大人も子どもいない国
大人も子どもいない国
「はぁ!?」
キャラバンの隊長が叫んでいました。それに対し入国審査官は淡々と告げます。
「再度申し上げます。我が国であなたたちが売ろうとしている本はもう売ることはできません。本をここで廃棄して頂けるなら入国を許可しますがどう致しますか」
「売れないとはいったいどういうことなんだ」
「はい、我が国では、最近、一切の違法行為、犯罪意欲を掻き立てられる描写の本の執筆、所持を禁止としました。最悪の場合は極刑が課されます。違法になったのです。」
「はぁ・・・?もう少し詳しく教えろ。意味が分からん」
待ってましたとばかりに背筋を伸ばして審査官は言います。
「もちろんです。まず、あなたたちの国で殺人や詐欺は犯罪ですよね?」
「まあ、犯罪じゃない国の方が珍しいわな」
審査官は続けます。
「はい、我が国では殺人や詐欺、窃盗、強盗、強姦、猥褻行為、騒音などの条例違反に至るまで、あらゆる犯罪行為が描写されている本の存在を禁止しました。なぜなら犯罪行為を助長するなどの悪影響があるからです」
「・・・は?」
審査官はさらに続けます。
「例えばそうですね。白の組織に毒を飲まされて幼稚園児に戻った困難君が殺人事件や爆破事件を中心にあらゆる事件を解決していく迷探偵困難。ほとんどのお話で殺人事件が起こりますよね。これは現実では殺人罪として裁かれる事案です。ですから我が国では禁書になっております。確かに困難君の『真実は無限にある』という言葉に私含めた多くの人々が痺れたのは事実です。そうですよね、真実なんて所詮主観に過ぎないんですから」
「・・・・・」
隊長は声も出ません。
「それじゃあ、あれはどうなんだ、帰還者トウマウス。帰還者トウマウスを主人公として、帰還者と人間の友情を描く物語」
「はぁ・・・なんていうことを言うんですか。あれは奴隷制度を賛辞している作品ですよ。帰還者を馬車馬のように使役して働かせる、しかも、帰還者は帰還者庫に集められて集団生活を送っているんですよ。どこからどう見ても虐待ですよ。仲良くしているように見えますけどね、どうせあれは、そうして従順の意を示さないと消されるんです」
隊長も負けじとさらに作品をあげます。
「・・・・じゃあれはどうなんだ!全沢直樹!やられたら倍の施しを与える、銀行マンの全沢を主人公にした作品、何も問題はないだろう!」
審査官は首を振ります。
「皆の勤労態度があのような人たちのようになったらどうするんですか。社会は大混乱ですよ。公共の福祉に反します」
隊長は声を荒げます
「なんだったら大丈夫なんだ!一体この国の国民はなんだったら読むことを許されるんだ!」
「落ち着いてください、もちろん私たちの国では合法の作品も存在します、日常生活や男女の節度のあるお付き合いを描いた作品はもちろん合法です。しかし性行為の描写は認められません、性欲を掻き立てられた人が強姦事件を起こす可能性があります」
「おかしい!俺の国ではフィクションと現実の区別をつけられず罪を犯すやつなんてほとんどいない!統計によって科学的に証明されている!」
「ほとんどということは、極わずかの人は区別がつけられなく、犯罪に走っているということですね。あなたはその犯罪者が被害者から奪った笑顔や人生はどう考えるおつもりですか、誰かが返してあげることはできるんですか、偉そうに言っているあなたは責任が取れるんですか」
隊長は言葉が出ません
「・・・・・・っ」
「ちなみにあなたは大人と子供の違いについてどうお考えですか」
「・・・それは、あれだろ、」
我が国では18歳からが大人である、隊長はそう言います。
「・・・あなたたちは分かっていない、ほんとうの大人になれた子どもは極めて少数なのです。」
審査官は続けます。
「私たちは子どもの世界、公正世界に捕らわれているのです」
審査官は質問を投げかけます。
「あなたは今までの人生で例えば、こう考えたことがありませんか?試験に落ちたのは勉強が足りないから、病気にかかるのはその人の自己管理が悪いから、貧乏なのはその人が努力をしてこなかったから。」
何を今さらといように隊長が答えます。
「そらあ、勿論。自分の管理ができない奴なんて底辺がお似合いだろうよ」
「そうですね、確かに行動をしないと何も始まらない。私たちは将来の目標に向けて生活を営んでいるのも事実です。ある程度同意しましょう・・・しかし」
審査官はさらに質問を投げかけます。
「では、あなたの理論だと醜悪な見た目の子がいじめられたり、性格的に周りと馴染めない子がいじめられるのは仕方ないことですよね」
隊長は少しうろたえます。
「いや・・・それは違うだろう」
審査官がすかさず返します
「じゃあこの子たちは悪いことをしていないのに、何故人々が彼らをいじめるのでしょうか」
隊長に苦々しく答えます。
「・・・何か他の要因もあるんじゃないのか」
審査官が言います。
「いいえ、ありません。この子たちは何も悪くないのです。しかし、いじめの標的となることが多々あります」
審査官は続けます。
「このように、私たちの思考はジ○ンプ漫画に毒されています。ジ○ンプ世界は非常に公正な世界です。正義であり、努力によって堅実に強くなる勇者、努力もなしに利益を搾取する非公正的存在、悪であり魔王。これが全てです」
隊長が反論します。
「じゃあ師匠とか神様とかも非公正的存在じゃないか!あいつらはチートだろ!」
審査官は落ち着いて返します。
「だから、彼は物語に大きく介入しないでしょう?封印されていたり、主人公の師匠ポジなどとしての役割以上のことは果たさないじゃないですか」
「・・・・・・」
「つまり公正世界ではリスクとリターンが同等なのです。」
審査官は続けます
「しかし、現実を見てくだい。お金持ちと同じぐらい努力しているのに私たちは貧しいでしょう?死ぬほど努力をしているように見えるお金持ちを見て称賛する一方、地主や投資家などの金持ちを見て成金だとか非難する始末。現実で成功した人たちというのは、リスク以上にリターンを得ることができる人たちなのですよ」
審査官は続けます。
「ジ○ンプ漫画でこういう人たちは、利益を低リスクで享受する非公正的存在、つまり魔王と表現します。」
隊長は返事をすることができません。
「・・・・・・」
「多くの人々が現実を公正世界だと勘違いしてるいのが現状です。しかし、子どものうちには効果的なのです。努力すれば報われるという言葉を盲信した方が生きるための訓練が捗りますからね」
審査官は続けます。
「しかし、行き過ぎることが大変多い。先ほど言ったように、いじめられる存在はいじめられるだけの理由があるから、といったふうにです。いじめという非公正的行為を受け入れられず、醜い公正的行為に変えてします」
審査官がさらに言います。
「大人になるということは、この世界は理不尽であると受け入れることなのです。我が国では子どもがあまりの多い。そこで法律によって大人と子どもの区別をなくし、全ての非公正的行為を合理化する作品を禁止としました。人々にこの世界は公正であると信じ込ませることにしたのです。おかげで皆自分の行為が直接、結果に結び付くと考え活力的になりました。私たちの国民はジ○ンプ漫画の世界で生きているのです」
最後に審査官が聞きました。
「あなたは大人になれていますか?なれていなくても構いません、私たちの国はそれを歓迎しましょう」
隊長は黙って荷物をまとめ、もと来た道に進みました。
隊長はつぶやきます。
「公正や完璧ほど気持ち悪いものはないってのが良く分かった」
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