EP 33
水晶の残骸と芽生える想い
クリスタルタートルが沈黙し、光る苔の輝きが消えていく。
洞窟に残ったのは、荒い息遣いと、キラキラと舞うダイヤモンドダストだけ。
「やった……やったぞ、みんな!」
イグニスが斧を掲げ、勝利の咆哮を上げる。
その瞬間、勇太の視界にファンファーレと共にウィンドウが躍った。
【強敵:クリスタル・フォートレス撃破! 5000 P】
【『囁きの森』浄化完了! 3000 P】
【パーティ連携ボーナス! 1000 P】
【合計 9000 P 加算。現在 15455 P です】
【ランクアップ! 『大型車両・特殊車両』カテゴリが解放されました】
「いち……一万五千!?」
勇太は桁違いの数字に声を裏返した。
これだけあれば、サバイバルの域を超えて「文明」そのものを持ち歩ける。
安堵と、未来への希望。
張り詰めていた糸が切れ、勇太がへたり込んだ、その時だった。
「ユウタさんっ!!」
「ユウタッ!!」
左右から、甘い衝撃が襲ってきた。
「うわっ!?」
右からはキャルル。小動物のように飛びつき、その豊かな胸の感触と、日向のような温かい匂いが勇太を包む。
左からはリーシャ。華奢な体を震わせながら、強くしがみつき、森の風のような清涼な香りが鼻孔をくすぐる。
「よ、よかった……! ユウタさんが死んじゃったらどうしようって……!」
「無事でよかった……。貴方の機転が、私たちを救ったのよ……!」
二人の体温と、涙混じりの吐息。
死線を潜り抜けた高揚感が、理性のブレーキを壊していた。
勇太の顔が沸騰しそうになる。
「あ、あの、二人とも……近いです、当たってます……!」
勇太のうわずった声に、二人がハッと我に返った。
「っ!? ご、ごめんなさい! 私ったら、つい……!」
「わ、私も……取り乱してしまったわ。わ、忘れて頂戴……!」
パッと離れる二人。
キャルルは耳まで真っ赤にしてモジモジし、リーシャは咳払いをしてそっぽを向くが、その横顔は林檎のように赤い。
洞窟内に、甘酸っぱくもむず痒い、ラブコメの空気が充満する。
「カーッ! やってらんねえな! 命拾いした直後にこれかよ!」
そんな空気をぶち壊したのは、イグニスだった。
彼は呆れ顔で肩をすくめると、巨大な亀の亡骸をコンコンと叩いた。
「おい色男。イチャつくのは後にしな。……このデカブツ、どうする? 俺の斧でも解体は骨だぞ」
「あ、ああ、そうだな……。これは村の人に頼もう」
勇太が平静を取り繕ったタイミングで、洞窟の入り口から松明の光が雪崩れ込んできた。
ラトル率いる自警団だ。
「おーい! ユウタ! 無事かーーッ!?」
彼らは、粉砕されたゴーレムと、山のようなクリスタルタートルの死骸を見て、絶句して立ち尽くした。
「な……なんだこりゃあ……。伝説の『水晶亀』か……!?」
「これを、たった四人で倒したのか……?」
「お前たち……本当に、とんでもないことをやってのけたな……!」
ラトルが震える声で称賛し、勇太の肩を叩く。
そして、遅れてやってきたウルジ爺さんが、亀の甲羅の破片を拾い上げ、狂喜乱舞した。
「こ、これは! 『魔封じの水晶』じゃねえか! こいつがありゃ、王都の騎士団長ですら持ってねえ『魔法反射の鎧』が作れるぞ!!」
「マジか!? 村の宝になるじゃねえか!」
村人たちが湧き立つ。
勇太はウルジに向かって言った。
「ウルジさん、その素材は全部、村に置いていきます。……僕たちからの、最後の贈り物です」
「……最後? まさかユウタ、お前……」
ラトルがハッとして勇太を見る。
勇太は静かに頷いた。
「この森の異変は解決しました。……僕たちは、次の街へ行きます」
寂しげな沈黙が流れる。
だが、ラトルはすぐにニカッと笑い、勇太の背中をバシッと叩いた。
「湿っぽいのはナシだ! ……よし、野郎ども! 獲物を運ぶぞ! 今夜はまた宴会だ!」
「「「オオオオッ!!」」」
活気が戻る。
勇太は、砕けた水晶の中から、ひときわ強く輝く**『虹色の魔石(タートルの核)』**だけをこっそりと回収した。
(これがあれば……『あの車』の動力源になるかもしれない)
帰り道。
満点の星空の下を歩きながら、勇太はボードを確認した。
所持ポイント15,455P。
カテゴリ**『大型車両・キャンピングカー』**。
(……買える。僕たちの、走る家が)
勇太は仲間たちの顔を見た。
キャルル、リーシャ、イグニス。
この最高のメンバーと共に、この世界をもっと見て回りたい。
そのための「翼」を手に入れる時は、もう目の前だった。




