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4 フレイ


「フレイ。連絡が遅くなった。」

 彼の声を聞いて心臓の鼓動が早くなる。

 

 私は今まで、私から彼に電話したことがない。本当は毎日連絡したいし、毎日会いたい。チャットだって1度連絡したら、どんなに連絡したくても1週間は間を開けるようにしている。めんどくさい女だと嫌われたくなかった。でも今日はどうしても、どうしても声が聞きたかった。

 彼は優しい男だ。昨日まで私の前で女の影を感じさせる事はなかった。疑えば副長や隣の猫獣人受付嬢にAランク冒険者の彼女、この3人は怪しい。でも昨日一緒に食器を洗っている時に、彼が私との夜の営みでしか見せたことのない表情をアルマという美少女の話しをした時に見せたのだ。あの3人の話しをした時には見せなかった表情を。私はアルマに激しい嫉妬をした。その場で泣いてしまいそうになった。こんな感情は初めてだ。彼に嫌われたくなくて強がって見せるのが精一杯だった。その日の夜は彼の愛情を受け入れ、彼も私もいつもなら満足しているその後に私は、はしたなく淫らに彼を誘い愛情を貪った。翌朝は王家のパーティーでしかしないようなバッチリメイクをして、髪をセットし一緒にマンションを出て、この男は私のものだと見せつけるように彼の腕に巻きつき、ゆっくりとギルドに出勤した。ギルドに着くと職員全員に彼と私の距離を見せつけ、ギルド長に昨日のアルマの失態を報告し、アルマに私を見せつける為に事情聴取という名目で刑事を強引に彼女の通う大学院に連れて行った。大学院でアルマに私とシドの関係を匂わせギルドに来るように誘導する。夕方アルマに私と彼の距離を見せつける。案の定アルマは彼に好意以上の感情を見せる。彼とアルマが一緒にギルドを出て行く。彼がギルドを出る直前、私は大きな声で彼の名を呼び手を振る。彼の背中が見えなくなった瞬間、更衣室に駆け込み声を殺して泣いてしまった。こんなに泣いたことはない。吐き気がして嘔吐しそうだ。今この瞬間に彼とアルマが一緒にいると認識すると、激しい嫉妬で全身が震える。胸が苦しく心臓が張り裂けそうだ。嫉妬というこの感情で自分が狂ってしまいそうだ。落ち着いてくるとまた涙が溢れて流れて行く。私の中にこれほど涙があることを知らなかった。泣いている所を数人の職員に見られてしまったがどうでも良かった。帰って彼に連絡して声を聞こう。声を聞けば安心できると自分に言い聞かせ私は足早に帰宅した。帰宅してすぐ寝室のベッドに転がり彼の残り香を全身で感じる。昨夜の営みを思い出し少し心が落ち着いてきた。時計を見るともうすぐ22時だ。電話をかばんから取り出し画面を開く。彼の番号をタップしようとしては画面を閉じる。何度も同じことを繰り返していると時計が22時を越えてしまっている。電話する勇気が出なくてチャット画面を開くと、彼にチャットした最後の履歴が1週間前なのに安心する。「会いたい」と打ち込んですぐに消す。昨日ウチに来てもらったばかりだ。会いたいなんて言ったらめんどくさがられてしまう。「今から電話しても良い?」と打ち込む。しばらく画面を見て悩む。時計を見ると22時30分を越えている。意を決してチャットを送信する。ドク、ドクと心臓の音がはっきり聞こえる。既読はまだつかない。まだかまだかと既読を待つ。彼とアルマが一緒にいると認識してしまう。ギルドの更衣室の時ほどではないが不安になってくる。ベッドの上にある2つの枕の内、彼が使っている方をぎゅっと抱きしめ彼の残り香を感じる。何を話そうかと考えるが思い浮かばない。考えながらまだかまだかと画面を見ていると既読がついた。返信を待っていると彼からの通話着信音が鳴りドキっとする。私は電話の画面をタップした。

 

「フレイ。連絡が遅くなった。」

 彼の声を聞いて心臓の鼓動が早くなる。嬉しさを隠し返答する。

「ううん。昨日の今日なのに電話させてごめんね。」

 よし。無難な返答だろう。

「明日からアルマと行動するからその打ち合わせをしてたんだ。」

 アルマと一緒にいたと聞いて胸がチクっとする。

「いいの?電話で仕事の話しをして?」

 これも無難な返答だ。大丈夫。

「このくらいの話しなら問題ないだろ?」

 仕事の話しなら問題ない。でも今は私と話してるんだからアルマの話しはやめてほしい。胸が痛い。

「フレイ?聞いてる?」

 返事をしなければ。がんばれ私。

「うん。聞いてるよ。」

 一つ前の質問を飛ばしてしまった。

「フレイ、あのさぁ……。」

「うん。なぁに?」

 なんだろう。怖い。聞きたくない。胸が痛い。心臓が張り裂けそうだ。誰か助けて!

「今さ、マンションの前にいるんだけど今日も泊まっていいかな?」

 私は頭が真っ白になった。彼は今なんて言ったのだろうか?

「フレイ?ダメかな?」

 何がダメなの?

「フレイ?聞いてる?」

「ごめん。よく聞こえなかった。ごめんなさい。」

 ん、んと彼が喉を整える。

「今日も泊まって良い?」

 嬉しい。涙が出てきた。

「フレイ?泣いてるの?」

 早く抱きしめてキスして欲しい。

「嬉しい。早く抱きしめてキスして欲しい。」

 ああ。ちゃんと言えた。

「フレイ。今日は変だぞ?」

「うん。大丈夫。」

「何が大丈夫なの?」

「うーん。なんかが大丈夫なの。」

 笑ってごまかすことにしよう。

「早く来てよ。」

 急かすことにしよう。

「フレイ?話し聞いてる?」

「うん。聞いてる。」

「さっき言ったよ?今マンションの前って。」

 聞いていなかったようだ。

「ごめんなさい。すぐに鍵開けるね。」

 急いでエレベーターホールのロックを解除する。

「空いた!」

「エレベーター乗った?」

「運が良い。今から乗るよ。」

 何で45階に住んでるんだろう。エレベーターが到着するのが待ち遠しい。

「今何階?」

「今10階。」

「今何階?」

「今15階。」

「カギ開けとくから入って来たらすぐに抱きしめて。」

「…………」

「聞いてる?」

 電波が悪いのだろうか。玄関に移動する。

「シド?」

「…………」

「シド?聞こえる?」

 ガチャっと玄関が開くと彼が抱きしめてくる。電話を落としたけどどうでもいい。彼の胸に顔を埋めるとコッソリ彼の香りを充電する。抱きしめられるだけで気持ちが良い。ああ、もっとくっ付きたい。しばらく抱きしめ合っていると彼の腕の力がぬける。彼の両手が私の頬を支えて上に向ける。しばらく見つめ合っていると恥ずかしくなって顔から火が出そうだ。彼が私の真っ赤な顔を見てクスッと笑うと優しく唇を重ねてくる。彼はズルくて意地悪だ。いつも私を辱める。でもそれが心地よく気持ちいい。体が火照るのがわかる。彼は唇を離すと耳元で私に言う。

「昨日の夜は圧倒されちゃったから今日は覚悟してね。」

 私の身体に電流が走りピクっと反応すると下着を濡らしてしまった。彼は唇を重ねて舌を私の口腔に入れ蹂躙する。彼の手が私の気持ち良い所を触り始める。今日の夜の営みはカギの閉まっていない玄関から始まるようだ。

 

 ……長い夜が始まる……

 ……今日の夜が永遠に終わらなければいいのに……

 

 

 

 

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