EP 36
商魂と村の未来図
イグニスの治療を終え、村が落ち着きを取り戻した頃。
興奮冷めやらぬニャングルが、勇太を捕まえて「商談」を持ちかけてきた。
彼の猫目は、金貨のようにギラギラと輝いている。
「さて、ユウタはん。ここからが本番でっせ!」
ニャングルは身を乗り出し、鼻息荒くまくし立てた。
「アンタはんのスキル……『地球ショッピング』でしたな? あれ、もっとドカンと使いまひょ! 黒胡椒、酒、それにあの『点滴』! アンタはんが出して、ワテが売る! これだけで大陸中の金貨がウチらの元に雪崩れ込みまっせ! どうでっか、ゴルド商会と組んで世界一の富豪になりまへんか!?」
彼の頭の中では、既に億万長者の計算ができているらしい。
だが、勇太は苦笑して首を横に振った。
「ありがたい話ですけど……それは無理です、ニャングルさん」
「な、なんでですのん!? 儲け話が嫌いってわけやないでしょ?」
「僕のスキルは『徳』で動くんです。人助けや善行を積まないと補充されない。だから、金儲けのために乱用すると、すぐに枯渇して二度と使えなくなります」
「な……なんやて……?」
ニャングルの猫耳が、ぺたりと垂れ下がった。
打ち出の小槌だと思っていたものが、実は「善意」という燃料で動く精密機械だったと知り、当てが外れたのだ。
「そ、そらあきまへんなぁ……。徳を積まなアカンなら、商売には不向きや……」
しょぼくれるニャングル。
だが、そこで助け舟を出したのは、キャルルだった。
「あの、ニャングルさん! ユウタさんが品物を出し続けるのが無理なら……ユウタさんの道具を使って、私たちが『新しい品物』を作るのはどうですか?」
「……ほう?」
ニャングルが顔を上げる。
勇太もハッとして手を打った。
「そうか! 『完成品』じゃなくて『生産設備』を渡せばいいんだ!」
勇太はボードを展開し、村の特産品を強化できそうな「機材」を検索した。
「例えば、この村には薬草が豊富ですよね。これを使えば……」
勇太が取り出したのは、ガラス管とフラスコが複雑に組み合わさった**『理化学用蒸留装置』**だ。
「こいつで薬草のエキスを抽出・濃縮すれば、普通のポーションよりも効果の高い『特製薬』が作れます。他にも……」
続けて、大型の**『ステンレス製燻製器』と、『真空パック機』**を取り出す。
「ピッグシープの肉や川魚を、桜のチップで燻製にして真空パックすれば、日持ちもするし、味も格段に上がる。これなら、遠くの街へ輸出しても腐りません」
「な、なるほど……!」
ニャングルの目が再び輝き出した。さっきよりも強い光だ。
「ユウタはんの不思議な道具で、村の素材を加工する……。つまり、『ルナキャロット村でしか作れない特産品』ができるわけや!」
「その通りです。これなら僕がいなくなっても生産は続くし、村のみんなも仕事ができる」
リーシャも感嘆の声を上げた。
「素晴らしいわ。一時的な富を与えるのではなく、富を生み出す『術』を残すのね。……貴方は本当に、どこまで思慮深いのかしら」
「よっしゃ、乗った!」
ニャングルが膝を叩いた。
「その特産品、全てウチがプロデュースさせてもらいますわ! 『ルナキャロット・ブランド』……こら化けまっせぇ! 早速、村長と契約の書き換えや!」
商魂たくましい猫商人は、新しいビジネスモデルに夢中になって走り去っていった。
これで、村の防衛だけでなく、経済的な自立も約束された。
勇太がこの村に残せる、最大の遺産だ。
「ふあぁ……。おい、難しい話は終わったか?」
その時、蚊帳の外だったイグニスが、盛大なあくびをした。
「俺はもう腹ペコで死にそうだ。……その『くんせー』ってのは、いつ食えるんだ?」
その場の空気が一気に緩み、全員が吹き出した。
「ははは、そうだな! 燻製はまだだけど、出発の前に……みんなで最高の朝飯にしようか」
「おう! 待ってました!」
勇太は笑いながら、仲間たちの顔を見渡した。
村の憂いはなくなった。資金もできた。
あとは、いよいよ「旅立ち」の時だ。
勇太はボードの「お気に入り」を確認する。
そこには、昨夜購入を確定した**『最強の相棒』**が、今か今かと出番を待っていた。




