁ……! 床がフワフワです! ソファが吸い付いてきます!」
キャルルがベッドにダイブし、喜びのあまり耳をバタバタさせる。
「信じられない……。外は鋼鉄の鎧、中は王宮の寝室……。これがユウタの世界の『車』なの?」
リーシャがシステムキッチンを撫で回し、ため息をつく。
「へっ、悪くねえな! 俺様の指定席はここか!」
イグニスは助手席にドカッと座り、視点の高さにご満悦だ。
「それじゃあ、出発だ!」
勇太がキーを回すと、ディーゼルエンジンが野獣のような咆哮を上げた。
ブロロロロロ……!!
クラクションを鳴らし、手を振る村人たちに見送られながら、ノマド号は荒野へと走り出した。
旅は、快適そのものだった。
サスペンションの効いた車内は、砂利道でも揺れを感じさせない。
エアコンが効いたリビングで、勇太たちは流れる景色を眺めながら語り合った。
「ユウタ、この『えんじん』というのは、どういう理屈で動いているの?」
リーシャが助手席の勇太に身を乗り出す。
彼女の知的好奇心は、この鉄の塊に釘付けだった。
「化石燃料を爆発させて、その力を回転運動に変えてるんだ。魔法陣じゃなくて、『ピストン』と『ギア』の物理法則だよ」
「爆発を動力に……。火炎魔法を閉じ込めて推進力にするようなものかしら。……美しいわ」
リーシャはダッシュボードの計器類を見つめ、科学という名の魔法に酔いしれていた。
昼食は、イグニスのリクエストで「カツカレー」になった。
勇太がキッチンで揚げたてのトンカツを乗せると、車内にスパイシーな香りが充満する。
「うめぇぇぇ! サクサクのカツと、このドロっとした汁! 揺れる馬車じゃ絶対食えねえ贅沢だぜ!」
イグニスが大盛りカレーを飲み込むように平らげる。
キャルルも、口の端にルーをつけながら幸せそうだ。
「ユウタさんのご飯、本当に美味しいです! ……なんだか、ピクニックみたいですね!」
「はは、そうだね。でも、そろそろエリアが変わるよ」
勇太がハンドルを切り、海岸線沿いのルートへ入る。
窓の外には、グラングル大陸の雄大な海が広がっていた。
夜。
彼らは景色の良い岬に停車し、車の上に上がった。
勇太が出した天体望遠鏡で、満天の星空を見上げる。
「きれい……。村で見る空と同じはずなのに、ここから見ると、なんだか手が届きそう」
キャルルが呟く。
その横顔には、少しだけ故郷を離れた寂しさが滲んでいた。
リーシャが優しく彼女の肩を抱く。
「世界は広いのね。……私の知っている『エルフの森』が、ちっぽけに思えるくらい」
「俺たちは、この広い世界のどこへだって行けるさ。この『ノマド号』と一緒ならな」
勇太の言葉に、三人が頷く。
種族も生まれも違う四人。だが、同じ星空の下、同じ車に乗って旅をする「家族」になった。
だが、そんな穏やかな時間は長くは続かない。
数日後。
ノマド号が峠を越えると、景色が一変した。
青空は消え、どす黒い雲が垂れ込め、視界の先が濃密な白い霧に覆われている。
【警告:有害性ガスを探知。外気循環を停止します】
車のモニターに警告が表示された。
「……来たわね。『霧降りの谷』よ」
リーシャの声が緊張を帯びる。
ヘッドライトが霧を切り裂くが、その先には生物の気配がない。
あるのは、ねじくれた木々と、何かが這いずったような巨大な痕跡だけ。
「おいユウタ。……なんかデカイのがいるぞ。俺の勘が警報鳴らしてやがる」
イグニスが窓の外を睨みつける。
キャルルの長い耳も、ピクリと動いた。
「聞こえます……。地響きと、空気が擦れる音……。たくさん……ううん、一つ?」
勇太はハンドルを握る手に力を込めた。
「来るぞ。全員、戦闘準備!」
快適なドライブは終わりだ。
ここからは、命を懸けた「狩り」の時間。
勇太はアクセルを踏み込み、白い地獄へと突入していった。




