EP 27
月下の奇跡と癒しの宴 - 続き
キャルルの「月の舞」によって、傷ついた人々は癒やされ、村は温かな光に包まれた。
空には、地球のそれよりも大きく、青白く輝く満月。
最高のロケーションだ。
勇太は夜空を見上げ、ニヤリと笑った。
(こんなに綺麗な月が出てるんだ。ここで終わらせちゃ野暮だろ)
「みんな、元気になったな! ならば……宴はこれからが本番だ! 今日はとことん楽しもうぜ!」
勇太が高らかに宣言すると、村人たちは「おおーっ!」と期待の拳を突き上げた。
彼はボードを展開する。ポイントは6500P以上ある。
ケチる必要はない。今夜は、伝説に残る夜にする。
【購入完了:プレミアム・モルツ樽生、純米大吟醸『久保田』、ヴィンテージ・ワイン、スコッチウイスキー12年物……】
【購入完了:氷(20kg)、特大クーラーボックス、焼き鳥缶詰(タレ・塩)、チーズ盛り合わせ、スナック菓子セット……】
ズラリと並んだ酒瓶と、冷気を漂わせるクーラーボックス。
合計1000Pの豪遊だ。
「な、なんだこの箱は? 中から冷たい空気が……ヒッ、氷!? 夏場に氷だと!?」
ウルジがクーラーボックスを開け、悲鳴のような声を上げる。
勇太は氷水でキンキンに冷やしたジョッキを取り出し、サーバーから黄金色の液体を注いだ。
「イグニス、お前にはこれをやるよ。俺の世界の『エール』だ」
「おう! 待ってました!」
イグニスはジョッキをひったくると、喉を鳴らして一気に煽った。
ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ……プハァァァァッ!!!
「んなぁぁぁっ!!? な、なんだこれはぁぁぁ!!」
イグニスが目を剥いて絶叫した。
「冷てぇ! 頭がキーンとするほど冷えてやがる! それに、この喉で弾ける刺激……『炭酸』か!? 喉越しが凄まじいぞ! 最高だぁッ!」
「あはは、気に入ってくれてよかった。つまみはこれだ」
勇太は、カセットコンロで温めた『焼き鳥』を差し出す。
炭火の香料と、焦げた甘辛いタレの匂い。
イグニスはそれを骨ごと噛み砕き、またビールで流し込む。至福のループだ。
「あら、こっちは……透き通った水? いいえ、お酒ね」
リーシャは、冷えた竹筒に入った日本酒を、お猪口で口に運んだ。
クィッ。
「……んっ、ぁ……」
リーシャの白い頬が、瞬時に薔薇色に染まる。
「す、すごい……。冷たいのに、口の中で華やかに香りが開くわ。フルーティで、甘くて、でも後味は鋭い剣のようにキレがある……。私の知っているエールとは次元が違うわ……」
彼女はうっとりと吐息を漏らし、手酌で次々と杯を重ね始めた。どうやら気に入ったらしい(そして、少しペースが早い)。
村人たちも、初めて見る「ポテトチップス」のパリパリした食感や、「スモークチーズ」の香りに歓声を上げ、宴はカオスな盛り上がりを見せていた。
そんな中。
キャルルだけが、少し寂しそうに耳を垂れていた。
「うぅ……いいなぁ、みんな。私はまだお酒は早いって言われちゃうし……」
種族的な成人年齢には達していないのか、それともラトルたちに止められているのか。
唇を尖らせる彼女に、勇太は優しく微笑みかけ、背後に隠していた「とっておき」を取り出した。
「ほら、キャルル。拗ねないで。君にはこれがあるよ」
差し出されたのは、鮮やかなオレンジ色の液体が入ったグラス。
氷がカラン、と涼しげな音を立てる。
「これは……人参の搾り汁?」
「ただの搾り汁じゃないよ。糖度12度以上の『雪下人参』だけを使った、プレミアムジュースだ」
キャルルはグラスを受け取り、恐る恐る口をつけた。
「……んッ!!?」
長い耳がピン! と跳ね上がる。
「あ、あま~~~いっ!! ええっ!? 砂糖もお蜜も入ってないんですか!? 嘘みたい、果物よりも甘くて濃厚です!」
「美味しい?」
「はいっ! すっごく、すっごく美味しいです! 勇太さん、大好き!」
キャルルは満面の笑みで、オレンジ色の口髭を作りながら勇太に抱きついた。
その笑顔は、どんな高級酒よりも勇太の心を酔わせた。
月明かりの下。
種族も、生まれも違う者たちが、同じ釜の飯を食い、同じ酒を飲み、笑い合う。
勇太は騒ぎから少し離れ、再びハーモニカを口に当てた。
静かなバラードが流れる。
イグニスが太い声で歌い出し、酔ったリーシャが手拍子を打ち、キャルルがそれに合わせて跳ねる。
それは、勇太が異世界に来て初めて手に入れた「平和」と「家族」の光景だった。
【ピンポンパンポーン♪】
【ルナキャロット村・感謝祭が開催されました】
【村人たちの幸福度が最大値に達しました】
【多額のポイント消費を確認……ですが、プライスレスです!】
勇太は夜空を見上げ、深く息を吸った。
明日はいよいよ、旅立ちの日。
この温かい村を出て、広い世界へ。
だが、もう不安はない。最高の仲間と、最強のスキルが共にあるのだから。




