8 賞金稼ぎ
「賞金首の様子は?」
ゲルモニークに連絡する。
「少し待て。」
場末のスナックを遠目に見ながら待つ。
「昨日の夜からまだ店を出た様子はないな。」
こんな路地裏のどこに監視カメラがあるのだろう。ゲルモニークは監視カメラがあれば世界中どこでも覗けると豪語する情報屋だ。
「いつも思うんだけどさ、俺のことは覗かないでよ。」
「無理だな。お前は私の娯楽だ。ずっと監視してるぞ♪」
「俺のプライバシーはどこに行った。」
「ははは。家の中にカメラが無ければさすがの私も見れない。まぁいくつかお前が頑張って腰をカクカクさせてる映像を持ってるが私の娯楽専用だ。安心しろ♪」
「はい!アウトォォ!すぐに消去しなさい!」
「今迄の請求額を送った。見てくれ♪」
く……こんなの払えるか!
「外部に漏らさないでくれよ……。」
「ははは。安心しろ♪。おっと、仕事に戻る。」
情報端末の通知音がなる。確認すると俺の卑猥な映像が送られてきた。あんのやろぉぉ……。保存しとこ……。
しばらくすると賞金首が出て来た。俺は召喚魔法を行使し精霊を召喚する。
「……なによぉぉ。寝てたのにぃぃ。」
木の精霊のドール。手のひらサイズで緑色の可愛い精霊だ。
「ちょっとあの男監視してよ。寝てていいからさ。」
「……いやぁぁ……。」
俺はポケットから飴を取り出す。
「これなぁんだ?」
「……監視するわ。」
素直でよろしい。ドールは嬉しそうに飴を受け取るとフワフワ飛んで賞金首の頭の上に乗った。ちなみに精霊は精霊魔法を使える人間にしか見えない。ドールは俺と契約しているから魔力が繋がっている。かなり広範囲で魔力感知できるのでいつも発信機のように使っている。
ゲルモニークによると賞金首は地下ダンジョンとスナックを往復しているようだ。
しばらく時間をおいて地下ダンジョンに移動する。入口広場の露天でコーヒーを飲みながら魔力感知を行う。ダンジョンは魔力波が遮断されているが精霊魔力は感知出来ている。魔力感知をしながら情報端末で賞金首関連のニュースを見る。いくつかある中に知人の記事を見つける。それを読むと、男女が裸で接合し両方とも心臓を刺されて即死。男女の痴情のもつれが原因か……ふむ。寝取られですかね。15時になった。駅前の駐車場に行き魔導車輌に乗って、アルマを迎えに行くことにする。
「アルマ。」
おじさんが魔導車輌に背中を乗せ手を挙げて私を呼ぶ。おじさんの魔導車輌は戦闘車輌ではなく高級SUVタイプだった。恋人がコレで迎えに来たら嬉しいだろう。帰宅時間帯で学生も多い。よく目立ってカッコいい。明日友達に聞かれたらお父さんと恋人のどっちで報告しよう。私はゆっくり近づきおじさんの背中に手を回し抱きつく。
「おじさん。迎えに来てくれてありがとう。」
周りの学生も好奇の視線でこちらを見ている。
「何故抱きつく。」
おじさんはオロオロしながら困惑している。可愛い。
「おじさんとのスキンシップだよ。」
こっそりとおじさんの匂いを吸い込む。良い匂い……。
おじさんは私からカバンを取り上げると後部座席に置く。そして助手席のドアを開け乗れと腕を引く。私は剣を鞘ごと外すと助手席に座り足の間に挟み置く。おじさんは私の着座を確認してドアをそっと閉める。紳士だな。おじさんが運転席に座ると、行くよと小声で言い車を発進させる。しばらく車を走らせるがおじさんは何も言わない。昨日の夜家まで送ってもらった時のおかしな空気感だ。おかしな空気にしたのは私だから私から話しかけることにする。
「賞金首はどこにいるの?」
仕事の話しだ。無視はしないだろう。
「地下ダンジョンだ。」
「ああ。犯罪者が逃げ込みそうなところだね。」
「入ったことはあるの?」
「あるよ。協商連合の方だけどね。」
「そうか。協商連合で活動してたんだよね。」
「うん。おじさんは?」
「依頼でよく入るよ。何回層まで潜った?」
「8階層まで潜ったよ。」
「え。ソロで?」
しまった。私レベルだと潜っても良くて3階層だろう。
「お母さんと潜った。」
お母さんごめんなさい。嘘をつきました。
「やっぱアルマのお母さん凄いね。」
お母さんなら20階層くらいいっちゃいそうだけど。嘘がばれる前に切り返そう。
「おじさんは?」
「30階層だな。」
「凄い!ソロで?」
「いや、チームで。」
「おじさんもチーム組むんだ。」
「まぁ依頼者が冒険者だったからな。ソロ3人で組んでダンジョンに潜ったよ。」
おじさんもチームを組むのか。冒険者が依頼を出す。盲点だ。今後も私と組むことが出来そうだ。
「30階層ってどんな感じだったの?」
「魔力濃度が高くて進めない。辺境の魔の森みたいな感じだったな。」
「学校で習ったけど本当だったんだ。」
「30階層以降は魔法も含めて何かしらの革新が起きないと無理だろうな。」
学校の教科書にも書いてある人類の夢。
駅前の駐車場に車を停めて地下ダンジョンに向かう。おじさんが魔力を展開している。
「おじさん。何してるの?」
「ああ。魔力感知。賞金首に魔法の発信機をつけたんだ。」
おじさんは何を言っているのだろうか。
「おじさん。発信機つける暇があったら捕まえれたんじゃないの?」
「そうだな。捕まえれたな。」
「おじさん。私の為に手間をかけたの?」
その気持ちは嬉しい。
「ランクアップ試験だからな。」
その理由は許せない。
「おじさん。賞金首って殺人を犯した犯罪者なんだよ?犯人が次の殺人を犯したら?おじさん責任とれるの?」
怒りが湧いてくる。
「俺は冒険者だ。警察官みたいな正義の味方じゃない。仕事であれば隠れて法も犯すし人も殺す。」
そんなこと分かってる。でもそれは大人の理屈だ。
「でも。でも!」
私には言い返す言葉が出ない。怒りがおさまらず涙が出てくる。
「すまない。君を傷つけたいわけじゃないんだ。」
謝らせたいわけじゃないのに……。
「私が子供だって言うんでしょ!」
大人になりたくない……。
「君は正しい。俺が間違えていた。もし次があるなら君が思う行動の取れるようにするよ。」
大人のおじさんは優しい……。好き……。
「おじさん。ごめんなさい。」
また、おじさんに謝らせてしまった。おじさんが私を抱きしめてくれる。嬉しい……。好き……。大好き……。でも私は泣くことしか出来ない……。
「正しいことを正しいと言える君を誇りに思うよ。」
正しいことを正しいと言われると大人にはキツイ。正義感の強いキミが眩しい。しばらく抱きしめていると落ち着いて来たようだ。時間帯的に人通りも多いので恥ずかしいし未成年の美少女を泣かせているから通報もありえる。
「おじさん。ごめんなさい。もう泣かない。」
俺はほっとしてアルマから体を離す。
「俺もごめんなさい。両成敗で良いよね?」
俺は手を差し出す。
「うん。」
彼女も手を出し握手するとお互いに笑い合う。魔力感知を再開する。
「賞金首を成敗しに行くぞ。」
俺が言うと
「オオオォォ!」
彼女はこぶしを突き上げる。
時間は17時を過ぎた。地下ダンジョンの入口で冒険者達とすれ違う。
「地下ダンジョンの入口周辺って協商連合側て似てる。」
「まぁ、地下で繋がってるからな。作られた時期も一緒って言われているしね。」
「そうじゃなくて、露天とか雑踏とかの雰囲気のこと。」
彼女がクスクスと笑う。
「中にはいるぞ。」
彼女がコクと頷く。中に入り情報端末を取り出しマップを表示する。魔力感知を行い賞金首の位置を確認してマップに印をつける。スクリーンショットを撮りアルマの端末に送信する。
「アルマ。さっきはああ言ったけど俺は試験官だ。アルマが前衛で先行しろ。」
アルマは情報端末でマップを確認して、
「わかった。」
不満気な表情で了承してくれた。
「俺達はチームだ。サポートて援護は任せろ。」
「うん。信用してる。……おじさん。魔法探知ってズルいわ。私にも教えて。」
「アルマが少し大人に近づいたお祝いに今度教えてあげるよ。」
彼女は複雑そうな表情をしている。階段に着くと俺は、
「賞金首は動いていない。魔獣にもきをつけろ。」
「わかった。行くわ。」
アルマが階段を降りて先行する。ダンジョンを進み目的地付近に到着する。十字路を曲がったその先の部屋にいるようだ。アルマが止まり様子を伺う。俺に振り向き頷くと十字路を曲がり音を立てないよう慎重に部屋の前に行く。俺も魔導銃を取り出し援護の準備をする。アルマが部屋を確認して俺を手招きで呼ぶ。俺が近づくと彼女が俺の耳元で、
「寝てるかも。」
俺は驚き部屋を確認する。寝てるっぽいな。
「氷の魔法で手足を拘束するね。」
俺は頷く。
「アイスバインド」
賞金首の拘束が終わる。賞金首が気付きこちらを向く。
「賞金稼ぎか。殺してくれ。」
賞金首が言う。アルマが、
「何言ってるの?あなたは生きて罪を償うのよ。」
「俺は愛する人をこの手で殺したんだ。殺してくれ。」
「イヤよ。殺したら嫌な気分になっちうわ。そもそも武器持ってるし、火魔法使えるんだから自分で死になさいよ。自殺したいならダンジョンの奥に行けばいいじゃない。それをしないのは死ぬのが怖いか死にたくないのよ。せっかく捕まえたんだからちゃんと賞金になってよね。」
賞金首がうなだれる。俺はアルマに賞金首の装備の解除と持ち物チェックをするように指示する。アルマが装備を解除して行き、体を触り持ち物を確認する。
「終わったわ。」
少し意地悪をしよう。
「ダメだな。服の中に隠してるかもしれないから全裸にするんだ。」
アルマと賞金首が絶句する。
「……本当に?」
アルマが顔を真っ赤にしている。
「本当だ。」
俺は真顔で言う。アルマは意を決して賞金首の服をつかもうとした時、
「待ってくれ!普通はそこまでしない!」
賞金首が言う。アルマが目を吊り上げて俺を睨む。
「おじさん!」
「軽い冗談じゃないか。賞金首も美少女に服を脱がされるなんてご褒美だろ。」
アルマと賞金首が俺を見てふたたび絶句する。
「おじさんの変態!」
その通り。俺は変態なんだ。言われたところでどうと言うこともない。アルマがプンスカ怒っているのを見ながら賞金首に言う。
「殺してやろうか?」
俺は賞金首の剣を取り刃を向ける。
「彼女に生きて償えと言われたけど、俺は2人を殺したことに後悔がないんだ。殺されても仕方ないと思う。でも彼女の言う通り死ぬ覚悟はない。俺はどうしたらいい?わからない……。」
賞金首が言う。が、俺には関係ない。
「俺もアルマも人殺しをしたいわけじゃない。わからないなら司法に裁いてもらえ。」
賞金首を立たせて、引きずられるのと歩くのどちらが良いか聞く。歩くと言うので足の拘束を取りアルマに連行させる。地下ダンジョンを出るとアルマに指示して警察に通報させる。しばらく待つと警察が来て賞金首を連行して行く。俺達も駐車場に行き車を発進させて警察署に行く。
「おじさん。なんか呆気なかったね。もっとこう剣と魔法を撃ち合うようなの想像してたよ。」
「まぁ俺も想像してたわ。」
2人で笑い合う。
「おじさん。愛する人を殺して後悔してないって理解できる?」
多分俺には理解出来ない。が、俺はズルい大人だ。
「詳しい事情を聞かないと答えられないな。」
「まただ。ズルい大人の答え。」
見透かされてたか。
……そう。俺はズルい大人だ……。