EP 42
商人の歓喜と忍び寄る魔影
手作りコスメにヘアトニック、そして歯磨き革命。
勇太がもたらした「地球の知恵」は、ルナキャロット村を、辺境の寒村から「美と健康の先進地」へと変貌させていた。
夏の盛りのある日。見張り台から、待ちわびた声が響く。
「ニャングルさんが来たぞー!」
前回よりも隊列を増やし、ゴルド商会の旗を掲げた馬車団が到着した。
ニャングルは馬車から降りるなり、目を丸くして周囲を見回した。
「毎度! ……て、なんやこれ!? 狐につままれた気分でっせ!」
出迎える村の女性たちは肌艶が良く、髪には「天使の輪」が輝いている。
男性陣は頭皮マッサージのおかげか表情が明るく、何より全員の笑顔からこぼれる「白い歯」が眩しい。
「皆さん、まるで都の貴族みたいにピカピカやないですか! 一体何が……」
「へへっ、驚いた? 実はね、ニャングルさん」
勇太は、村で作った新商品のラインナップを披露した。
『ルナハーブ・シャンプー』、『スカルプDトニック』、そして**『ミント練り歯磨き&ブラシセット』**。
「は、歯を磨く……? どれどれ」
ニャングルは半信半疑で歯ブラシを口に入れ、シャカシャカと動かした。
数分後。口をゆすいだ彼の顔が、雷に打たれたように硬直した。
「――――ッ!!?」
彼はハァーッと息を吐き、自分の歯を舌で舐め回した。
ツルツルだ。そして口内を吹き抜けるミントの涼風。
「か、革命や……! 口の中が生まれ変わったみたいや!!」
ニャングルが勇太の手をガッチリと掴む。その力は凄まじかった。
「ユウタはん! これ、全部ウチで扱わせてくれまへんか!? 特にこの歯磨きセット! 王侯貴族は『口臭』に悩んでますんや! これ持ってったら、言い値で売れまっせ!?」
「もちろん、そのつもりですよ。村のみんなで作った在庫、全部買い取ってください」
「商談成立や! よっしゃ、金貨の山を用意しいや!」
村は沸いた。
特産品が飛ぶように売れ、代わりに大量の食料、鉄、日用品、そして「金貨」が村にもたらされた。
これで、勇太がいなくなってもこの村は自立し、豊かになっていくだろう。
【ピンポンパンポーン♪】
【ルナキャロット村の経済的自立を確定させました】
【多大な貢献ボーナス: 2000 P 加算】
【現在所持ポイント: 18005 P】
(1万8000ポイント……! これなら、オプションも付け放題だ)
勇太が手応えを感じていると、荷積みを終えたニャングルが、ふと声を潜めて近づいてきた。
「……ところでユウタはん。アンタはんら、次は南へ行くんやろ?」
「ええ、そのつもりですけど」
「なら、気ぃつけなはれ。ここから南東にある交易路**『霧降りの谷』**……あそこが今、通れへんようになっとるんですわ」
その言葉に、リーシャとイグニス、キャルルも顔を上げる。
「通れない? 土砂崩れか何かか?」
イグニスが問うと、ニャングルは首を横に振った。
「魔物ですわ。……それも、タチの悪いやつや。鋼鉄より硬い鱗を持ち、毒の霧を吐き、無数の触手で獲物を嬲り殺しにする……**『多頭の毒蛇』**の亜種が出たらしいんです」
「ヒュドラ……!」
リーシャが息を呑む。再生能力と猛毒を持つ、冒険者殺しの最悪の魔獣だ。
「そのせいで、南への物流が止まってますねん。この村の特産品も、南の港町へ運ぶにはそこを通らなアカン。……正直、ワテらも困っとります」
ニャングルはチラリと勇太たちを見た。
伝説のクリスタルタートルを狩った英雄たちなら、あるいは、という期待の目だ。
「……分かりました。どのみち、僕たちも南へ行く予定でしたから」
勇太は力強く頷いた。
村の特産品を世界へ広めるためにも、その街道は開通させなければならない。
それが、この村への最後の手土産だ。
「おおきに! アンタはんならそう言ってくれる思てましたわ! 朗報、期待してまっせ!」
ニャングルは陽気に手を振り、北の都へ向かって出発していった。
残された四人は、顔を見合わせた。
鋼鉄の鱗、猛毒、触手。
クリスタルタートル以上の難敵かもしれない。
「……怖気づいたか、イグニス?」
「はんっ、言うようになったなユウタ。俺の新しい筋肉が唸ってるぜ」
「毒の霧なら、私の風魔法で吹き飛ばしてみせるわ」
「私も! 歯磨きで強くなった歯で、噛み付いてやります!」
頼もしい仲間たち。
そして、勇太の懐には18,000ポイントという無限の可能性がある。
「よし、行こう。……でも、その前に」
勇太は広場の中央に向き直り、ニヤリと笑った。
「みんな、ちょっと集まってくれないか? 出発の前に……僕の『とっておき』を見せたいんだ」
勇太の言葉に、ラトルやウルジ、村人たちが不思議そうに集まってくる。
ついに、その時が来た。
この世界に、地球の科学力の結晶たる「鉄の巨象」を呼び出す時が。
勇太はボードの「購入ボタン」に指をかけた。
「さあ、驚いてくれよ……!」




