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7 賞金首


「あんた、飲み過ぎよ。」

 女に言われて、女にグラスを取られる。女の持つ空のグラスをボォッと眺めながら、あの日のことを思い出す。


「ああん……。いい。気持ちいい…………。」

 ドアの向こうから女の嬌声が聞こえる。ボソボソと何を言っているのかわからないが男の声も聞こえる。俺達3人は冒険者ギルドの依頼で数日この街に滞在していた。

 

 俺達2人は同い年でアイツは年上、3人は幼馴染で龍皇国の辺境で生まれ、子供の頃から冒険者活動をしていた。彼女とは幼子の頃から一緒にいて14歳の時に男女の中になった。18歳の時に4歳年上のアイツが故郷のこの街に帰って来た。アイツは俺達が12歳の時にSランク冒険者になるんだと言って皇都に旅立った。俺達2人はまだ幼く不安もあったのでついて行く気にはなれなかった。俺達2人は順調に冒険者活動をしCランク冒険者になった。辺境で魔獣討伐依頼が多くレイドに参加し先輩冒険者に恵まれたのが良かったのだろう。その頃にアイツはパーティーが解散したからとこの街に戻ってきた。Sランク冒険者になると輝いていたアイツに当時の面影はなく皇都で生活していたからか垢抜けた感じではあるが胡散臭さを感じた。それからまた一緒に活動したいと言ってきて幼馴染でもあったので3人で活動するようになった。アイツは剣も魔法も俺達2人より劣っていた。剣と魔法の訓練も積極的にはしていないようだ。それからの俺達3人はなかなかランクアップ出来ずにいた。別れて6年、魔獣の討伐依頼でアイツは俺達2人の足を引っ張っていた。が、賞金首の追跡や情報収集は上手い。何より口が上手かった。3人になってからは冒険者活動が上手くいっていなかった。俺は彼女に不満をもらすが彼女はこれから良くなるとアイツを庇い冒険者活動を続けていた。

 商人の護衛依頼でこの街に滞在することになった。商人に取り引きの護衛として1人ついて来て欲しいと言われて俺が行くことになった。取り引きはすぐに終わり宿に戻ると部屋の中から女の嬌声が聞こえる。宿のこの2人部屋に宿泊しているのは俺と恋人だ。ボソボソと何を言っているのかわからないが男の声が聞こえる。俺以外の男が俺と彼女の部屋にいると思うと心配になり鍵を開け部屋に入る。俺の視界に入ったのはベッドの上で男女が重なっている姿だ。

「見つかっちまったなぁ。」

 アイツが彼女を見せつけながら言う。

「これは……違うの…………。」

 彼女は身体を貫かれたまま俺に言う。

「いつからだ?」

 俺がきくと、

「俺が故郷に戻ってからだ。」

 アイツが挑発的に言い腰を動かすと彼女が喘ぐ。

「気持ち良さそうだろ?ずっとお前の代わりに抱いてたのさ。」

 アイツが俺に見せつけるように行為をやめない。俺は頭に血が昇るのがわかる。剣を引き抜きアイツの心臓に突き刺す。アイツの体を押し剣を引き抜くと彼女の身体が血で染まる。俺は悲鳴をあげない彼女に聞く。

「お前、俺に何か言うことはないのか?」

 彼女は身体をピクピク痙攣させているが何も言わない。怖いのか。まさか感じているのか。

「お前は身体中血塗れで獣の死体に貫かれ、涎を垂らし、だらしない顔をしいてるぞ。」

 俺が言うと彼女はまたピクピクと身体を痙攣させ喘ぐ。何も言わない彼女に俺は冷静になって言う。

「人の言葉もわからないなんてまさに獣物、いや俺を傷つけた魔獣だな。魔獣は危険だから討伐しないとな。」

 俺は彼女が喋る前に剣を心臓に突き刺した。


 俺は冷静になって考える。あの2人を殺したことに後悔はないが犯罪者になってしまった。自主するか逃げるかの選択をしなければならない。2人も殺した。刑期は長く死刑もあるかもしれない。逃げよう。冒険者を辞めて都会の雑踏に紛れてひっそりと暮らそう。

 俺は荷物をまとめる。殺した2人の荷物から装備と金目のものを持ち出し宿の店主に2人が体調を崩していると伝えて3日分の宿代を払い宿を出る。雑貨屋で2人の装備等を売却し換金したら、依頼人の商人の元に行き2人の体調が悪く護衛出来ないことを伝える。商人に頭を下げて冒険者ギルドに行き依頼失敗の報告をする。ギルドに預けている金を全額下ろして皇都を目指す。魔導列車に乗って皇都に着くと宿を取る。

 シャワーを浴びてベッドに転がり彼女を想う。昔の思い出を一つづつ思い返し心が落ち着く。が、アイツに再会した頃の記憶あたりから心が荒んでいく。彼女の血を吐く最後の表情を思い出し冷静になると電話を取り出し情報屋に身分証の偽造屋を紹介してもらう。

 翌日、情報サイトでニュースや賞金首の情報を見て自分の名前がないのを見てホッとする。偽造屋の元に行くと人通りの多い道路沿いに立派な看板を掲げている店を見て騙されたのかと不安になるが、店に入り名前を告げると奥に案内される。護衛のいるドアの中に入ると教会の懺悔室のようになっている。イスに座ると偽造の要望を聞かれる。出生、名前、職業の全部を変えて他人になりたいと伝えると金額を提示される。全財産だがソレで良いと伝えると出生は皇都で職業は商人と決まった。新しい名前と身分証を手に入れると偽造屋に皇国を出ることを進められる。他国に行くと文化や法律の違いで住みにくいが、中立王国ならば皇国経済特区があり法律は同じで文化も似ているし最悪、治安は悪いが地下ダンジョンエリアに逃げ込めるらしい。何故親切に面倒見てくれるのか聞くと、偽造に加担していて不安だから遠くに行って二度と来ないで欲しいと言われた。俺が間抜けそうだと餞別に携帯電話をもらい古い電話は捨てろと忠告される。偽造屋を出ると魔導列車に乗り中立王国に向かう。

 中立王国に到着して駅を出るとびびった。皇都もびびったがそれ以上だ。何がと言えば見渡す限り建築物が高い。高層ビルの景観に俺は田舎者丸出しで上を見てキョロキョロしてしまった。人に見られて恥ずかしくなったので事前に予約していたホテルに向かう。部屋に入るとこれからのことを考える。明日からの自分の未来を考える。いつまでもホテル暮らしは出来ない。明日は地下ダンジョンを確認しに行こう。俺は明日の行動を決めると考えることを放棄しシャワーを浴びてベッドに体を休めた。

 翌日、ホテルを出て駅に向かう途中散髪屋があったので髪を短くした。散髪中にラジオ放送を聞いていると俺が賞金首になっているニュースが流れた。心音が跳ね上がるが俺は別人になっていると自身に言い聞かせ心を落ち着ける。散髪を終えて魔導列車に飛び乗ると情報サイトを確認する。元俺は賞金首になってしまったようだ。記事を見るが俺が2人を殺して逃亡中という内容しか書かれていない。動機なども記事になるのだろうかと考えてしまう。

 駅に着き地下ダンジョンエリアを目指す。入口を目指し歩いていると周りには冒険者と商人、商売女に浮浪者まで、治安の悪さを感じさせる人種が多いようだ。入口に着くと情報を売る犬獣人がいるので話し掛ける。小銭を渡し話しを聞くとダンジョンに入った入口付近は浮浪者の寝床で少し奥は犯罪者や犯罪組織もあるらしい。さらに奥は魔獣もいて危険でダンジョンの広さは中立王国と同じくらいあるのではとのこと。俺は礼を言ってダンジョンに入る。不思議なことに地下で明かりはないのに見える程度の明るさがある。情報端末でマッピングしながら奥に進むと冒険者とすれ違う。すれ違いざまにこの奥の階段を降りるとモンスターがいると忠告される。ありがとうと会釈して階段を目指す。階段まで来て時間を見るとまだ昼前なので階段を降りてみる。階段を降りても上の階と同じように見える程度の明るさがある。少し歩いていると剣戟の音が聞こえる。気づかれないように近づき通路の影から覗き見ると、冒険者が魔獣と戦闘している。あの魔獣は初級魔獣で子供の頃から狩っている魔獣だ。今日はここまでにして入口に引き返す。ソロで魔獣を狩って魔石を売って小銭を稼げるなと考える。ダンジョンを出て腹を満たすのに飯屋に入る。注文し待つ間に宿を検索していると、店の店員女が声をかけてくる。

「よそ者だねぇ。宿を探してるんならウチにおいで。」

 あてもないので、ありがとうと伝えて食事を取る。店員女に少し待てと言われ待っていると店員女がエプロンを外してついて来いと言う。ついて歩き路地の裏に入るとスナックの入口前で止まる。

「ここ私の店なんだよ。2階は寝床があるの。」

 店に入ると女は俺の腰に腕を巻く。

「よそ者だけどイイ男だね。抱いてくれるなら泊まってもいいけど、どうする?」

 年満だが故郷の風俗嬢よりはいいかと思い了承する。女は我慢出来ないのか俺のベルトを外しズボンを下げると下半身を咥え込む。2階に上がりベッドに女を転がす。殺した彼女を想う。初めての行為は初めて人を殺した日だった。彼女とただただ怖くて2人で泣きながら抱き合っていたらいつの間にか身体が1つなっていて気がついたら2人で笑って快楽を貪った。

 女に重なりながら精感が高まってくるがまだ足りない。彼女に剣を突き刺し血を吐き涙を流した瞳を思い浮かべた時、精感が最高潮に達した。

 行為が終わると女は1階に降り俺を呼ぶ。俺がカウンターに座ると女はグラスに酒を入れ俺に勧める。

「今日は貸し切りだよ。夜も楽しませておくれ。」

 女が言うので俺は頷く。

 明日は商業ギルドに行ってみよう……。


 翌朝、魔導列車に乗り都心に向かう。情報端末でニュースを検索するが昨日以上の情報はない。駅を出て商業ギルドに入ろうとしたら声をかけられる。

「見ーつけたぁ♪」

「誰だ!」

 条件反射で聞いてしまった。

「賞金稼ぎだぞ♪」

 男がニヤニヤしながら言うと俺はビルの間を走って逃げる。逃げる途中に追跡者が2人になったので人混みの中、魔法まで使って何とか逃げることができた。魔導列車に乗り地下ダンジョンに行く。露天で食べ物を買いダンジョンに入る。奥に進み昨日戦闘のあった辺りの片隅で腰を下ろす。もう賞金稼ぎが追ってきた。早すぎる。情報を売られたのか?考えてもわからない。情報端末を開こうとするが魔力波が遮断されているのだろう。食事をしながら今後を考えるが何も思い浮かばない。夕方になったらここを出てあの女の身体で心を落ち着けよう。


 女の店に戻りしばらくいてもいいかと聞くと了承してくれた。体で対価を払えばいいと。夜ニュースを見ると映像に俺の顔が映っている。女に気づかれないようチャンネルを変える。次の日も地下ダンジョンに入り1日を過ごし夜に女の店に戻る。翌日も同じようにダンジョンに入り女の店に戻る。酒を飲みながら考えていると女に言われる。

「あんた、飲み過ぎよ。」

  女に言われて、女にグラスを取られる。女の持つ空のグラスをボォッと眺めながら、あの日のことを思い出す。思い出しても新しいことは何も浮かばない。


 ……俺はどうしたいのだろう……

 

 

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