EP 24
奇襲!コボルトの巣穴
コボルトの巣穴を見下ろす岩陰。
勇太たち四人は、獣の腐敗臭と潮騒が混ざり合う空気の中で、突入の最終確認を行っていた。
「よし、やるぞ」
勇太はボードを操作し、購入したアイテムをセットした。
**『50連発爆竹』**の束を三つ、導火線をねじり合わせて一気に点火する。
シュルシュルと火花が走るのを確認し、彼はそれを巣穴の入り口深くへ向かって、全力で投げ込んだ。
数秒の沈黙。
そして――。
バババババババババッッ!!!
狭い洞窟内に、鼓膜をつんざくような破裂音が反響した。
それは雷鳴以上だ。密閉空間での爆発音は逃げ場を失い、さらに強烈な衝撃波となってコボルトたちの鋭敏な聴覚を破壊する。
同時に充満する、鼻を刺す硝煙の匂い。
「ギャンッ!? ギャウウッ!?」
「今だッ!」
混乱の坩堝と化した巣穴へ、四人が飛び込んだ。
「邪魔だァッ!!」
先頭のイグニスが、50kgの丸太を薙ぎ払う。
耳を押さえてうずくまる見張りのコボルト二匹が、ボロ布のように壁まで吹き飛び、ピクリとも動かなくなる。
「すごい……まるで閃光手榴弾ね」
リーシャが感心しながら、杖を振るう。
「サイレント・バインド!」
奥から飛び出そうとした増援の足を、影の蔦が絡め取り、地面に縫い付ける。
「進むぞ! 陽動が効いているうちに最奥へ!」
勇太は薙刀を構え、先陣を切って洞窟の奥へと走った。
通路には、勇太たちの気配に気づいたコボルトが殺到してくるが、連携の前には無力だった。
「キシャァッ!」
「遅い!」
キャルルが壁を蹴り、立体的な機動でコボルトの頭上を飛び越える。
着地と同時に放たれるトンファーの回転撃が、敵の後頭部を的確に粉砕する。
勇太の薙刀は、狭い通路でも縦の斬撃と突きを駆使し、確実に急所を捉えていく。
そして、最奥の広間。
そこに、彼が探し求めていたものがあった。
広間の中央。
薄汚れた毛皮の玉座に座る、通常の倍はある巨体のコボルト・リーダー。
その傍らに、無造作に転がされた赤銅色の大盾と、戦斧。
「あった……! 俺の『魂』が!」
イグニスの目が血走る。
だが、コボルト・リーダーは醜悪な笑みを浮かべ、手下の群れをけしかけてきた。
「グルルァッ! やれッ!」
「イグニスさん! 取り返して!」
「おうッ!!」
勇太とキャルル、リーシャが左右に展開し、雑魚を引きつける。
その間に作られた一本の道を、イグニスは猪突猛進した。
邪魔なコボルトを丸太で弾き飛ばし、ついに彼は愛用の武具の前へと辿り着く。
カラン、と丸太を投げ捨て、震える手でそれを掴んだ。
ドォォンッ!
彼が大盾を地面に叩きつけると、重厚な音が響いた。
そして、身の丈ほどもある巨大な戦斧を、軽々と片手で持ち上げる。
「……ふぅーっ」
イグニスが息を吐く。
その瞬間、彼の全身から燃え盛るような**『赤き闘気』**が噴き出した。
丸太を持っていた時とは、まとっている空気の密度が違う。
そこにいるのは、ただの怪力男ではない。
一騎当千の「竜人族の重戦士」だ。
「待たせたな、相棒。……さあ、掃除の時間だ」
イグニスは獰猛に笑うと、コボルト・リーダーに向かって踏み込んだ。
「グギャッ!?」
リーダーが慌てて剣を構えるが、遅い。
イグニスの戦斧が、風圧だけで周囲の松明を消し飛ばしながら、横一文字に閃いた。
ガゴォォォォンッ!!!
剣ごと、鎧ごと、肉ごと。
コボルト・リーダーの上半身が消し飛んだ。
壁に叩きつけられた肉塊を見て、残った手下たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。
「ふん、口ほどにもねえ」
イグニスが斧についた血糊を振り払った、その時だった。
「――グル、ル……」
上半身を失ったリーダーの手が、最後の痙攣で、玉座の裏にあった奇妙なレバーを引き下ろした。
ガコンッ、という重い音が響く。
「な、なんだ!?」
直後、広場の奥の壁が崩れ落ちた。
そこから現れたのは、悪夢のような巨体だった。
ズシーン……ズシーン……。
全長4メートル。
古い大木の幹をベースにしているが、その表面には、コボルトたちが盗んできたであろう鉄板や鎖、農具などが無数に打ち付けられ、融合している。
苔むした木と、錆びた鉄のハイブリッド。
頭部の空洞には、不気味な緑色の魔石が脈動している。
『ジャンク・トレント(廃材の木巨人)』。
「グルオオオオオオオッ!!」
巨人が咆哮すると、洞窟全体が激しく揺れた。
その威圧感は、先ほどのガルムすら赤子に見えるほどだ。
「おいおい……マジかよ」
イグニスが盾を構え直す。
リーシャが顔を青ざめさせる。
「木と鉄が融合してる……。私の炎魔法じゃ、表面の鉄に阻まれて芯まで燃やせないわ!」
「僕の銃弾も、あの分厚い装甲と再生能力相手じゃ分が悪い……!」
勇太が冷静に分析し、冷や汗を流す。
コボルト・リーダーの最後の置き土産。
それは、武器を取り戻したばかりの最強パーティすら全滅させかねない、森と鉄の怪物だった。
逃げ場のない洞窟の最奥。
勇太たちは、この動く要塞を相手に、生き残るための死闘を強いられることになった。




