EP 12
新たな脅威と信頼の薙刀
ルナキャロット村での生活は、穏やかながらも着実に勇太を変えていた。
午前は治療院で薬草を調合し、午後は自警団の教官として汗を流す。
かつて「迷い人」だった彼は、今や村人から「ユウタ先生」「ユウタ殿」と呼ばれ、なくてはならない存在になっていた。善行ポイントも95Pまで貯まり、あと少しで大台に乗る。
そんな平和な昼下がりが、一人の悲鳴で切り裂かれた。
「――っ、大変です! ラトル団長! ユウタさん!」
広場に飛び込んできたのは、早朝から周辺警戒に出ていたキャルルだった。
彼女の美しい白毛は泥と葉っぱで汚れ、肩で荒く息をしている。ただ事ではない。
「どうしたキャルル! 落ち着いて報告しろ!」
ラトルが駆け寄り、勇太も作業の手を止めて走る。
「西の湿地帯……川の上流付近に、リザードマンの部隊が! 数は6! 全員が鉄製の武器と鎧で武装しています!」
「なんだと……ッ!?」
ラトルの顔色が一瞬で蒼白になった。
周囲の村人たちからも、「嘘だろ……」「リザードマンなんて……」と絶望的な囁きが漏れる。
ゴブリンとは訳が違う。奴らは強靭な鱗を持つだけでなく、高い知能と連携力を持つ「竜の兵士」だ。それが武装しているということは、野良ではなく、組織化された傭兵か盗賊団。
農具と革鎧だけの兎人が正面から戦えば、虐殺になる。
「総員、第一種戦闘配置! 女子供を集会場へ避難させろ! バリケードを閉めろ!」
ラトルの怒号が飛び、村は一瞬にして戦場の空気に包まれた。
勇太も拳を握りしめる。
(僕の槍で、奴らの鱗が貫けるか……?)
不安がよぎった、その時だった。
「おい、どけ! 道を空けろ!」
人垣を割り、煤だらけの男が現れた。鍛冶師ウルジだ。
彼は異様な殺気を放つ「長い包み」を担いでいた。
「ユウタ! 出来たぞ、例のブツだ」
ウルジはぶっきらぼうに言うと、その包みを勇太へ放り投げた。
ズシリ、とした重み。だが、不快な重さではない。
勇太が油紙の包みを解く。
露わになったその姿に、広場の喧騒が一瞬止まった。
「……きれいだ」
柄は、鉄のように硬く黒い「アイアンウッド」の古木を削り出したもの。滑り止めの溝が彫られ、手に吸い付くように馴染む。
そして、穂先。
ウルジが数種類の鉱石を合わせて鍛えたという刃は、濡れたような蒼色を帯びていた。
勇太が求めた通りの、優美な曲線を描く「反り」。
それは武器でありながら、月光を閉じ込めた芸術品のように美しかった。
勇太は無言で構えを取り、空気を斬った。
ヒュンッ!!
空気が悲鳴を上げるような、鋭利な風切り音。
重心のバランス、柄のしなり、刃の抜け。すべてが完璧だった。
これは、日本の薙刀ではない。この異世界の素材と、名工の魂が融合した、勇太のためだけの一振り。
「ウルジさん……。すごいです。魂が震えるようだ」
「ふん。一週間、寝ずに打ったんだ。なまくらな使い方は許さねえぞ」
ウルジは腕組みをして鼻を鳴らしたが、その目には職人の自負が宿っていた。
最強の武器を手にし、勇太の腹は決まった。
「ラトルさん。僕が偵察に行きます」
勇太の声は静かだが、よく通った。
「敵の目的が略奪なのか、ただの通過なのか。装備の質は。それを知らずに籠城するのは危険です」
「だが、相手はリザードマンだぞ! 殺されるぞ!」
「だからこそです。僕には『観察眼(医学知識)』があります。それに……」
勇太は蒼き刃を煌めかせた。
「この最高の相棒がありますから」
「……!」
ラトルが言葉を詰まらせる。
そこへ、キャルルが一歩進み出た。
「私も行きます! 最初に見たのは私ですし、あの森なら目をつぶっても歩けます。鼻も耳も利きます。……ユウタさんの背中は、私が守ります!」
「キャルル……」
ラトルは二人の目を見た。
恐怖に飲まれていない。守るべきもののために、死地へ踏み込む覚悟を決めた戦士の目だ。
ラトルは大きく息を吐き、頷いた。
「……分かった。許可する。だが、絶対に無理はするな。奴らがこっちに来ると分かったら、交戦せずに戻ってこい。いいな!」
「「はい!」」
その瞬間。
【ピンポンパンポーン♪】
【勇気ある決断により、善行ポイントが 5 P 加算されました】
【現在所持ポイント: 100 P】
【ランクアップ! 商品ラインナップが更新されました】
(100ポイント……!)
ついに大台に乗った。しかも、ラインナップ更新?
だが、確認している時間はない。今は一刻を争う。
「行ってきます!」
勇太は背中に蒼き薙刀を背負い、キャルルと共に村の門を飛び出した。
新たな脅威と、新たな力。
そして未知なる「100ポイントの特典」を胸に、二人は湿地帯へと疾走した。




