EP 34
英雄の帰還と甘い火花
「クリスタル・フォートレス」の残骸と、貴重な部位を回収した一行は、ラトル率いる自警団と共にルナキャロット村へ凱旋した。
時刻は深夜だが、村は松明の明かりで真昼のように明るかった。
「ユウタ様ー!」「キャルルちゃん、無事だったか!」「イグニス、よくやった!」
村の入り口で、割れんばかりの大歓声が出迎える。
「囁きの森」の異変解決は、村の死活問題だった。それを成し遂げた四人は、今や紛れもない英雄だ。
そんな感動の再会に、ひょっこりと「商売の匂い」が割り込んだ。
「いや~、こらまたえらいお祭り騒ぎですなぁ! ワテの鼻がピクピクする思たら、とんでもない『大金星』が転がり込んでまんがな!」
人垣をかき分けて現れたのは、猫耳と尻尾を揺らす行商人、ニャングルだ。
彼は勇太への挨拶もそこそこに、村人たちが運び込んでいる「水晶の甲羅」に目を釘付けにした。
「こ、これは……まさか、『魔封じの水晶』!? しかも、この純度と大きさ……」
ニャングルが震える手でルーペを取り出し、鑑定を始める。
「間違いない……伝説の魔物『クリスタル・タートル』の甲羅や! 王国の宮廷魔導師団が喉から手が出るほど欲しがる、対魔法装備の最高級素材! ……ユウタはん、これをアンタはんらが?」
「ああ。結構硬かったけどね」
勇太が事もなげに言うと、ニャングルの猫耳が垂直に立った。
「硬かったて……アンタはんねぇ! これは国家予算クラスの素材でっせ!? ちょ、ちょっとロップ村長! ラトル団長! 今すぐ商談室へ! ゴルド商会の全財産叩いても買い取らせてもらいますわ!」
興奮で尻尾を膨らませたニャングルは、村長たちを強引に連行していった。これで村の財政も安泰だろう。
「ふふ、相変わらず騒がしい人ね」
リーシャが可笑しそうに笑う。
その時、彼女の美しい瞳が、勇太の腕の一点に留まった。
「……っ! ユウタ、怪我をしてるじゃない!」
「え?」
勇太が見ると、腕に木の枝で擦ったような、うっすらとした赤い線があった。唾をつけておけば治るレベルだ。
だが、リーシャは血相を変えて勇太の手を取った。
「大変……! バイ菌が入ったらどうするの! 今すぐ私が『ヒール』をかけるわ。じっとしてて」
甘い香りが勇太を包む。リーシャの顔が近い。
すると、横から猛スピードで兎耳の少女が割り込んだ。
「だ、ダメですリーシャさん! 魔力の無駄遣いですっ!」
キャルルが勇太のもう片方の腕を抱きしめる。
「ユウタさんの体には、私の『月の癒やし』の方が相性がいいんです! 月が出てる今なら、お肌もツルツルになりますよ!」
「あらキャルル。エルフの治癒魔法の方が確実よ。それに、貴方は疲れているでしょう?」
「むぅ……疲れてません! ユウタさんのためなら百倍元気です!」
「「どっちが良いですか(良いかしら)!?」」
右に兎、左にエルフ。
上目遣いの美少女二人に迫られ、勇太はカチコチに固まった。
「え、あ、いや、二人とも……これ、ただのかすり傷……」
「ダメ! 傷は早めの処置が大事なの!」
「そうです! ユウタさんの綺麗なお肌に傷跡が残ったら大変です!」
密着する柔らかい感触と、必死な眼差し。
勇太の心拍数が限界突破しかけた、その時。
「……あー、盛り上がってるとこ悪ぃんだがよぉ」
背後の壁際から、地獄の底のような呻き声が聞こえた。
「俺様の方、見てくんねえ? ……全身打撲に肋骨骨折、おまけに熱線の余波で全身痺れてるんだが……?」
そこには、ボロボロになったイグニスが、誰にも介抱されずに転がっていた。
どう見ても、瀕死の重傷人は彼だ。
「あっ」
勇太、リーシャ、キャルルの三人が同時に声を上げた。
完全に忘れていた。
「ご、ごめんイグニス! そりゃそうだ! 君が一番頑張ったんだから!」
「す、すまないわイグニス! つい、ユウタの怪我が心配で……」
「てへへ、ごめんなさいイグニスさん!」
三人は慌ててイグニスに駆け寄り、総出で治療を始めた。
イグニスは「扱いが違いすぎだろ……」とボヤきつつも、仲間たちの手当てに安堵の表情を浮かべた。
騒がしくも温かい夜。
治療が一段落した頃、勇太は一人、夜空を見上げてボードを確認した。
所持ポイント、15,455P。
(……決めた)
勇太は、ずっと「お気に入り」に入れていた商品の購入ボタンに指をかけた。
この世界を旅するための、最高の相棒。
村人たちへの最後のサプライズであり、自分たちの新しい「家」。
(明日の朝、みんなを驚かせてやろう)
勇太はニヤリと笑い、購入ボタンをタップした。
【購入完了:大型探索車両『ノマド・カスタム』】
【残高: 455 P】
勇太の異世界生活は、ここから「旅」へとシフトする。




