EP 35
竜人の目覚めと商人の目論見
宴の喧騒から離れた集会所の一室。
そこには、瀕死の重傷を負った竜人イグニスが横たわっていた。
全身の骨がきしみ、内臓が悲鳴を上げている。通常の人間なら即死、竜人族の生命力でも数ヶ月は寝たきりになるレベルだ。
だが、このパーティには「三つの奇跡」があった。
「傷口は塞いだわ。でも、失った血液と体力が戻らない……」
リーシャが額に汗を浮かべ、回復魔法の光を弱める。
「代わります! ……お月様、彼に命の灯火を!」
キャルルがイグニスの胸に手を当てる。三日月の光が窓から差し込み、彼女の銀髪を通して増幅され、温かな生命エネルギーとなってイグニスの心臓へ送り込まれる。
「よし、バイタル安定。……ここからは『科学』の出番だ」
勇太は**『医療用点滴セット(ブドウ糖・電解質・抗生物質配合)』**を取り出した。
慣れた手つきで静脈を探り、針を刺す。
「う、お……? なんだその管は……?」
うっすらと目を開けたイグニスが、自分の腕に繋がれた透明なチューブを見てギョッとする。
「動かないで。栄養と、バイ菌を殺す薬を直接血管に入れてるんです。魔法より地味だけど、回復速度は段違いですよ」
魔法による「修復」。
月の力による「活性化」。
現代医療による「補給と感染防止」。
この三位一体の治療は、劇的な効果を生んだ。
数時間後。死にかけていたはずのイグニスは、なんと上半身を起こし、勇太特製の「特盛り肉スープ」を平らげていた。
「ぷはーっ! 生き返ったぜ!!」
イグニスが空になった皿を置き、自身の筋肉を確かめるように動かす。
「信じられねえ……。体の芯から力が湧いてきやがる。魔法だけじゃこうはいかねえ。……ユウタ、お前のその『透明な水(点滴)』、魔法の聖水か何かなのか?」
「似たようなものです。……無事でよかった」
「へっ、心配かけやがって。……ありがとな、三人とも。この命、改めてお前らに預けるぜ」
イグニスがニカッと笑う。
最強の盾が、万全の状態で復活した瞬間だった。
夜が明け、村が落ち着きを取り戻した頃。
興奮冷めやらぬ行商人ニャングルが、勇太たちの元へ飛び込んできた。
「ユウタはん! ユウタはん!! とんでもないことしてくれましたなぁ!」
彼の手には、クリスタルタートルの甲羅の欠片が握られている。
「この水晶! ゴルド商会の鑑定スキルで見させてもらいましたけど、こらもう国宝級……いや、神器級の素材でっせ! 魔力反射率100%! これひとかけらで、城が建つほどの値がつきまっせ!」
「城って……そこまでですか」
「当たり前でんがな! ロップ村長とも話つけましてな、この素材の独占販売権、ウチがもらうことになりました。村には一生遊んで暮らせるだけの金を払いますわ!」
ニャングルは鼻息荒くまくし立てると、スッと表情を引き締め、商人の顔になった。
「……で、や。本題はここからですわ。ユウタはん」
ニャングルは、勇太の足元にある「空になった点滴パック」や「カセットコンロ」をチラリと見た。
「アンタはんの持ってる『地球の道具』……。あれ、ウチと専属契約して卸してもらえまへんか? 胡椒、酒、そしてその医療品。……言い値で買い取ります」
勇太は心の中でガッツポーズをした。
ポイントは戦闘や人助けで稼げるが、この世界の「通貨」は別だ。旅をするには、現地の金も必要になる。
「……いいですよ。ただし、僕が必要とした時に、必要な情報を優先的に回してもらうことが条件です」
「交渉成立や! さすがユウタはん、話が早い!」
ニャングルは勇太の手をガッチリと握り、大量の金貨が入った革袋を「契約金」として渡した。
これで、資金面の問題も解決した。
ニャングルが去った後。
勇太は一人、朝日が昇る広場を見渡した。
所持ポイント、15,455P。
懐には、大量の金貨。
そして、後ろには信頼できる仲間たち。
(……準備は整った)
勇太はボードを開き、ずっと「お気に入り」に入れていた**『超大型商品』**のページを開いた。
それは、このファンタジー世界を旅するための、勇太なりの「答え」だ。
「よし……ポチっとな」
【購入を確定しますか?】
【YES】
その瞬間、勇太の指先から光が溢れ出した。
村人たちの度肝を抜き、冒険の旅を快適かつ最強にする「鉄の巨象」が、今まさにルナキャロット村の広場に降臨しようとしていた。




